新聞を「次世代教育」にどう活用するか?

求められている、「教科書の外」の教育

東京都北区立東十条小学校校長/東京都NIE推進協議会 会長 関口修司氏

 「教育に新聞を」のキャッチフレーズで知られるNIE(Newspaper in Education)は、1930年代に米国で始まり、日本では85年ごろから提唱、推進されてきた。この春から始まる新学習指導要領に、新聞の活用がうたわれ、教育現場での新聞の使い方に今、注目が集まっている。教員時代から授業で新聞を用い、現在は東京都NIE推進協議会の会長を務める、東京都北区立東十条小学校校長の関口修司氏に、新聞を使った授業の成果、NIEの課題などについて聞いた。

新聞によって、思考力・判断力・表現力が身につき「社会の中の自分」という意識も育つ

――ご自身も小学校で担任を持っていた時代に、授業で新聞を活用してきたとか。

東京都北区立東十条小学校校長/東京都NIE推進協議会 副会長 関口修司氏 関口修司氏

 研究してきた社会科の授業で新聞を使っていました。新聞を使う理由はいろいろあります。そのひとつは「資料としての新しさ」。自動車産業についての授業をしたとき、なるべく新しい資料をと、自動車会社まで取りにいったことがありました。3年ほど前のものでしたが、そのときの子どもの反応は「先生、なんでこんな昔の勉強をしなきゃいけないの?」。教科書に載っている資料も2~3年前のものが多く、新鮮な資料を子どもたちに見せてあげたいと思うようになり、積極的に新聞に目を通して、適した記事や資料があると、授業に使うようにしました。

 また、新聞広告もよく授業で使いました。人をひき付けるキャッチコピー、文字や色合いといったデザインは、教材としても申し分なく活躍してくれます。折り込みチラシも、たとえば「どの曜日にどんな業種のチラシが入るか」といった統計をとると、流通や消費の仕組みが見えてきます。新聞は色々な使い方ができる優秀な教材なのです。

――学習に新聞を取り入れると、どのような効果があると考えますか。

 新聞を継続的に読むようになると、子どもたちは色んなことを考えるようになります。そして、社会の様々な出来事がつながって見えるようにもなります。高学年にもなると、大人も顔負けするぐらい色々な事実をつなげて、子どもなりの思考をします。さらに、思考をした上で判断をし、それを表現することができるようになる。まさに今、学校教育に求められている、「思考力」「判断力」「表現力」が身につきます。また、社会で起きていることと自分がつながっていると感じることができると、自分も社会にある種の責任を負っていると理解でき、社会参画の意識が芽生えるようになります。

 もうひとつ重要なのが、読解力です。これまで日本で力を入れていたのが、物語を読んで作者や登場人物の心情を理解するという学習でした。こうした力ももちろん重要な要素ですが、それだけでは本来の読解力とは言えません。特に最近、文章とグラフや図表を総合的に読みとる、いわゆる「PISA型読解力」が求められています。新聞記事には、文章だけでなく写真や図表もあることが多いので、PISA型読解力(※)を伸ばすことにもつながります。

 最近問題になっているのが、インターネットの使い方です。中学年ぐらいになるとインターネットを使う子が増え、調べ学習のときにインターネットの検索で出てきたことをまる写ししてしまうケースが少なくありません。調べていないのに、探している対象が画面に出てきたことで、調べたつもりになってしまう。それで、何がわかったのかを聞いても答えられない。ちっとも理解していないのです。筆算で学んだ上で電卓を使うと、計算の仕組みも理解できるし、電卓の便利さもわかります。同様に、新聞や本といったアナログな媒体で調べたり学んだりという経験を経た上で、インターネットに進むと、何を使って調べると正しい情報や理解に達することができるか、といった選択の幅が広がると思うのです。そういう意味でも、あらゆる情報のベースとなる新聞は、小さいうちに触れさせておくべき媒体だと思います。

※PISA=OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査。「読解リテラシー」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」を主要分野に測定している。

――東十条小学校でのNIEの取り組みを聞かせてください。

 昨年度1年間にわたり「新聞タイム」という取り組みを行いました。毎週1回15~20分、新聞を読む時間を設けたのです。ほかにも、「新聞づくり」、新聞記事を資料として活用する「新聞活用」のほか、同じニュースでも新聞によって表現が違うといったことを読み比べて新聞そのものを学ぶ「新聞機能学習」、新聞記事から好きな記事や気になった記事を切り張りし、自分の感想を書き添える「新聞スクラップ」といった研究授業を行いました。これらの活動を、今年度から本格的に教育課程に取り込んでいく予定です。

 「新聞タイム」や研究授業を通じ、子どもたちが新聞と触れ合う姿を見て感じたのは、「新聞の間口の広さ」です。たとえば、同じ学年でもスポーツ好きな子もいれば国際関係に関心を持っている子もいます。新聞記事は様々な分野を網羅しているので、それぞれの興味に対応することができます。

 また、1、2年生の低学年にとって、新聞記事を読むのはまだ難しいけれど、新聞には写真があります。新聞に掲載されている写真は、膨大な量の写真から厳選されたものです。子どもたちなりにそうした写真の意味を感じ取り、写真から色々なものを見つけています。中学年になると写真に加えて見出しを読み、高学年は総合的に全体の記事を読み解いていく……といった具合に、すべての学年に対応できるのです。

