Kenji's Media Trend from London

英国新聞社の“呉越同舟”プロジェクト「Ozone」

 前回レポートしたように、イギリスの新聞社は「デジタル」に加え、主に「サブスクリプション(購読)」をもう一つのキーワードとしてビジネスの立て直しを図っている。例えば、「サブスクリプション・ファースト(購読者獲得第一)戦略」を採る「Telegraph」社は、データ分析スキルのある人材の確保・育成だけでなく、それに応じた営業部門の組織改編にも着手しているという。ただし、このような傾向があるからといって、新聞社の広告部門が手をこまぬいているわけではない。最も良く耳にするのは、近年では日本の各新聞社も立ち上げ始めた「○○ラボ」や「○○スタジオ」が広告主とコラボレーションして制作する「コンテンツ・マーケティング」への注力だろう。

 そして、もう一つ、英国の主要な新聞メディアグループが長い時間をかけて協働して、ようやく実現に漕ぎつけたのが「The Ozone Project」だ。これについては、既に2017年5月の本コラムでも紹介したが、実現までの道のりは平たんではなく、2016年の夏からJuno→Rio→Arena→Ozoneとプロジェクト名が変遷し、参加社数も立ち上げ当初の6社から、2018年半ばの事業開始時には3社に減り、そして現在では4社で共同運営されている。新聞社グループ4社(Guardian News & Media、News UK=「Times」「Sun」紙など、Reach=「Daily Mirror」紙ほか多くの地方紙、Telegraph media group)が手を組み、各社ニュースサイトの広告在庫と読者データを統合管理することで、広告主は狙ったターゲットに対してワンストップで複数の新聞サイトの広告枠を購入できる。

The Ozone Projectの解説(Telegraph紙ウェブサイトより)

 このプラットフォームの“売り”は、英国新聞社の危機感の裏返しだ。イギリスのデジタル広告はグーグルとフェイスブックの2社が独占するデュオポリー状態だが、「Ozone」を使えば、この2社に匹敵するユーザー約4200万人/月にリーチできると大きく謳う。もちろん「数」だけではなく、新聞社サイトには「Trust=信頼」があり、しばしばデジタル広告で問題にされる「Brand Safety」や「Transparency=透明性」の観点からの「質」も担保されている。加えて、昨年5月にEUで施行されたGDPR:一般データ保護規則(18年5月の本コラム)が個人データ取り扱いの更なる慎重さを求める中、新聞社自らが収集したファーストパーティデータ「Ozone ID」へのアクセスは大きなアピールポイントになっている。

 では、具体的にサービスを開始した「Ozone」はどのような広告主に使われているのだろうか?既に投資運用会社、旅行会社、スポーツベッティング事業者など、少なくとも6社の実績があり、家具店「Dunelm(ダネルム)」が昨年のクリスマスシーズンに実施したキャンペーンについては詳細に報告されている。6ケタ英ポンド(最も低く見積もって約1400万円)の予算が投下されたターゲティング広告は、目標に対して20%プラスの320万人に到達、同ブランドの購入意向/好意度/購入検討をそれぞれ22%/13%/8%上げることに「Ozone」が寄与し、前回キャンペーンに比べeCPAが67%低くなったという好結果を得たという。

The Ozone Projectウェブサイト ※トップページにリンクしています

 始まったばかりのプロジェクトは案件数も少なく、評価を下すのは時期尚早かと思うが、「直接、媒体社から広告枠を買えるのに、Ozone経由で購入する必要性が分からない」「データ(整備)にかかるコストとプロジェクトによる増収が釣り合わないのでは」とコメントする懐疑的な業界関係者も既にいて、先行きは不透明だ。ただ、私個人としては、新聞毎に性格づけ、読者層、党派性などが大きく異なる英国の新聞社がその違いを乗り越えてこの試みを実現させたことに敬意を払いつつ、その先行きを注意深く見守っていきたい。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 渡辺健司)

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