金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!

Vol.5 サンスター「G・U・M」

 心臓疾患や糖尿病など、近年さまざまな病気との関連の可能性が研究されている口腔(こうくう)衛生。サンスターの「G・U・M」シリーズは、歯周病の原因となる細菌とたたかう画期的なオーラルケア商品として、1989年に誕生。歯磨剤(歯ミガキ)に新しいジャンルを開拓しました。歯周病予防の啓発や今日までのマーケティング戦略などを、同社マーケティング部長の田中英治氏に聞きました。

オーラルケアマーケットを魅力的なものに

金森氏 「G・U・M」のお話をうかがう前に、サンスターとオーラルケアのそもそものかかわりについてご紹介いただけますか。

田中氏 創業当時の弊社は、自転車のタイヤ・チューブ用のゴムのりを、金属チューブに入れて製造販売していました。そのチューブを使って何か別のことができないかと考え、1946年に歯ミガキを入れて発売したというのがサンスターのオーラルケア事業の始まりです。つまり日本で初めてチューブ入りの練歯ミガキを発売したのは弊社で、7割くらいのシェアをとっていた時もありました。

金森氏 それまでは歯ミガキといえば粉、いわゆる「歯ミガキ粉」だったわけですね。そこに練歯ミガキという先進的な商品を出し、チューブ入りの使いやすさでリードした。その後は資本力のある競合が参入して、競争はし烈になったと思いますが。

田中氏 歯ミガキや歯ブラシというのは、基本的には低関与商品です。商品や広告の力も大切ですが、いかに店頭に商品を並べるかが大きい。流通網の強い競合との戦いは大変厳しく、昭和40年代には他社と提携していた流通戦略の見直しなどもあり、歯ミガキのシェアも2位以下に落としてしまいました。

金森氏 そのころの市場の状況はどのようなものだったのですか。

田中氏 歯みがきの基本機能としては「虫歯を防ぐ」ことがありますが、高度成長期に各社から「歯グキの腫れや出血を抑える歯ミガキ」が登場しました。その後「口臭を予防する歯ミガキ」「歯を白くする歯ミガキ」が市場に出てきます。80年代あたりにはこの4つに機能が集約されるとともに、歯ミガキはお客様が高い値段で買ってくださる商品ではありませんでした。メーカーも流通も、自社の売上やシェアを上げたいがために単価を下げる。それで売れたとしても利益は出ない。業界全体がそういうジレンマに陥った中で、当時のサンスターのマーケティング関連部門の合言葉は「マーケットを魅力あるものにしよう」でした。

金森氏 小売店も卸店もメーカーも幸せにならない状況を変えたいと。それが“歯周病菌とたたかう歯ミガキ”として誕生した「G・U・M」につながるわけですね。

モノを売る前に、歯周病啓発の情報を伝える

田中氏

田中氏 「G・U・M」シリーズの立ち上げは1989年のことです。実はサンスターでは、歯周病の原因究明のための研究をその10年ほど前から始めていて、アメリカの大学の研究チームに研究員を派遣していました。当社にとって幸いしたのは、歯周病の原因菌が分かり、それを殺菌する処方の成功という研究側の成果が出た時と、歯周病に対する社会の関心が高まりつつあった時のタイミングが重なったことです。

金森氏 それまで歯グキのトラブルといえば、消費者がイメージしたのは歯槽膿漏(しそうのうろう)でした。歯周病という言葉が一般的になったのも、「G・U・M」の登場からだと思います。

田中氏 「G・U・M」のマーケティング戦略として私たちが言い出したのは、「歯槽膿漏というのは歯周病のひとつで、その原因はお口の中の細菌です」ということです。従来の歯みがきは、歯グキからの出血を止めたり腫れを引かせたりするといった対症療法的なものでしたが、「G・U・M」は根本解決を目指す歯ミガキです。そして商品を売る以前に、歯周病とは何か、その原因は何かを社会に伝えるということから始めたのです。

金森氏 消費者が知らなかった事実を開示した。かつてヨーグルト飲料が、ピロリ菌という悪い菌がおなかの中にいることを伝えて、売り上げを伸ばした事例に似たアプローチですね。

田中氏 さらに「G・U・M」の追い風になったのは、当時の厚生省や日本歯科医師会が、歯周病に対する取り組みを始めたことです。「80歳まで20本の歯を残そう」という8020運動が始まったのもちょうど1989年。まったく偶然に「G・U・M」の発売時期と重なりました。当時の弊社には極端に言えば「世の中から歯周病が根絶することが我々の存在意義である」くらいの強い思いがありました。逆にいえば、「G・U・M」はそれくらい大きな夢を社員に与えたのだと思います。

