シリコンバレーだより

Technology Changes Media

テクノロジーがメディアを変える

 2017年11月から2018年1月にかけて、2つの大きなIT系カンファレンスに出席し、メディア業界が大きく変わる局面にあることを思い知らされる経験をした。

およそ4万人が参加した17年の「re:Invent」AIや機械学習を用いた様々な機能やサービスが発表された

 一つ目は、2017年11月末にラスベガスで開催された、Amazon Web Services(AWS、以下同)のグローバルカンファレンス「re:Invent」。6回目を迎えた今回は、以前にも増して多くの新機能や新サービスが発表された。それは、メディアの仕事のあり方が根本から変わるかもしれないと考えさせられるものが多かった。

 多くのメディアは、自社にAI技術者はいないが、AWSを利用すれば、文字起こしから自動翻訳まで、AIや機械学習を使った様々なサービスの構築が簡単にできるようになった。

 この機能やサービスを活用した事例の一つが、NFLが今シーズンから始めた「Next Gen Stats」だ。

今シーズンから米NFLが提供している「Next Gen Stats」

 「Next Gen Stats」では、全選手の走るスピードや方向などが、ほぼリアルタイムでテレビ放送やネット向けに提供され、テレビやネットでのスポーツの視聴スタイルが大きく変わる可能性を感じる。

 全ての選手のプロテクターの中にはセンサーが埋め込まれていて、全米のNFL開催スタジアムで、数センチ単位でのモーショントラッキングが可能になっている。また中継に使う映像以外にも、全試合の全選手の映像を記録しているので、選手のスカウトやトレーニングなどにも活用しているという。

 こうしたデータの蓄積をいかして将来的にはフォーメーションを自動認識し、何がキーとなるプレーだったのかがわかることを目指しているようだ。さらには、どこにパスを出せば何%の成功確率があるかまで予測ができるようになるので、「このフォーメーションだったら、あの選手にパスすれば成功したのに」といったクオーターバック泣かせの議論で盛り上がるという、試合の新しい楽しみ方も考えられる。


CESで講演する米インテルの
ブライアン・クルザニッチCEO
(写真右)

 二つ目は、同じくラスベガスで2018年1月に開催された「CES 2018」。ここ数年、「5G」「AI」「自動運転」がキーテーマになっている。トヨタ自動車が「e-Palette Concept」を発表するなど、コネクテッドカー、自動運転技術、スマートシティー等に関して数多くの最先端技術が紹介された。注目したのは、半導体大手の米インテルCEOのブライアン・クルザニッチ氏の基調講演だ。

 インテルは、韓国・平昌で開催される冬季五輪において、米NBCと共同で、5G回線で接続した多数の超高解像度カメラで撮影した臨場感あふれる映像を、リアルタイムかつオンデマンドで視聴者に届ける予定だ。オリンピック会場以外で競技を見るのに、自宅をベストな場所にするという。そのためのチームを組み、撮影・中継テストを繰り返している。これはもう、メディアの仕事そのものである。

 同社は、2016年3月にスポーツ中継で重要なプレーの瞬間を360度で3D再生する技術「freeD」を持つイスラエルのReplay Technogiesを買収している。米プロバスケットボールNBAのプレーオフでは、会場の周囲に28台の4Kカメラを設置。撮影したデータを高性能サーバーで処理し、試合放送中に、選手のダンクシュートなどのハイライトシーンを360度視点で見せた。

 「イマーシブ・メディア」の領域にも手を広げるという。映画大手の米パラマウント・ピクチャーズと共同で、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外に、バイオメトリック・キャプチャーが簡単に出来る専用のスタジオを作り、CG加工など最先端の技術を駆使した、これまでにない映像を提供していくという。


 「コンテンツ・イズ・キング」というように、コンテンツには人を引きつける力がある。魅力的なコンテンツを生み出し続けるのは大変な作業だ。だからこそ、メディアはその存在価値を認められてきたのだろう。これまでメディアは、活版印刷、ラジオ、テレビ、インターネットという技術の変化とともに成長してきたが、ここにきてその動きが減速しているように感じる。一方で、技術力を持つ企業が、メディア領域に乗り出してきている。

 私たちメディアに携わる者は、原点に立ち返り、進化し続ける技術を謙虚に学び、したたかに取り入れていくことが必要ではないだろうか。

(朝日新聞社 メディアラボ 米シリコンバレー駐在 野澤 博)

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