「来店計測」

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スマートフォンの普及により、様々な手法によって消費者の屋外での行動が計測できるようになっている。この位置情報データを、デジタル広告の接触履歴とひも付けることで、広告効果を実行動にまで拡張するのが来店計測である。

 従来のデジタルマーケティングは、オンライン領域で購買プロセスが完結する業種が中心となって発達してきた。例えば、ECのように直接的な購買をウェブ上でできるものや、サービス自体がウェブ上で行われるオンラインゲームの会員獲得などが挙げられる。クレジットカードや生命保険など、ウェブ上での新規顧客獲得と親和性が高い業種は、積極的にデジタル広告に予算を投下している。

 一方で、ウェブ上で検討行動があまり行われない日用品や、実物を見たり試したりしてから購入に至ることの多い高額の耐久消費財などは、広告の効果を測りにくい。本来、デジタル広告はさまざまな効果指標を計測できることが、従来型のマスメディア広告と比べて、大きな利点であるにもかかわらず、デジタル上で購買が完結しない広告主は、この利点を享受することができなかった。そのため、デジタル上に資料請求や来店予約などの中間指標を作ったり、ソーシャルメディアで盛り上がることを目的にしたりと、間接的な目的設定と効果検証に留まってきた。

 こうした間接的な計測しかできなかった状況を打破したのが、位置情報データである。スマートフォンの普及によって、消費者のオフラインの行動ログはより精度が高く、過去の行動履歴が蓄積されることで情報量が増加した。位置情報単体で来店したかを判定するのではなく、オンラインでの広告接触ログとひも付けることのできるサービスも登場している。それは、一人ひとりのスマートフォンの中における位置情報と広告接触のそれぞれのログを、各スマートフォンが持つCookieや広告IDとひも付けている。これらのデータを匿名化し統計的に処理することにより、ユーザーの個人情報を保護しながら、どの広告に接触したユーザーが来店したかを可視化できるようになった。つまり、来店に貢献する広告と、そうでない広告を比較し、PDCAを回していくことが可能になったのだ。

自動車の事例

 しかし、来店計測のためのデータ選定には、前提となるいくつかの基準と課題がある。1つ目は計測範囲だ。広告のクリック経由の来店者だけが測定の対象なのか、あるいは広告の視認効果や、自社サイト内の行動まで測定できるのか、によって、可視化できる範囲は大きく異なってくる。そして、技術的課題として、スマートフォンの広告は一貫したトラッキングが難しいという点がある。クッキーでの計測か、広告IDでの計測か、という点で検討が必要だ。

 2つ目はデータの偏りだ。外部の位置情報データのデータソースによっては、サンプルとして偏りが大きい。サンプル数が足りない場合や、来店していない通行人も誤って検知してしまう誤検知の問題がある。そして、外部データではなく、自社のアプリなどで来店計測を行うと、自社のアプリを入れている顧客に偏る懸念もある。現状では、「全てが完璧」というソリューションが存在しないため、自社の状況に応じて最適なソリューションを選定する必要がある。

 こうした課題があるものの、来店計測が実現すると、消費者一人ひとりに、より最適なコミュニケーションを提供する、デジタル本来の強みを発揮することができる。位置情報データは、そのために必要なインフラであり、かつ広告成果向上のために避けて通ることはできない。オンラインとオフラインの計測の壁を越えることが、「挑戦」ではなく「前提」となる時代は、もうそこまで来ている。

三谷壮平(みたに・そうへい)
三谷壮平氏

電通デジタル ソリューション企画部

ダイレクト系広告主のデジタルROI改善業務を経験後、ブランド系広告主においてもパフォーマンスファーストでの設計を志向し、単に「獲得」に留まらないKPIの拡張事例を数多く創出。アドテクノロジーを活用した運用基盤構築や効果測定モデル設計に強みを持ち、大手ナショナルクライアントのマーケティングのデジタル化をリードしている。