金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!

Vol.21 サンヨー食品「サッポロ一番 みそラーメン」

 しょうゆ味の即席めんが主流だった1960年代にみそ味の商品を提案し、瞬く間に家庭の味の定番となった「サッポロ一番 みそラーメン」。発売から45周年を迎えた人気ブランドの歩みについて、マーケティング本部 マーケティング部 第二課 課長代理の末光 登さんに聞きました。

先代社長が札幌で出合ったみそラーメンの味を再現し、全国区のブランドに

金森氏 私は1965年生まれですが、「サッポロ一番 みそラーメン」を子供の頃によく食べた記憶があるんです。我が家では、土曜日のお昼ごはんでした。私が学校から帰ると、母親があらかじめ作っておいた肉野菜炒めを「サッポロ一番 みそラーメン」にのせて出してくれるんです。サッポロ一番にはしょうゆ味と塩味もありますが、我が家はみそ派でした。

末光氏 ありがとうございます。まさしく典型的な「サッポロ一番 みそラーメン」の食風景です。

金森氏 そうですか。

末光氏 はい。野菜をのせたり肉をのせたり、各家庭でアレンジしている方が多く、みそ派、しょうゆ派、塩派と、それぞれにファンがいるのも、このブランドの特徴です。子供の頃に食べた自分の家のアレンジを受け継ぎ、親になってご家庭で作っているという方も多く、おかげさまで「おふくろの味」として定着しています。

金森氏 さかのぼって発売期のことについてうかがいますが、どのようにして誕生したのですか。

末光氏 発売した60年代は、即席めんの主流はしょうゆ味でした。そうした中で、64年に「長崎タンメン」という塩味の商品を打ち出し、市場にインパクトを与えました。先代社長の井田毅は、次はしょうゆ味で勝負しようと全国のラーメンを食べ歩き、札幌で出合ったラーメンの味を再現した「サッポロ一番 しょうゆ味」を66年に発売しました。さらに新しい味を求めて全国を食べ歩き、再び札幌でおいしいみそラーメンに出合い、「サッポロ一番 みそラーメン」を68年に発売。北海道の一部エリアにしかなじみがなかったみそラーメンを全国に広めました。

(左)「長崎タンメン」<br />(右)1966年発売「サッポロ一番 しょうゆ味」 (左)「長崎タンメン」
(右)1966年発売「サッポロ一番 しょうゆ味」

金森氏 当時の即席めん市場は、どのようなニーズに支えられていたのですか。

末光氏 今とは違い、手軽にカロリーを摂取するために食べる人が多かったと思います。高度経済成長のただ中ですから、さっと食べて、がむしゃらに働いて……という感じだったのではないでしょうか。インスタントコーヒーやレトルトカレーが売れ始めた時期とも重なります。インスタント食品を出せば売れるという時代で、即席めんメーカーに関しては、兼業も含めて300社くらいがひしめいていました。

金森氏 マーケティング的な見方をすると、簡便性や高カロリーなど基本的な価値が求められる「導入期」から、おいしさや新しさが求められる「成長期」に移行していく境目に画期的なみそ味を売り出し、うまく流れに乗った印象があります。

末光氏 そうですね。「導入期」から「成長期」という話でいえば、味だけでなく、商品スペックも進化した時期でした。「導入期」の即席めんは、めんにスープをコーティングしてお湯をかけてすぐ食べられるような商品でした。その後、スープを別添するタイプの即席めんがだんだんと増えてきます。「サッポロ一番 みそラーメン」もスープ別添タイプで、スープ以外に七味とうがらしをつけたことも当時は画期的で、差別化のポイントとなりました。また、粉末スープに乾燥ネギを入れたのは「サッポロ一番 しょうゆ味」で当社が初めて行いました。

具材と合わせて家族で食べるシーンを提案

金森氏 金森氏

金森氏 食べるシーンはどのように想定していたのですか。食事向け、間食向け、いろんなアプローチの仕方があったと思います。

末光氏 基本的には、野菜などの具材を加えて食事として楽しんでいただきたい商品で、それは今も昔も変わりません。その一方で、何も加えずカップめん感覚でおやつ代わりに食べるという方もたくさんいます。幅広いニーズにお応えできる商品であることが、長く愛されている理由のひとつだと考えています。

