Kenji's Media Trend from London

COVID-19と英国新聞社の取り組み

 2017年5月、私が初めて執筆した「Kenji’s Media Trend from London」は、「英国新聞社の必死な取り組み」と題して、ビジネスとして存続していくためにイギリスの大衆紙とクオリティー紙が採用しているアプローチを紹介した。それから3年。相変わらず各新聞社は生き残るための必死なチャレンジを続けているが、その一方で、社会の一員としての役割を意識的に果たそうとしているようにも見える。私のロンドン駐在最後となるリポートでは、新型コロナウイルス(COVID-19)が社会の脅威となる中、英国新聞社がどのような取り組みをしているかを報告したい。

 COVID-19の感染が拡大しても、3月中旬までイギリスはイタリアやスペイン、フランスといったヨーロッパ大陸の国々に比べてのんびりとした対応を取っていた。今となっては信じがたいが、国民の大半を感染させ、抗体を持たせることでウイルスを押さえ込む「Herd Immunity(集団免疫)」戦略をジョンソン首相は検討していたという。ただ、彼は3月15日、「Many more families are going to lose loved ones(さらに多くの家族が、愛する者を失うことになるだろう)」というショッキングな演説とともに、大きな方針転換をする。それからわずか一週間後の3月23日にはには「Stay Home, Protect the NHS (National Health Service), Save Lives」(家にいよう、NHS(国営の医療サービス)を守ろう、命を救おう)のスローガンを掲げ、英国全土で原則外出禁止を指示した。

 このような緊急事態のなか、新聞が連日このウイルスに関する様々な情報を伝えたのは言うまでもない。記事だけでなく、広告の形を取り、ウイルスへの対処法を教えるNHSの啓発広告、高齢者が優先的に必要物資を購入できることを告知するスーパーマーケット、在宅学習のための教材を提供するグーグルの広告などが掲載された。例えば、この写真は3/25付けの「The Times」紙だが、COVID-19に関連する広告が4ページ連続(掲載ページ順に、銀⾏「オンラインバンキング」、通信(ウイルス感染拡⼤以来増えているように⾒える)、スーパーマーケットA「感染防⽌⽤スクリーン設置告知」、スーパーマーケットB「⾼齢者やNHS職員向け特別営業時間のお知らせ」)で掲載されている。

Times紙・ページ送りで掲載されていた4広告

在宅学習のための教材を提供するグーグルの広告

 新聞社は情報を伝えるだけでなく、この難局を乗り越えるため、読者に支援を呼びかけた。「The Telegraph」紙は、社会的弱者をサポートするチャリティー団体「Turn2Us(私たちに振り向いて)」とパートナーシップを組んで、寄付を募った。多くの地方紙を発行するReach社は、英国全土で奮闘するNHSのスタッフをヒーローと讃(たた)え、感謝のメッセージを募る「Thanks a million NHS」キャンペーンを立ち上げた。全国から既に35万人以上が支援を表明しているが、このページのイギリス全土の地図を拡大していくと、読者からの応援が全国津々浦々から届いていることが良く分かる。3人以上の集会を英国政府は禁じているが、社会の紐帯(ちゅうたい)を維持するための “メディア”の役割を新聞社は担っている。

 これら、読者のため、社会のため、の取り組みは分かりやすいが、私にとって驚きだったのはイギリスの新聞社から成る業界団体Newsworksが発信した、新聞社=ジャーナリズムのための、「Back don't block British journalism(英国のジャーナリズムをブロックBlockするのではなく支援Backしよう)」というアピールだ。広告主は「Coronavirus」を含む記事をデジタル広告の“ブロックリスト”に入れ、新型コロナ関連の記事近くに自社の広告を掲出しないようにしているが、それによって新聞社は3か月で5,000万£(約70億円)を失うという。

 このアピールに併せて、各紙は、Newsworksの代表者が広告主に宛てた“手紙”を広告として掲載した。賛否両論あるはずだが、このようなメッセージを発信せざるを得ない切迫した状況をひしひしと感じるとともに、英国新聞社の自信に溢(あふ)れたある種の強さに感銘を受けた。

Newsworks広告主宛ての手紙(広告)100KB

 私にとって最終回となるこのレポートは当初3年間のロンドン滞在をふり返る内容にしようと考えていた。しかし、未だに収束の兆しが見えないCOVID-19のパンデミックな状況が続くいま、海外のメディアから目を離すことができないでいる。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 渡辺健司)

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