「フィンテック(Fintech)」

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金融とIT、膨大なビッグデータを融合させることで、未来的で革新的な決済システムや投資方法などを生み出そうという動きが活発化している。このような新しい金融サービスをフィンテック(Fintech)という。

 フィンテックとは、ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語である。もともとはITを基盤とした革新的な金融サービスを提供するベンチャー企業を指す用語であったが、昨今は、冒頭で述べたようにITを基盤とした革新的な金融サービス自体を指す用語となっている。

 フィンテックには、決済、送金、支払い、投資、個人ローン、資金仲介など様々なサービスがあり、また、現在も様々な新サービスが開発されようとしている。フィンテックが成長している背景には、インターネット、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、クラウドコンピューティングサービス、スマートフォンの普及がある。

 例えば、「マネーフォワード」。これは、スマートフォンにダウンロードすることで、利用するクラウドサービス型の家計簿アプリだ。銀行やクレジットカード、航空会社のマイレージなどあらゆる口座情報を(もちろん自分の財布の残金も)登録して管理することができる。通常の家計簿アプリのように日々の収入や支出を手軽に入力できるだけでなく、登録された各口座の情報も自動的に更新されるため、常に、自分の資産状況が把握できる。しかも、登録ユーザー情報をもとに、自分と似たユーザーと比較して「食費は多いが、教養・教育費の出費が少ない」といった情報が一目瞭然となる。また、「今の生活をこのまま続ける場合、20年後には、貯金がゼロになる」という具合に、資産の老後における見通しまで提供してくれるのだ。

 インターネット、SNSを活用した資金調達方法といえば、特定のプロジェクトなどの資金調達をするために、多くの人々に少額の出資を呼びかけるクラウドファンディングが代表的であるが、他にもユニークな資金調達サービスが生まれてきている。例えば「Vouch(バウチ)」。このサービスの最大の特徴は、自分が周囲からどれだけ信頼されているかによって融資枠や金利が変わるというユニークな仕組みだ。融資を希望する人は、まずVouchに登録し、自分を保証してくれる知人を招待する。保証人となってくれる知人が増えるごとに融資枠が広がり、金利も低減されるというわけだ。

 複数のクレジットカードやATMカードを1枚にまとめられるサービスも登場している。例えば、カード型ウォレットの「Stratos(ストレイトス)」。同社のウェブサイトによると磁気ストライプのあるカードであれば、銀行のATMカード、クレジットカードはもちろんジムなどの会員カードまであらゆるカードを1枚にまとめられるという。

 フィンテックは、近距離無線通信規格のBluetooth Low Energy(BLE)を利用したBeacon決済など、店舗の決済やプロモーションの在り方にも大きな変化をもたらしている。例えば、iPhoneのiOS7には、消費者の位置情報がわかる「iBeacon」が標準搭載されているが、「iBeacon」のアプリをインストールしたユーザーが、Bluetoothをオンにした状態で店舗内に入ると、自動認識される。すると自動的にアプリが立ち上がり、自分の好みに合った製品やサービスの情報やクーポンなどの特典が画面に表示されるといった具合だ。

 店舗にきた行動履歴も取得できるため、「次回のご来店で、素敵なプレゼントを差し上げます!」といった情報提供により、再来店を促すこともできる。実際に商品を購入したユーザーは、店内で品物を受け取り、アプリ上でもその商品を選択したまま退店すれば、事前に登録したクレジットカードで自動的に決済される。クレジットカードの決済事業者は、誰が、どこで、何を購入したかという購買履歴を属性データとともに把握しており、これらの情報をもとに、マーケティング戦略におけるターゲットの選定、プロモーション情報の提供、さらには効果検証まで一括で行うことも可能だ。

 以上のようにフィンテックは、私たちの日常の決済を含む金融取引を、劇的に便利にしてくれる可能性を秘めているだけでなく、企業のマーケティング戦略、プロモーション戦略に与えるインパクトも大きいといえる。一方で、日本では、いまだ導入されていないサービスも多い。今後のフィンテックの発展においては規制緩和などの必要性も検討されるであろうが、導入期においては関連企業における競争だけでなく、知見の交換など共働も不可欠だ。そのようなことから、日本においても一般社団法人FinTech協会が、2015年9月に発足されているが、同協会の会員一覧(2015年11月10日時点)をみると、現在金融、IT系の企業が中心だ。

 今後は、同協会に広告会社などマーケティング・ソリューションを提供する企業も加わり、マーケティング・ソリューションとしてのフィンテックの発展とともに、日本発でグローバルに展開されるフィンテックにも大いに期待したい。

井上 一郎(いのうえ・いちろう)

アサツーディ・ケイ ストラテジック・プランニング本部 360ソリューション・デザイナー/商材開発室長/ADK SOCiAL DESiGNiNG 所長

1989年旭通信社(現ADK)入社。新聞局などを経て2006年第2クロスメディア局長。13年から現職。日本広告学会理事など。SPIKES ASIA 2011 メディア部門銅賞受賞。『R3コミュニケーション』(共著)など。