金森氏 市場が広がり始めたときにあらゆるニーズを捉え、しかも家族の食事というポジションを獲得して数を売ることに成功したわけですね。ちなみに具材を加えるという発想は、いつごろからあったのですか。

末光氏 先代の井田社長は、「即席めんは栄養が偏っている」と言われる中で、野菜などの具材と合わせて食べることを前提として商品を設計しました。つまり、どんな具材を加えてもうまくなじむ味を目指したのです。

金森氏 なるほど。「サッポロ一番 みそラーメン」の需要が発売当初からダントツで高いのは、具材を合わせるとおいしく食べられるので、結果的に栄養バランスが取れて、より家庭向きだというイメージが浸透したからかもしれませんね。

末光氏 そうなんです。実は、当社の即席めんの原点である「長崎タンメン」の味の設計も同様で、発売当初のテレビCMは、野菜が運動会をしているようなビジュアルを展開し、いろいろな具材と合わせて食べてくださいと訴求しています。それが当社商品のイメージとして浸透したせいか、サッポロ一番シリーズは、訴求しなくても野菜と合わせて食べてくださる方が大勢いました。

金森氏 とはいえ、広告でいわゆる「食べ方提案」もしていましたよね。「ハクサイ、シイタケ、ニ~ンジン」というCM音楽など、今も記憶に残っています。

末光氏 それは「サッポロ一番 塩らーめん」のCMですね(笑)。

金森氏 そうですね。

末光氏 ここ10年くらい、サッポロ一番シリーズが「食べ方提案」に改めて力を入れるようになりました。商品価値をはっきりと顕在化することで、昔からのファンに再アピールするとともに、まだ食べたことのない方への訴求も目的としていました。

末光氏、金森氏

末光氏、金森氏

「変えないために変えた」味やパッケージ

金森氏 「サッポロ一番 みそラーメン」の商品設計について詳しく聞きますが、パイオニアとしてどのような工夫をしたのですか。

末光氏 みそ味に限らず、しょうゆ味、塩味にも共通するのですが、特徴は「おいしすぎない」ことです。飽きがこないように、また各家庭でのアレンジがあって初めて完成する味にしています。具体的には、何種類ものみそをブレンドし、隠し味なども加えています。そのバランスは先代社長の感性によるところが大きいですね。試作品の数は100を超え、試食のつど具材を加えて、そのままでも満足できるけれど、工夫でさらにおいしくなる味かどうか確かめたそうです。

金森氏 当初はさぞ画期的な味だったと想像しますが、その後、他社も続々とみそ味の商品を売り出しました。いかに差別化をはかっていきましたか。

末光氏 発売当初に広告を大量投下して認知を高めた効果が長く続き、他の追随を許さなかったというのが正直なところです。藤岡琢也さんの起用期間は27年に及びました。ここ10年は何人か起用キャラクターが変わり、現在は木梨憲武さんです。ただ、家庭で食べるイメージの訴求は変えていません。サッポロ一番シリーズは、味もパッケージも広告も、変えないことがひとつのポリシーといえると思います。

金森氏 ロングセラーのパターンは大きく2通りあって、ひとつは変えないというやり方。もうひとつは、世の中のニーズの変化に合わせて少しずつ変えていくやり方です。多いのは後者だと思いますが、広告表現やパッケージも大きく変えていないのは、珍しい例だと思います。

末光氏 パッケージについては、先代社長のこだわりを貫かなければという思いがあります。みそ味、しょうゆ味、塩味のパッケージを比べていただくと分かるのですが、「サッポロ一番」という文字の形や大きさが、微妙にそれぞれ違います。ブランド管理という点でいえば統一したほうが便利ですが、「ロゴではない。デザインである」という考えのもと、どんぶりの写真などとのバランスを見て先代社長が完成させたものなんです。

金森氏 確かに少しずつ文字のデザインが違うんですね。知りませんでした。

末光氏 その一方で、どんぶりの具材が増えていたりするんです。発売当初はチャーシューとコーンがのっていませんでした。

金森氏 それも知りませんでした(笑)。

末光氏 肉料理が好きな人が増え、新しい具材を加えた写真にリニューアルしました。

金森氏 味は一度も変えていないのですか。

末光氏 2010年に初めて変えています。ただ、「変えないために変えた」と言ったほうが正しいと思います。

金森氏 その「変えないために変えた」理由について聞かせてください。

末光氏 発売当初から同じ味でも「味が薄くなった」という印象を持たれることが多くなったんです。味の濃い外食や総菜などに親しみ、以前は濃いとされた味も薄いと感じる人が増えていったんだと思います。そうしたお客様の味覚の変化に合わせ、みその風味とコクを若干高めました。