田中氏 金森氏

田中氏 金森氏

販売は「G・U・M」全体の売場を作れる小売店のみ

金森氏

金森氏 発売当時、「G・U・M」にとって非常にタイミングに恵まれていたチャンスを、より生かすためにされたことは何でしょうか。

田中氏 社会的に歯周病への関心が高まっていたとはいえ、一気に売り上げを伸ばそうとはしませんでした。発売当初の「G・U・M」のデンタルペースト(歯ミガキ)の定価は500円。当時、一般の歯ミガキの定価は250円で、実売の平均価格は200円を切っていましたから、倍以上の値段です。それを歯周病の情報と商品の訴求ができる売り場が必ず作れて、値段もしっかり守って、「G・U・M」を育成していただけるお店に絞って売っていただいたのです。流通も選別し、そういう売り場に卸せる問屋さんだけとお付き合いをしました。また大量の露出をしない代わりに、営業にも販売ノルマを持たせませんでした。

金森氏 いわゆる「スキミングプライシング」ですね。一気にシェアをとるのではなく、高い値段でブランドを維持しながら、いいお客さんを育て、いいチャネルを抑えていく。そのための絶対条件は、商品の模倣困難性が高いことです。その点についても高い自信があったからこそ、可能だったのでしょう。

田中氏 製品に関しては強気だったと思います。人間の口内には数百種類という菌がいます。その中から歯周病の原因菌を特定して殺菌剤を作り出し、歯ミガキに安定的に配合させた「G・U・M」の技術は、しばらくは他社が真似できないという自信がありました。

金森氏 それと、歯ブラシ、デンタルペースト、デンタルリンス(液体歯ミガキ)、歯間ブラシという4つを核としたシステムで商品展開するという訴求も業界初でした。

田中氏 それまで歯ブラシと歯ミガキは別々のコーナーに置いてありましたが、「G・U・M」はシリーズの専用コーナーを必ず売り場に設置していただきました。流通側も、従来よりも高単価な商品をコーナー展開することで、利益がプラスオンできる点に魅力を感じていただけて、思ったより商談がすんなり決まることが多かった。

金森氏 システムとして展開したがゆえに、購入単価の高い商品でクロスセリングが図れるメリットがチャネルとしてもあったわけですね。歯ミガキはA社、歯ブラシはB社とバラバラに買われていた消費者も、「G・U・M」の場合はシリーズでそろえるわけですから。

消費者に影響力をもつ歯科医をファンに

金森氏 「G・U・M」は“歯医者さんが推奨”というコミュニケーションを継続的にされています。歯医者さんへの働きかけはどのようにされたのですか。

田中氏 サンスターは歯医者さん向けの商品も展開しています。弊社の営業と、個々の歯科医との接点は昔からありました。「G・U・M」の場合は、さらに日本歯科医師会や、各都道府県の歯科医師会とコンタクトをとり、我々がどういう形で口腔衛生に貢献できるか相談をしました。歯周病ケアの大事さを訴求するシンポジウムやセミナーを積極的に協賛・主催し、信頼関係の構築から、推奨のお墨付きもいただくことができました。

金森氏 購入に対する強力な影響力を持つ歯科医師会も「G・U・M」のファンになっていただいたわけですね。一方、消費者に向けてのコミュニケーションは?

田中氏 消費者に対してはマス媒体での広告のほか、商品にアンケートはがきを付けたダイレクトコミュニケーションを行いました。歯グキに対する悩みを募ったり、歯周病で悩んでいる知人を紹介していただいたりしたのです。消費者とはがきでやりとりするチームをマーケティング部内に新たに設置し、地道な交流を行いました。そのことで消費者の「G・U・M」への愛着が高まり、最終的には約10万人の方たちとの交流にまで広がりました。

金森氏 「G・U・M」登場以前の歯ミガキや歯ブラシのマーケティングが、若干の差別化をマス媒体で伝えてチャネルに押し込む川上からのプッシュだったのに対し、「G・U・M」はインタラクティブな仕組みをつくり、それを継続させたわけですね。だからこそバブル崩壊後も、「G・U・M」はなだらかな右肩上がりを続けることができました。お話をうかがって、私が感じたのは通販の成功法則との共通性です。通販の世界では、「売るな、語れ」といわれます。まず理念を提供する。それが消費者にしっかり届けば、売り上げは後からついているということです。
最後に、今後の「G・U・M」の展開については、どのようにお考えですか。

田中氏 「G・U・M」が目指していくのは、歯周病で苦しむ人を1人でも減らしていく事です。これは発売当初からのサンスターの理念で、はやり廃りで変わるものではありません。「G・U・M」を使われている方の多くはすでに歯周病の事で悩まれており、不特定多数ではなく特定多数のコミュニケーションを我々は基本にしています。しかし、これからは若い方や、現状歯の健康を維持している方に、将来に備えて歯周病予防の大切さを伝え、それぞれにフィットしたコミュニケーションや商品展開を考えていくことも重要だと思っています。

