「非対面接客」

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企業が提供する、ウェブサイトやモバイルアプリを「場」とした、オンラインでの有人の応対サービス。生活者は、チャットやビデオの手段を使って、サポートが必要なときにその場でコンタクトセンターのオペレーターにつながり、接客を受けることができる。

 スマートフォンの普及により、人と人とのコミュニケーションが、対面あるいは電話での会話を前提にしたものから、テキストチャットの形式が一般的になって久しい。友人・知人とはLINEやSMSなど、企業内ではSlackやSkypeなどで、例えば移動中の電車の中で細切れの時間を使い、何かをやりながらのコミュニケーションが当たり前になっている。

 欧米では、個人間のやりとりにとどまらず、企業が提供するサービスとして、こうしたチャット形式のコミュニケーションが10年以上も前から浸透している。欧米の大手金融機関では、ウェブサイトやインターネットバンキングにおいてテキストチャットや画面共有を接客ツールとして使い、申し込みサポートやトラブル解決をすることで顧客のロイヤルティーを向上させている。

 金融機関のウェブサイト、インターネットバンキングが顧客にとって分かりにくいというのは、海外だけの問題ではない。国内に目を向けると、2013年に実施した金融機関のカスタマーサービスに関する生活者調査(※)では、「何らかの目的を持って金融機関のウェブサイトに来訪したにもかかわらず、不明点がありそのまま離脱した(コールセンターに問い合わせたり自力で調べたりしなかった)」という経験を持つ生活者が、全体の約半数を占めていた。こうした実情をふまえ、日本でも2014年ごろから大手金融機関をはじめとして、テキストチャットでのやりとりを主とした非対面接客の導入が広がっている。


 テキストチャットを使った非対面接客の形式は大きく二つある。一つ目は、ウェブサイトに来訪してきたお客さまに何か不明点があった際、「何かお困りですか?」とバナーやボタンを表示し、その場で操作をしながら問い合わせができる「同期型」の形式である。この形式の企業側の利点は、これまで電話で受けていた問合せをチャットに移行することで生産性を上げること、これまで離脱していたかもしれない顧客の機会損失を防ぐことの二点が挙げられる。前者は、電話では必ずオペレーターと顧客の一対一でやりとりする必要があるが、チャット形式になると、一人のオペレーターが複数人の顧客を同時に対応できるからである。


 二つ目の形式は、LINEのような非同期型のコミュニケーションである。同期型の場合、その場限りのやりとりになり、顧客にとっては「いま知りたいこと」を解決するには有用だが、その内容をふまえて後日続きの問い合わせはできないことになる。企業のモバイルアプリやLINEのようなコミュニケーションプラットフォームを使い、顧客も企業もお互いが「誰か」を分かった状態でやりとりすることで、いつでも続きのやりとりができる。その場の不明点の解消だけでなく、契約手続きや資産相談等、これまで対面でおこなわれてきた込み入った相談事が、非対面でも受け付けられるようになる可能性がある。これを「非同期型」と呼んでおり、顧客にとって何かあれば相談できる営業担当者と、スマートフォンを通じてつながっている状態を企業側は演出することができる。

 今後は、テクノロジーの進展に合わせ、既に導入が進んでいるチャットbotと有人チャットとの有機的な組み合わせによる接客やスマートスピーカーを使った音声会話への転用など、その形態は顧客の生活スタイルに合わせて進展していくであろう。金融機関にとっては、いかに顧客の生活導線に入り込み、ニーズをいち早くつかめるか。非対面接客をうまく取り入れることは、その一助となるだろう。

※電通国際情報サービス調べ

猿田 恵(さるた・めぐみ)
猿田 恵氏

電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部DXビジネスユニットクラウドビジネス部

開発部門にてメガバンクのシステム案件を担当後、企画部門にて金融リテール領域のマーケティングを担当。地方銀行の投資信託・カードローンのウェブサイト導線分析に基づく販売戦略、流通系銀行のマーケティング運用サービスの立ち上げ、大手銀行で初となる非対面チャネルの接客サービスを導入するなど、リテールマーケティングを軸としたサービスの企画・運用を主要業務とする。