金森氏 なるほど。消費者のし好に合わせたというよりも、舌に合わせたわけですね。

末光氏 そうです。お客様の味覚の経験値に合わせたのです。ただ、あくまでも発売当初からファンを引きつけてきたサッポロ一番ならではの「みそ感」を維持するための進化です。

金森氏 2010年にはパッケージも少し変えていますね。

末光氏 全体の印象は変えていませんが、どんぶりの写真と「みそラーメン」の文字をほんの少し大きくしました。様々なパッケージがひしめく店頭において従来の商品イメージを強調するための刷新で、これも「変えないために変えた」工夫といえます。

人々のライフサイクルに登場し続けるために

末光氏 末光氏

金森氏 発売45周年ということで、さらに味とパッケージを刷新したそうですね。

末光氏 はい。味については、使用するみそを7種類から8種類に増やし、より奥行きのある味になりました。パッケージは、45周年ロゴを明示するとともに、包材を透明なものからアルミ素材に変えました。光を通さないのでより発色が良くなりました。

金森氏 これまで「飽きのこない」味と、「食べ方提案」を中心としたコミュニケーションによって家庭食としてのポジショニングに成功してきたブランドですが、世の中の流れとしては、家庭内での個食化や単身世帯の増加ということがあります。そうした中で課題としていることは。

末光氏 すでに多くの人々のライフサイクルに入り込んでいるブランドではありますが、それが連綿と続いていくようなコミュニケーションが重要だと考えています。子供の頃は母親に作ってもらって家族と一緒に食べ、中学や高校時代はおやつ代わりにカップの「みそラーメン」を食べ、大学に入ってひとり暮らしになったらまた袋めんに戻って自分で調理して食べ、結婚したら再び家族と一緒に食べる……。あらゆるシーンで活躍する商品であることを、よりイメージづけていきたいと思います。さらに、新しいライフスタイルに対応する商品開発も目指していきます。例えばシルバー世代は、少量タイプやうす味タイプの即席めんを求める声が多い。そうしたニーズに対応できないか検討する余地があると思っています。

金森氏 高度経済成長期には、マスの同質なニーズを捉えて確固たる地位を築いたブランドですが、これからは細分化していくニーズのキャッチアップも余念なくやっていくと。

末光氏 はい。それを大きなテーマとしています。おっしゃるように人口動態も世帯構成も変化しており、45周年を機に新しいテーマに取り組んでいきたいと考えています。小さなお子さんからシルバーまで、幅広い世代に味わっていただきたいです。

金森氏 家族で食べる「サッポロ一番 みそラーメン」というイメージを維持しつつ、一人ひとりの「サッポロ一番 みそラーメン」を目指していくということですね。

末光氏 その通りです。これからも多くの皆さんに愛されるブランドであり続けたいと思います。

末光 登

サンヨー食品 マーケティング本部

1995年入社。開発部門で麺、具材担当などを経て2006年マーケティング部門へ。「サッポロ一番」シリーズを担当し、新メニューの企画・開発や「みそラーメン」のリニューアルなどに携わる。

取材を終えて

 本文で、「変えないために変えた」といわれている味の変更だが、これは実は非常に難しいバランスの上に成り立っていることを意味する。「サッポロ一番 みそらーめん」がみそ味即席麺のトップの座を守っているのは、高度成長期に競合に対して差別化された製品を作り、テレビCMを中心とした大量のコミュニケーションを投下して、流通の棚を取り、消費者の生活の中にしっかりと入り込んだ結果である。そしてそれは、「野菜などの具材と合わせて食べることを前提」とした商品と「食べ方提案」というコミュニケーションの設計によって、各家庭の「おふくろの味」となることで不動となった。
  その意味では、「変わらぬおふくろの味」のベースとなるが故に、安易な味の変更は許されない。変化によって顧客の離反を招く危険があるからだ。しかし、40年を越える歴史の中で、顧客も世代交代をする。世代を超えて受け継がれることがロングセラーの必須要件であるが、消費者の味覚の変化や濃い味ブームの影響などで、特に若い世代を中心として「しっかりした味付け」が当たり前になった昨今、「サッポロ一番 みそらーめん」が取り残されて年齢の高い層にしか支持されなくなったら、やがてブランドとしては衰退していく。
  フィリップ・コトラーはブランドの「リポジショニング」を「命がけのジャンプ」と表現した。しかし、ロングセラーブランドは、そのポジションを維持するためにも、時には小幅とはいえ「命がけのジャンプ」をすることが求められるのだ。その勇気を持ったブランドだけが、生き残り、ロングセラーとしての地位を保ち続けられるのである。 (金森努氏)