金森氏 歯ミガキや歯ブラシという本来はターゲットを絞らない商品でターゲットを絞り、ソリューションを提供して成功した、非常に傑出したケースのお話でした。本日はありがとうございました。

田中英治

サンスター マーケティング部 部長

1986年サンスター株式会社入社。営業、営業企画などを経て、2004年から約3年半「G・U・M」のブランドマネージャーを務め、2007年からは同社のオーラルケア商品全般のマーケティングに携わる。

インタビューを終えて

 マーケティングのキモは何かといえば、それは「ニーズの深掘り」です。サンスター「G・U・M」は単に歯ミガキや歯ブラシという“モノ”を売るのではなく、「虫歯を防ぐ」「歯グキの腫れや出血を抑える」、さらには根本原因を解決すべく「歯周病とたたかう」という“問題解決”を提供し続けています。

 消費者の真のニーズは顕在化したものばかりではありません。そのためには「イノベーション」も必要です。ピーター・ドラッカーは「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には2つの基本的な機能が存在することになる。すなわち、マーケティングとイノベーションである」と述べています。

 サンスター「G・U・M」の成功は、歯周病の根本原因解決を訴えかけ、イノベーションを成功させるために多くの人を巻き込んだことも大きいといえるでしょう。流通チャネルにも十分メリットのある取引条件を設定し、売り場を確保。イノベーションの担い手である「チェンジリーダー」として歯科医の推奨を得て、さらにコアなファンをダイレクトなコミュニケーションで囲い込むという活動を行っています。

 ロングセラーのヒミツ。それは、一見遠回りに思えることでも、根本をキチンとおさえることが重要であるとサンスター「G・U・M」は教えてくれているのです。 (金森 努氏)


金森 努氏

金森 努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所取締役社長 東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道20年。コンサルティング事務所、電通ワンダーマンを経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャー・マーケティング論)、グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、日本消費者行動研究学会学術会員

金森氏ブログ「 Kanamori Marketing Office

HISTORY

1979年 米国・NY州立大学バッファロー校にて歯周病の共同研究を開始


1987年 歯周病菌の原因菌を特定する殺菌剤「CPC」を、
歯ミガキに安定的に配合させる技術の開発に成功


1989年 G・U・Mホームデンティストシリーズを発売

サンスター「G・U・M」

米国のバトラー社を買収して同ブランドを獲得、歯周病予防技術を付加した戦略商品として発売。デンタルペースト(歯ミガキ)に加え、独特の毛先で歯周病菌の塊である歯垢をかき出す歯ブラシや、デンタルフロス、液体という新しい形態を提案したデンタルリンスもラインアップ。
同年、厚生省(当時)と日本医師会が推進する「8020運動」(80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動)がスタート。

サンスター「G・U・M」 初代G・U・M
1989年 新聞広告 1989年 新聞広告


1997年 G・U・Mケアシリーズを発売

サンスター「G・U・M」

歯周病とそのメカニズムの認知が拡大し、歯周病予防カテゴリーのマーケットも伸びていった。

サンスター「G・U・M」 1997年 新聞広告
サンスター「G・U・M」 G・U・Mケアシリーズ


1999年 G・U・M新パッケージで登場

30代の歯周病罹患(りかん)率の高さに注目し、罹患しているのに無自覚な人に対して、G・U・Mシリーズのシステムユースによる効率的な予防を訴求し、商品ラインアップもさらに充実した。

サンスター「G・U・M」
サンスター「G・U・M」 G・U・M新パッケージ


2004年 ロゴ、パッケージを一新し、第2次拡売期へ向け新たなスタート

ロゴ
ロゴ G・U・M新パッケージ


2005年 G・U・Mメディカルシリーズ登場

この頃から「歯周病は全身の健康にも影響を与える可能性がある」ことに注目し始めた。口腔内だけでなく全身の健康のための歯周病予防を提案した。

サンスター「G・U・M」 G・U・Mメディカルシリーズを追加
2005年 新聞広告 2005年 新聞広告


2007年 G・U・Mアクティバイタルライン発売

サンスター「G・U・M」 G・U・Mアクティバイタルラインを追加

「歯周組織の生体力」に着目し、一歩進んだ歯周病予防を提案する「G・U・Mアクティバイタル」ラインを発売した。


2008年 さらに進化したラインアップで登場

発売から20年目。さまざまな歯周病予防の方法を提供し、「お口とカラダの健康」に基づいた研究を続けていく。

サンスター「G・U・M」 さらに進化したラインアップ
サンスター「G・U・M」
2008年9月6日 朝刊 サンスター さらに進化したラインアップ

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