「データ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)」

 今年度に入ってから、広告主・媒体社・広告会社などの担当者からよく発信されているキーワードの一つがDMP(Data Management Platform)だ。今回はこのDMPについて、いくつかのポイントに整理してお伝えしたい。

1.DMPとは何か

 DMPという言葉は各事業者が様々な定義をしており、一つの定義が存在しているわけではない。あえて定義すれば「顧客(オーディエンス)データベース」と言っていいだろう。
  データに関わるテクノロジーやハードウエア自身、またデータを利用したソリューションがそれぞれ進化したことで、従来から重要視されていたデータそのものが改めて注目されている。従来から顧客分析を大量のデータを使って実行している企業にとっては、何が新しいのか全く意味不明という状態なのかもしれない。
  しかし、多くの企業にとっては、自社のマーケティング活動の基礎となる大量のデータをDMPに蓄積していくことは、将来を見据えた新しい取り組みであることは間違いないだろう。
それでは、DMPはどのようなデータを集めていく「顧客データベース」なのか。

2.DMPはどのようなデータを扱うか

 DMPというプラットフォームが扱うデータは次の通り。ただし、この整理はあくまで一例であり、各DMP事業者のシステム仕様やその利用法によっては定義が異なる場合がある。
(1)自社のデータ
  ・自社サイトにDMPのタグを埋め込んで取得できる、自社サイト訪問者のデータ
  ・どのページを閲覧したのか?アクションを起こしたのかそうでないのか?などのデータも含む
(2)媒体社のデータ
  ・媒体社のサイトにDMPのタグを埋め込んで取得できる、媒体社サイトの訪問者データ
  ・媒体のコンテンツごとに訪問者データをセグメントしたもの
(3)その他のデータ
  ・企業の会員データ(もちろん匿名化後)にひも付いた行動情報、検索履歴、購買情報などのデータ
  ・実店舗での購買履歴
  ・位置情報データ、天気予報データ、株価データなど

 続いて、これらのデータを使って企業はどう進化できるのかをあくまで一例だが、考えてみたい。

3.DMPで進化すること、期待する成果(例)

(1)広告ターゲティング精度の向上
  ・データを活用し、ターゲティング精度を上げ、かつそのターゲットにリアルタイムで広告を届けられるようになる。
(2)自社サイトの顧客の分析によるオンライン施策の見直し
  ・従来わからなかった自社サイト訪問ユーザーの情報(デモグラフィック・好みなど)がわかるようになる。
・訪問後、すぐに離脱し成約に至らなかったユーザーの詳細データを把握し、クリエーティブや出稿媒体の見直しを行う、といったアクションを取ることができる。
(3)商品開発・コミュニケーションプランの策定など
  ・従来、取得できなかった新たなデータを分析することで、例えば新たな商品開発のヒントを得たり、従来とは違った視点からのコミュニケーションプランを作ったりすることができる。

 最後に、「データはあるけど、どういう形で使っていけばいいのか・・・・・・」という疑問に対し、実際にどのようなステップでデータの活用・運用をしていくのか言及したい。

4.DMPの運用ステップ(広告配信の最適化を目的として活用する場合)

【STEP1】データを「集める」
  まず、自社サイトにDMPのタグを設置し、自社訪問者のデータ(クッキー)を集める。すべてのページにタグを入れることが本来は望ましい。アクセス解析ツールとのシステム連携も検討する。データを他社から購入することも協議していくフェーズだ。

【STEP2】データを「分析し・分類する」
  DMPにたまっているデータを一定のルールのもとで分類していく。このルールは企業や目的ごとに異なり、一度のルール作成で終わることはなく、常に改定を行っていく。これらの「特定のルールに従ってデータを分類したもの」をセグメントと呼び、STEP3で活用。このセグメントも常に追加・削除・改良を行う。

【STEP3】データを「使う」
  ここでは、もっともシンプルでわかりやすい利用方法を紹介したい。
  現在のオンライン広告は、「20代男性」「自動車に興味がある」という、ある意味決められたジャンルでのターゲティングが一般的だ。これに対してDMPを用いると、自らで考えてセグメントを作成し、そのセグメントに広告を配信することができるようになる。例えば「○○○というキーワードで検索して、サイトに訪問してくれた人に、特別なクリエーティブで広告を改めて見せる」「サッカーが好きで関東地方に住んでいる人の集団へ広告を見せる」といったことが可能になる。もし、ものすごく有効なセグメント案を思いつけば、そのセグメントを実際に作るのに必要なデータを買ってくるというアクションも今後生まれてくるだろう。

 今回、オンライン広告の配信についての活用方法を紹介したが、広告配信以外でのデータ活用方法でもおよそこのステップは変わらないだろう。
リスティング広告などの運用型広告と同様、DMPも「運用しPDCAサイクルを回す」ことで、「各企業が求める成果」に近づいていくものである。
  企業は自社のデータをどう活用するかを徹底的に考え、データを読める人材を育成し、さらには自社以外のリソースも効果的に使いながらこの領域に取り組んでいくことが今後ますます必要になるだろう。(また、収集する個人情報の取り扱いについても、匿名化処理などを含めて課題も多く、十分な議論や検討を行っていく必要がある。)

柴田貞規(しばた・さだのり)

博報堂DYメディアパートナーズ データマネジメントプラットフォーム部長

1996年からネットビジネスに関わり、現在まで、制作、開発、コンテンツ編成、オンライン広告領域を幅広く経験。2007年に博報堂DYメディアパートナーズに入社。運用型広告(リスティング広告、アフィリエイト広告、DSP)の領域の責任者として、運用体制の構築・販売推進を行う。13年4月から現職。