金森 努氏

金森 努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所取締役社長 東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。 本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道20年。 コンサルティング事務所、電通ワンダーマンを経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャー・マーケティング論)、 グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、日本消費者行動研究学会学術会員
金森氏ブログ「 Kanamori Marketing Office

HISTORY

1968年

発売当時のパッケージ 発売当時のパッケージ

「サッポロ一番 みそラーメン」を発売。
北海道札幌市で流行していたご当地の人気ラーメンを「サッポロ一番」シリーズの第二弾商品として新発売。インスタントラーメンがみそ味のラーメンメニューを全国に広めることとなり、後に外食産業も巻き込んだみそラーメンブームの火付け役となる。


1970年

藤岡琢也氏を起用したCM 藤岡琢也氏を起用したCM

藤岡琢也氏を起用したCMを開始。(~2001年)
個性派俳優の藤岡氏を起用することで、売り上げがさらにアップ。約30年にわたりほぼ毎年CMに出演を続け、CMは約50作品にのぼった。お茶の間ではすっかりおなじみの「サッポロ一番」の“顔”となった。


1988年頃

初期の5個パック 初期の5個パック

5個パックを袋めん市場で初めて販売。
特売時に売り場でまとめ買いをされる様子をヒントに発案された。当初は年末などの需要期に限定して、工場で手詰めされていた。


1998年

みそラーメンどんぶり サッポロ一番
みそラーメンどんぶり

どんぶり型カップめん「サッポロ一番 みそラーメンどんぶり」発売。
袋麺に加えてカップ麺需要が高まる中、市場から長らく待望されていたロングセラー商品のカップ化に乗り出す。翌年にはミニカップも追加発売。「サッポロ一番 みそラーメン」の味をカップ麺で再現するため、現在もリニューアルを繰り返して進化を続けている。


2007年

チャーシューとコーンが加わった新パッケージ 新パッケージ

パッケージにチャーシューとコーンを追加。
食生活の変化への対応とおいしさ感をさらにアップさせるため、調理感のある具材に変更してパッケージをマイナーチェンジ。すでになじみのあるデザインであるため、レイアウトはほとんど変えずに調理写真だけを差し替えた。


2007年

コンビニエンスストア向けの縦型のカップめん「サッポロ一番 みそラーメン タテビッグ」を発売。
若年男性層に向けて、手軽な縦型ながらも食べ応えのあるビッグサイズのカップ麺で「サッポロ一番 みそラーメン」を再現。ターゲット層のさらなる拡大を狙った。


2008年

木梨憲武氏を起用したCM 木梨憲武氏を起用したCM

「とんねるず」の木梨憲武氏を起用したCMを開始。
親しみやすさと商品イメージとの相性の良さで、現在も「サッポロ一番」シリーズを牽引(けんいん)する。撮影時にはスタジオで自ら調理して食べるほどの「サッポロ一番 みそラーメン」好き。


2010年

味をリニューアル 新パッケージ

「サッポロ一番 みそラーメン」の味を発売以来初めてリニューアル。
みその風味とコクを増した。また、めんにみそを練り込み、スープとの一体感を高めた。


2013年

発売45周年を記念して、味・パッケージをリニューアル。
みそが7種類から8種類に。パッケージ包材を透明なものから光を通さないアルミ素材に変更。

新パッケージ 新パッケージ
新パッケージ・5食パック 5個パック
2013年9月12日付朝刊 全15段 2013年9月12日付朝刊

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Vol.21 サンヨー食品「サッポロ一番 みそラーメン」

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