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「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」

アサツー ディ・ケイ M&D事業統括本部 R&D局長 田口 仁氏
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脳の活動信号を利用して、外部の機械やコンピューターを操作する技術の総称。医療や介護の分野では、身体に障害がある人の運動機能を補完するための研究が進んでいる。近年では、インターネットを通じて人間同士の脳をつなげようとする実験も行われている。

 1973年に放映されたTVアニメ「バビル2世」。超能力を受け継いだ主人公が世界征服をたくらむ敵から地球の平和を守るため戦いを繰り広げる姿を見て、ワクワクした経験のある方も多いだろう。主題歌の歌詞にあるサイコキネシスとは、念じただけで外部のモノを自由自在に動かせる能力である。あれから44年。その力はアニメの世界の話だけではなくなるかもしれない。

 BMIは脳内の活動によって生じる信号を測定し、それを使って外部にある機械やコンピューターをコントロールする技術である。日本で「バビル2世」の放送が始まった頃、アメリカではNSF(国立科学財団)やDARPA(国防高等研究計画局)といった機関がBMIの研究に着手。その目的は、戦争で負傷した兵士の脳や身体機能の回復を支援することだった。

 信号を感知するセンサーや、その信号をデータに変換して高速で計算処理を実行するコンピューターの性能が格段に向上したことと歩調を合わせるかのように、BMIは近年になって目覚ましい進歩を遂げている。2013年に当時のオバマ米国大統領が人間の脳機能を解明する「ブレイン・イニシアティブ:Brain Initiative」を発表。アポロ計画やヒトゲノム計画にも匹敵する同プロジェクトには10年間で45億ドルの研究開発費が投入される予定である。14年の世界経済フォーラムで公表された有望な新技術トップ10の一つに、BMIがその名を連ねている。

 高齢化が進む日本。医療や介護の分野では、念じることで動く車椅子や義手・義足の開発が進められている。その一方で、最近ではBMIを家電やコンピューターにつなげる研究も盛んに行われている。誰もが一度はリモコンを使わずにテレビのチャンネルを替えてみたいと思ったことがあるだろう。ATR(国際電気通信基礎技術研究所)はリモコンを向ける動作の際の脳活動を検知し、強く念じなくてもテレビの電源が入る技術を開発。エアコンや照明でも同様の仕組みでスイッチが起動することを実演した。海外ではThis Place社が脳波を読み取ってGoogle Glassを操作し、写真撮影やSNSへの投稿ができるアプリ「MindRDR」を公開している。

 計測した脳活動の内容を直接インターネットにつなげて相手側の脳に送る研究も行われている。デューク大学ではレバーを引くと水が飲めることを学習しているラットの脳信号を取り出し、インターネットを経由してリアルタイムで別のラットの脳内に伝送する実験を行い、信号を受け取ったラットがレバーを引いて水を飲むことを学習したと発表した。ワシントン大学ではシューティングゲームを操作しているプレーヤーの頭にセンサーを装着して脳信号を検知。インターネットを経由して別の人間の脳にその信号を送る実験を試みたところ、信号を受け取ったプレーヤーも同様の操作を行ったと報告している。

 脳科学の知見や手法を活用して、消費行動を解明しようとするニューロマーケティング。04年のコカ・コーラとペプシコーラの選好実験は、当時の広告業界でも話題となった。脳の活動部位や脳波を測定して商品デザインや広告表現を評価するサービスについては、既に大手の調査会社が提供しているが、BMI技術が更に洗練されていくにつれてニューロマーケティングも劇的な進化を遂げると予想される。頭に浮かんだイメージをそのまま他者と共有するというまるで映画のようなシーンもにわかに現実味を帯びている。喜怒哀楽といった感情の質や量は個人によって異なるものだが、BMIを通じて全く同じような感情を他人と共有し、真の意味での共感状態を作り出せるかもしれない。

 マーケティングのみならず社会生活そのものを一変する可能性を秘めているが、今後はその負の側面も注目されるだろう。もし脳内の情報を精緻(せいち)に読み取って他人の心や記憶を意のままに操作できる技術が実現すれば、戦争やテロなどの犯罪行為に悪用されることも危惧される。脳神経科学の分野における実験や治療行為に関する倫理学上の問題を扱うニューロエシックス(脳神経倫理学)では、飛躍的に進歩するBMIによって引き起こされる社会的な問題について脳研究に携わる研究機関や学会が議論し、その技術が悪用されないための倫理規定を設ける活動を展開している。

田口 仁(たぐち・まさし)
田口 仁氏

アサツー ディ・ケイ M&D事業統括本部 R&D局長

メーカー勤務を経て1999年アサツー ディ・ケイ入社。
主に研究開発部門に所属し、ブランディング手法の開発や、統計・機械学習手法を活用したマーケティングデータ解析などを担当。日本広告学会会員。日本消費者行動研究学会会員。2017年より現職。

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