地方創生を目指した「HESTAスマートシティ構想」が始動

1962年の創業以来、戸建住宅、分譲マンション、リフォームなどの住空間の提供や、ニュータウンの開発、会員制リゾートクラブの運営などを展開する大倉。昨年6月、「地方創生をやりきる」をテーマに、「HESTAスマートシティ構想」を掲げるなど、自社開発の製品やシステムを次々と繰り出し、「ふるさとのIoT化」を進めている。代表取締役の清瀧静男氏に聞いた。

――「地方創生」を社会的使命と明言されています。その思いについて。

清瀧静男氏清瀧静男氏

 大倉は地方に育てられた会社です。高齢化が進む地方を、都会に負けない便利で魅力的な街に再生できないか。そんな思いから、「HESTAスマートシティ構想」を掲げました。地域の暮らしに関する情報をクラウドで集めて「困りごと」を洗い出し、改善できるサービスや製品を開発していくという構想です。暮らしの情報を収集するには、あらゆるものをネットにつなぐIoTシステムを街に実装する必要があります。大倉は独自のスマートホームやスマートストア、スマートロッカーを開発し、事業化を始めています。

――「HESTA AIスマートホーム」の概要について。

 「HESTA AIスマートホーム」は、住設機器や家電などをネットにつなぎ、自在に操作できる仕組みです。HESTA専用の家電や機器は不要で、現在使用している家電などをそのままネットワークにつなげることができます。居住者の健康を管理する独自の仕組みも開発。各種センサーで就寝時の呼吸数や血圧などを測定し、健康管理に貢献します。

――「HESTAスマートストア」の概要について。

 「HESTAスマートストア」は、顔認証を採用した無人店舗です。事前に決済方法を登録しておけば、入店時に顔認証をすると、店舗内で手にした商品をセンサーで確認し、自動で決済できます。スマホでQRコードを読み取るなどの決済作業も不要です。「高齢者も使いこなせる」にこだわり、開発しました。

 自社開発はストアに置く食品にも及んでいます。例えば、カロリー計算がされた北海道素材のおいしい介護食。高齢者が高齢者を介護するケースが増える中、医療機関などと連携して高齢者にやさしいサービスを展開していきます。

――「HESTAスマートロッカー」の概要について。

 「HESTAスマートロッカー」も、顔認証を採用しています。ネット上のサイトで購入した商品を、暗証番号を入力しなくても簡単に受け取ることができます。アパレル大手の店舗の他、マンションの集合玄関などへの採用が始まっています。

――スマートシティの実現によって開ける未来とは。

 IoTシステムで得た暮らしの情報は、あらゆる価値を生みます。例えばスマートホームで蓄積した健康情報を医療機関と共有することで、在宅診療が進化する可能性があります。特に病院への行き来が困難な高齢者のケアに効果的です。大倉では高齢者でも簡単に操作できるテレビを使った在宅診療システムも開発しています。

 また、購買情報や家電の使用状況のデータは、新商品の開発などにも役立ちます。大手メーカーと協業関係を構築し、市場ニーズに合致した新商品・サービスの開発を展開する計画です。ネット通販大手などと組めば、各家庭の暮らしに必要な商品を個別にリコメンドするなどのサービスが可能になります。

――「ローカル5G」を進める意図と、ビジネスの可能性について。

清瀧静男氏

 クラウド経由で大量の情報をやり取りするためには、通信網の整備が不可欠です。そこで特定のエリアを5G環境にする「ローカル5G」事業にも参入しています。第1弾として、大倉が30年ほど前に開発した兵庫県三田市のニュータウンに5G網を敷設。近く在宅医療や無人走行車による買い物支援サービスなどを始めます。創業59年目を迎える大倉は、もともとニュータウン開発が主力。三田市以外のニュータウンでもローカル5Gによるスマートシティ化を進める構想です。

 高齢者が住みやすいスマートシティは、すなわちお子さんが住みやすい街です。コロナ禍の影響でリモートワークが急速に増える中、子育て世代が実家のニュータウンに戻りたくなるようなシティづくりを目指しています。

 スマートシティ構想を掲げる企業は多いですが、大規模で実用化したケースは国内にはまだありません。大倉はまず、自社で開発したニュータウンをIoTで再生するモデルケースを作り、それを同じく地方の宅地開発を手がけてきた鉄道会社などに提案していきます。自ら地方創生の「点」を作り、協業先とともに「面」に広げる戦略です。

――新事業や、今後の成長分野は。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、大倉が独自開発した次世代型空気清浄機「HESTAエアクリーン」が、全国の病院や企業、教育機関、宿泊施設、飲食店などで幅広く採用され、販売数が急伸しています。

 新素材を使った設備の開発にも取り組んでいます。例えば炭素系新素材「HESTAグラフェン」は、すでに鉄道や防衛省の施設などで採用いただいていましたが、より広い用途で活用できるように大量供給体制を整えました。グラフェンは、熱伝導性、強度、軽さ、薄さなどに優(すぐ)れており、道路融雪、床暖房、屋根融雪などの設備における省エネやコスト削減を実現しています。

 AI顔認証カメラによってストーカーの接近を察知し、被害を未然に防ぐ「HESTAストーカーカメラ」も近く展開する予定です。

――心に残っている職務経験は。

 新日本製鐵の技術開発本部にいた時は、一つの製品を作るのにこれほど気が遠くなるほどの実験を重ねているのかと驚きました。モノづくりの真髄に触れた経験は、現在注力しているIoT製品の開発、ロボットの開発、新素材の開発などにかける思いにどこか通じている気がします。

――清瀧会長は、かつては野球に情熱を傾け、1993年夏の全国大会には主将として出場されました。学生時代のキャプテンシーを経営にも生かしていますか。

 自分に特別キャプテンシーがあるとは思いません。ただ、主将をしていた時は「部員の気持ちを乗せることがリーダーの役割」と思っていました。そうした姿勢は今も変わっていません。社員の気持ちを乗せることが私の役割だと思っています。そのために、叱らない、自主性を尊重する、失敗を責めない。こうしたことを意識することで、社員の表情が生き生きとしてきました。コロナ禍でも増収増益を達成できそうで、結果も出ています。社員には「会社が安定しているうちに、もっと失敗しろ」と話しています。

――愛読書は。

清瀧静男氏

 野球やスポーツを題材にした本を手に取ることが多いです。岡田龍生さんの著書『教えすぎない教え』は、選手の自主性を尊重する指導法について書いており、経営にも通じる内容だと感じました。侍ジャパンを率いた小久保裕紀さんの著書『開き直る権利 侍ジャパンを率いた1278日の記録』、陸上競技で活躍された為末大さんの『生き抜くチカラ』も好きな本です。ビジネスのヒントになったのは、松下幸之助の『指導者の条件』。最近では台湾デジタル担当政務委員オードリー・タン氏の『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』を興味深く読みました。

清瀧静男(きよたき・しずお)

大倉 代表取締役

1975年和歌山県生まれ。91年近畿大学附属高校入学。92年、93年に全国高等学校野球選手権大会出場。
95年新日本製鐵入社。2001年ミキハウス入社。08年大倉入社。役員を歴任し、2013年から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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