Kenji's Media Trend from London

プランニングに「Where」を取り戻す

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ビルボードを使ったキャンペーン

 映画「スリー・ビルボード」で2018年のアカデミー主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが「ビルボード(看板広告)は今でも効果的だ」と、あるキャンペーンへの支持を表明した。2017年6月に71人の犠牲者を出したロンドン・グレンフェルタワー火災の原因究明が進んでいないことにしびれを切らした団体「Justice4Grenfell(グレンフェルに正義を)」が映画を模した「ビルボード」を使って実施したキャンペーンである。ビルボードには、真っ赤な背景に黒い字で、「71 DEAD(71人が死んだ)」「AND STILL NO ARRESTS?(なのに、まだ逮捕者はいない?)」「HOW COME?(なぜ?)」というメッセージが3枚にわたって書かれている。火災から10カ月近くも経つのに進展が見られないいら立ちを多くの人に知らせるため、この団体は、7カ月前に娘を殺された映画の主人公と同じ方法を採った。


 「We are sorry」。2018年2月中旬から下旬にかけて、新聞に掲載された謝罪広告が目に留まった。

OXFAMの広告

 一つ目は2月17日に掲載された、チャリティー団体「OXFAM」の広告だ。2011年のハイチや2006年のチャドでの支援活動に派遣された職員が、現地で性的搾取や売春に関わっていたとの報道を受けて掲載された。目立つのは最上部の「WE ARE SO SORRY」の謝罪文で、それ以外は、同団体への継続した支援を懇願する文面と責任者2人のサインが書かれている。真っ当な体裁で謝罪を表明したこの広告は「The Guardian」と「The Times」のクオリティー・ペーパー2紙に掲載された。

KFCの広告

 二つ目は、2月23日のケンタッキーフライドチキン(以下、「KFC」)の全面広告だ。KFCは原料となる鶏肉の輸送網のトラブルから、英国全土にある900店舗のうち、一時は700店近くを閉店せざるをえなくなった。「チキンが買えない」と警察に通報する人が出たり、ネットオークションで商品が高額取引されたり、様々な話題を提供した騒動だったが、その直後にKFCが掲載したのがこの広告だ。おわびは「WE’RE SORRY」とサラリと済ませ、ビジュアルの大半を占めるのが空っぽになったチキンのボックスで、あろうことか「KFC」のロゴが「FCK」となっている。一文字足らないが、確実にある放送禁止用語を連想させようとしている。こういう刺激的な表現が受け入れられるのかと危惧したが、様々な記事によるとPR業界では「危機管理広報の傑作」と絶賛されており、SNS上でも好意的に拡散された。この広告はチャリティー団体「OXFAM」の広告とは対照的に、フリーペーパー「Metro」と大衆紙「The Sun」に掲載された。

 先日、新聞協会、メディアエージェンシー、広告主がパネリストを務める、「プランニングに『Where』を取り戻す」というタイトルのディスカッションを聴講した。プログラマティックバイイングが伸長しているとはいえ、個人のマインドセットに併せ、適切なタイミングで、どのメディアで発信するかが今後ますます重要になる、というのが各パネリストに共通した意見だった。広告自体が話題になったこの3つの事例は、すべての面で適切な選択がなされたからに違いない。


ランドローバーの広告

 そろそろ夏時間に入る英国だが、今年は観測史上最低気温を更新するほどの寒波が襲来し、公共交通機関の混乱や高速道路の事故が頻発した。雪の予報に併せて突貫で制作され、最も降雪のニュースが取り上げられた朝刊に掲載されたランドローバーの広告はまさに時宜を得たものだった。広告にクルマの姿はなく、ビジュアルは延々と続く雪の轍(わだち)だけ。「どんな道もグッドサービス(順調)」で、楽々と走れるクルマ。すべてのルートがグッドサービスであることが滅多にない地下鉄を利用している私には、ランドローバーがとても頼もしく思えた。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 渡辺健司)

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