Kenji's Media Trend from London

Videoを使って若者を呼び込む

 ダイアゴン横丁に本社を構える「Daily Prophet」紙は昔ながらの印刷された新聞がいまだに読者に好まれているが、それには理由がある。ふくろうが毎日配達してくれる、この魔法使いたちの愛読紙は、読み始めると写真の人物たちが映像のように動き出す。「ハリー・ポッター」ファンにはお馴染みのこの「日刊予言者」紙は、もちろん実在しないが、英国社会にとって動画(Video)がますます重要になっているのは間違いなさそうだ。

 イギリスでは、少なくとも月1回は動画(ビデオ・コンテンツ)を見る人は4,560万人、人口の68.3%に達している。特に視聴割合が多いのが若年層で、18-24歳の96.3%が動画を視聴する。何が見られているかというとYouTubeが4,090万人、Netflixが2,090万人、Amazonプライム・ビデオが1,130万人となっている(英国人口は現在6,700万人弱)。さらに英国では、日本に先駆けて、今年から続々と主要なキャリアが5Gサービスを開始しており、動画視聴者数/時間が増えていくのは避けられないトレンドだ。

英国・年齢別・デジタル動画視聴割合(2019年9月eMarketer調べ)

 そんな中、先月「The Guardian」は、自らのYouTubeチャンネル登録者が100万人を超えたと発表した。同紙は2年前から動画視聴者の獲得に取り組んでおり、特にYouTubeは視聴回数を2倍、購読者数を1.6倍に増やすことに成功したという。動画フォーマットはドキュメンタリーや解説、特集記事と様々だ。オリジナル・シリーズ「Modern Masculinity(現代の男らしさ)」は特に若いユーザーの注目を集め、合計136万視聴、総視聴時間725万分、6.6万のいいね、1.07万のシェアと8,000のコメントがあり、最も高いエンゲージメントを得たコンテンツのひとつになった。

特集「Modern Masculinity」 Episode1

 同社のビジュアル・ジャーナリズム責任者、クリスチャン・ベネット(Christian Bennet)氏によると、このプラットホームの視聴者の半数以上が34歳以下で、動画は新規読者となる若年層を取り込むための有力なツールとなっているという。「The Guardian」紙のようなクオリティペーパーが作り込んだコンテンツで読者獲得を目指しているのに対し、大衆紙と呼ばれる「Daily Mail」のオンライン版では、動画が記事に埋め込められていたり、注目動画が流れる小枠がページ右下に突然現れたりする。英国最大部数の有料紙「The Sun」もウェブページにアップされている記事の多くに動画マークが付き、新聞社ニュースサイトでは、既にハリー・ポッターに出てくる「Daily Prophet」紙が現実のものになっているかのようだ。

動画の自撮りが口座開設に必要なmonzo

 最後に、動画にまつわる個人的な体験をひとつ。英国に来た外国人が一番苦労するのが銀行口座の開設と言われているが、英国フィンテック企業の「Monzo(モンゾ)」はスマホと連携したデビットカードサービスで若者の間で人気となっている。使い勝手の良いインターフェースはもちろんだが、口座が作りやすいのも大きな理由で、カードを作るのに自分宛ての電気料金請求書といった住所を証明する書類は要らない。必要なのは写真と動画の2つ。スマホで本人の証明書類(パスポートなど)の写真を撮り、さらに自撮りで「Hi, my name is ××, and I want a Monzo account. (ハーイ、私の名前は××。モンゾの口座が作りたいです)」の動画を送れば、数日後に派手なピンクのMonzoカードが届く。動画はこんなことにまで使われ始めている。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 渡辺健司)

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