「メディアエクステンション」

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「メディアエクステンション」とは、スマートフォンの普及と進化により、メディアにまつわる生活者の行動領域が、これまでの「読む、見る、聞く」などといった行動から広がっている現象のこと。

 2014年、スマートフォン(スマホ)の普及は6割を超えようとしている (※)。スマートデバイスの一般化によって、私たちの生活には「スクリーン」が増え、生活者とメディアの付き合い方にも変化の兆しが見える。これまで生活者は、読む、見る、聞くといった行為を中心にメディアと関わってきた。しかし、スマートデバイスを手にした生活者はそうした行為にとどまらない。メディアに接触しつつ、同時に何かを調べ、買い、情報をやりとりする……。生活者の行動領域は、これまでにないスピードで様々な広がりを見せている。

 こうした状況の下、定性的な側面、例えば「生活者はテレビのどのような情報に反応し、スマホを使うのか」「何を目的にスマホを操作するのか」「どのような機能・アプリをどのくらいの頻度で使っているのか」について見てみたい。

 まず、スマホによるWeb・アプリ同時接触率の推移の調査について。この調査は、ログ解析という手法を使った。ログ解析は、調査対象者の記憶に頼る調査と異なり、生活者の行動をトラッキングすることで計測データを蓄積していく手法。特定日ではなく、常に計測しているのがポイントで、生活者の行動の事実を見ることができる

 ドラマ番組のスタートと同時にWeb・アプリ行動が始まっている(図1)。 メディア別にグラフの色を変えているが、黄緑色は「LINE(ライン)」。番組視聴中にコミュニケーションが活発に行われている様子が伺える。途中、急激に同時接触率が下がるが、ドラマの内容を確認してみると、“目が離せないシーン”だった。テレビ画面に集中し、同時行動が減った様子が伺える。グラフ1本が毎分を表しているが、1分ごとにグラフの高さや色が変わっていることから、様々な行動が瞬間、瞬間に行われていることがわかる。

図1

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 様々なコーナーがある情報番組の場合は、その変わり目や盛り上がりの瞬間は同時行動が少なくなっている(図2)。逆に、対談などで登場人物が決まっており、画面を目で追わなくても耳で聴いていれば内容がわかる時などには同時行動が増えている。

 Web・アプリ行動を見ていると、テレビの視聴を奪う行動というより、番組視聴時のメディア行動が広がっているという印象を受ける。

図2

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 ドラマと情報番組での行動の違いを比較する。

 情報番組でのWeb・アプリ行動を見てみると、ドラマより情報発信の行動が少なく情報収集行動、つまり「インフォメーション行動」が多くなっていることがわかる。番組から発信される様々な情報に刺激されて、行動を起こすために情報収集している様子が見える。

 ドラマでのWeb・アプリ同時行動は、LINE、フェイスブック、ツイッターなどの情報発信行動、つまり「コミュニケーション行動」が目立つ。ここでは紹介しないが、1時間で使用したアプリだけでも多くの行動(20種類以上)があることもわかった。

 今回の結果からは、ドラマでは「コミュニケーション行動」が、情報番組では「インフォメーション行動」が広がっていることが確認できた。番組のジャンルや内容によって、行動に違いがあることが推測される。

   

 ふだん、私たちは生活者のメディア接触を「1日あたり385分。このうちテレビは~、新聞は~」と、アンケート調査を通じて整理分類して捉えているが、ログデータからその実態を探ると、重複接触が前提だったり、分単位、秒単位で様々なアクションを起こしているなど、生活者の行動はより複雑化していることがわかった。

 いま生活者は、マルチスクリーン環境でリアルタイムに様々なアクションを起こしている。この点を、広告主のマーケティングの視点で解釈すると、生活者が動き出すその一瞬をマルチスクリーン環境でどう捉えるか、が今後ますます重要なポイントになっていくと考えられる。

(注)博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の「メディア定点調査2014」では2014年2月現在のスマートフォン普及率は59.1%

加藤 薫(かとう・かおる)

博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所 上席研究員

1999年博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの担当営業を経て2008年より現職。エンタテインメント領域を中心に、放送、デジタルメディア、日本のコンテンツの海外展開、コンテンツファン動向について研究している。主なレポート :「コンテンツファン消費動向調査」(2011~)、「今、生活者が求める“Media Experience”とは?(2013)」など。