ソーシャルメディアを意識し、読者の「思考のスイッチ」を入れる広告づくりを

 宝島社の企業広告のクリエーティブディレクターを務めたアサツー ディ・ケイの藤井徹さん。昨年に続きセンセーショナルなビジュアルとコピーが話題となり、ツイッターでは様々な意見や臆測、感想が飛び交った。

日本の歴史のページが大きくめくられる
この瞬間にふさわしいスケール感のある表現

藤井徹氏 藤井徹氏

――9月2日に掲載された宝島社の企業広告のテーマは? 東日本大震災を経験した日本人へのメッセージでしょうか。

 震災のことは意識していますが、それだけではありません。景気の低迷や政治不信、日本の未来に対し不安な人は大勢いると思います。そんな状況で宝島社として何かできることはないか、と考えていきました。それは、昨年の犬の広告(「日本の犬と、アメリカの犬は、会話できるのか。」というコピーと、シバイヌとラブラドルレトリバー2匹の写真でデザインされたもの)も同様です。これらの広告の役割を言葉にするならば「読者の思考のスイッチを押すこと」だと考えます。

 自分が大学生だった頃は、一般的に政治や経済の話は重くてダサイ、関心のないことでした。しかし当時から同世代の外国人の友人は、自分の国の情勢などに詳しかったのを覚えています。日本も数年前から政治や経済に興味を持つ若い世代が増えたと思っています。しかも最近では、震災が起きたことによってそれを一過性のことなどで終わらせられないということに、みな気づき始めています。真剣に考えなければいけないと、危機感が急速に高まったと思います。

――「いい国つくろう、何度でも。」というコピーとダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官が厚木飛行場に降り立つビジュアルはインパクトがありました。

 今、日本の歴史のページが大きくめくられ、世の中が変わろうとしている瞬間だと考えます。そんなスケール感を共有できる表現とは何か、宝島社とディスカッションを重ねた末に完成したものです。
日本は自然災害や戦争からの復興と、苦しい出来事や問題を幾度も乗り越えてきた歴史があります。日本人は捨てたもんじゃないぞ。個人的には、そんな思いを込めて作りました。「いい国」という鎌倉幕府成立の年号(1192年※)を覚えるための語呂合わせは、暗くなりがちな状況だからこそ、ちょうどいい軽やかさになったと思っています。
※現在では、鎌倉幕府の成立は1185年という説もあります。

――昨年につづき、ソーシャルメディアと新聞広告がマッチングした事例となりました。その作り手として、新聞広告の可能性についての意見を聞かせてください。

 ツイッターで話題になっていることを知ると、すでに新聞広告を見た人も、あらためて新聞を見直したりウェブで検索したりしていることが分かりました。「もう一度めくり直してみよう」と、新聞とウェブの双方を行ったり来たりしているんです。その経験から新聞広告はソーシャルメディアなどウェブの環境を意識して振る舞えば、伝えたいメッセージに厚みを持たせたり、新聞が持つ信頼性の高さをより際立たせたりする可能性もあると考えます。

2010年9月2日付 朝刊 宝島社 2010年9月2日付 朝刊
2011年9月2日付 朝刊 宝島社 2011年9月2日付 朝刊

自由に解釈できる余地を残す

――読者に「もう一度めくり直してみよう」と思わせることができたのはなぜだと考えますか。

 昨年も今年も、広告の中に宝島社の解釈を一切書いていません。それは広告を見た人が自由に解釈できるように意図的に行ったことです。もし「日本の犬と、アメリカの犬は、会話できるのか。」ではなくて「・・・・・・できると思う。」というコピーだったら、だいぶ印象は違ったと思います。
また、検索しても詳細はどこにもアップされていない。余計に「何、これ?」とつぶやきたくなったはずです。ウェブで「検索」をすれば、何かしらの答えが見つかる時代だからこそ、成立するのだと思います。

――宝島社の新聞広告は、新聞広告の在り方も提示したように思います。

 解釈は自由ですから、何かしらの「風穴」を開けるきっかけになっていたらいいなと思っています。私自身、「日本の犬と、アメリカの犬は、会話できるのか?」という自分が作ったコピーに感化されたんです。その広告制作期間中にカンヌの審査員として渡仏していて、海外のクリエーターとディスカッションをする機会が何度かありました。言葉の壁を感じる場面もありましたが、日本の代表の一人としてここに来ているのだから、言いたいことは全部言おうと決めたんです。ディスカッションが終わると「今までイメージしていた日本人と違ったよ」と、まわりの外国人から言われて照れくさくもあり、うれしかったのを覚えています。

――コピーの書き方は今と昔で変わったことなどありますか?

 何をどう言うか、それを考えることはプロとして当然のことです。今はそれだけではなくて、言葉を投げたあと、受け手がどう感じるのかを具体的にイメージし、ゴールを設けて言葉を作っていく必要があります。そうしないと、ただの「つぶやき」と同じになってしまいますからね(笑)。
「いい国つくろう、何度でも。」というコピーも、フレーズは大事だけど、読んだあと「ところで、いい国ってなんだろう」というムーブメントが起こることを期待した書き方をしたつもりです。書いて終わりではなくて、読者にとって何かを起動させるきっかけを作るというのが、コピーライターの仕事であり、もしかしたらクリエーティブディレクターの仕事なのかもしれません。

ガラケーとウォークマン メード・イン・ジャパンのものを愛用

ガラケー/ウォークマン ガラケー/ウォークマン

 これらはメード・イン・ジャパンです。ガラケーは海外で見せると驚かれます。ウォークマンは英会話のレッスン用。何もかも世界と同じになろうじゃなくて、日本の良さを信じ、弱くなっているところがあれば見つめなおし、そこからもう一度独自に復興していけたらいいと思っています。

藤井 徹(ふじい・とおる)

アサツー ディ・ケイ クリエイティブディレクター/コピーライター

1967年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1990年第一企画(現アサツー ディ・ケイ)入社。TCC東京コピーライターズクラブ新人賞、ニューヨーク国際広告祭銀賞、朝日広告賞、読売広告大賞、毎日広告デザイン賞、日本新聞協会新聞広告賞、広告電通賞、消費者のためになった広告コンクール金賞ほか、国内外の広告賞を受賞。
2010年カンヌ国際広告祭(現カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)日本代表審査員。

※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、藤井徹さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「新聞広告仕事人」Vol.27(2011年12月1日付夕刊 東京本社版)