 もちろん、漢字が読めなかったり、言葉の意味がよくわからなかったりすることはありますが、それはわれわれ大人だって同じです。でも、わからないことは適当に飛ばしながら、大雑把に理解しながら全体像をつかんでいっている。その手掛かりになるのが、見出しだと思うのです。「究極の要約」とも言われる見出しを読む習慣をつけるだけで、子どもたちも新聞を斜め読みできるようになってきます。こうしたことは、教科書だけの学習ではなかなか得られない成果だと思っています。

新聞のおもしろさをどれだけ伝えられるか 教員の研修や啓発もカギに

――新しい学習指導要領に、新聞の活用が明確に位置付けられました。それを受け、教育現場ではどのように対応すべきなのでしょうか。

 新聞は、授業の資料や素材としてはとても使いやすいのですが、半面、「この記事がおもしろそうだから使ってみよう」というような思いつきの授業だと、結局年間に数回やるだけで終わってしまう可能性があります。1年や2年といった長いスパンで考えると、それでは新聞活用の効果はあまり期待できません。そうしたことからも、定期的かつ継続的に子どもたちに新聞に触れる機会を作ることが大切だ、と考えます。

 「新聞タイム」を実践してきて、週1回、10分でも15分でもいいから、習慣的に新聞に触れることが、結果として最も成果が上がる、と痛感しました。子どもたちは最初、「すげー」「でかい」「こわい」といった感想しか持てないのですが、「何がすごいの?」などと担任が問いかけていくうちに、感想が少しずつ増えてくる。それを繰り返すうちに、5行、10行と、記事に対する感想や自分の意見を文章として表現できるようになるのです。

毎朝、決まった時間本を読む「朝読」のような形で定着するのが理想です。しかし、読書は本を与えておけばそれぞれが読み進めますが、新聞の場合、読み方やまとめ方を教員が指導しなければなりません。そのための研修が必要になってきます。北区では、教育委員会の中に「新聞大好きプロジェクト」という重点施策を設け、年2回、小中学校の教師のための研修を開催しています。こうした活動を教育現場でフォローしてもらえると、NIEの可能性はさらに広がっていくように思っています。

――新聞社に期待すること、要望などはありますか。

 以前、NIE推進協議会から新聞社に「親子で新聞が読めるようなコーナーを作ってほしい」と要望したことがありました。うれしいことに、多くの新聞社が対応してくれ、朝日新聞でも「しつもん!ドラえもん」のようなコーナーが設けられました。こうした取り組みにさらに力を入れてもらえたらと思います。そもそも大人だってすべてのニュースを理解しているわけではありません。大人と子どもが一緒になって読めるような記事が、もっと増えるとありがたいですね。

 非常に助かっているのが、朝日新聞のNIE事務局が提供している「朝日Teacher’sメール」というサービスです。現役教師が選んだ授業に使える記事がカテゴリーごとに分類されていて、会員登録をすると、その記事を無料でダウンロードすることができるのです。こうした取り組みは、NIEに興味を持っている教員たちの大きな応援になってくれるので、今後もぜひ広げていただきたいと期待しています。

――CSRとして教育への取り組みに力を入れる企業も増えています。教員者の立場から、企業にはどのようなことを期待しますか。

 企業の方々が学校に来て色々な話をしてくれる「出前授業」が増えていますが、今後も進めていただきたいと願っています。ただし、中には企業の宣伝をして終わり、といった企業の自己満足のような授業もあるのが実態です。教育課程に沿った形で、学校や教員が準備するのが難しいものを使った授業――たとえば、自動車会社がエコカーや電気自動車 を運んで試乗体験ができる、というような授業など――だと、教育現場は非常に助かります。多少難しい内容でも、専門家の言葉に触れることは、子どもたちにとっては貴重な体験になります。小学校の場合、ほとんどの授業は担任が行うので、先生以外の人に教えてもらうのはとても新鮮で、楽しいようですね。

 もうひとつ、子どもたちに職場体験の機会を増やしたいと考えています。様々な業種の企業の仕事体験ができる「キッザニア」(東京・江東区)が人気ですが、働いて報酬をもらう、という体験を通して、働くことの喜びや大変さ、社会の一員としての意識を感じることは、キャリア教育の面でも大きな意味があります。しかし、実は社会体験ができる場というのは、思いのほか少ないのです。企業の皆さんにそういった場や機会を提供してもらえたら、と期待しています。

――NIEを進めるうえで、今後の課題は。

 教科書に新聞が載ること、教材として新聞が重視されることは、NIE活動にとっては大きなチャンスです。しかし、残念ながら教育現場はそう簡単には変わらないのが現実です。教員が非常に忙しいということもありますし、20代から40代が中心の教員は新聞を読まない世代なので、そもそも新聞になじみが薄い人が少なくないのです。

 たとえば、国語や社会の教科書に載っている新聞について授業で教わって、「新聞ってこういうふうにできているんだ」と納得してしまっただけだと、実際の新聞を手に取ることなく終わってしまう。それでは意味がありません。NIEの本当のねらいは、生活の中で新聞を読む子を育てることで、学習指導要領の意図もそこにあると思うのです。忙しい、新聞がよくわからないという理由で、教員が教科書の中だけに閉じこもった授業をしてしまうことを危惧(きぐ)しています。研修授業などを通じ、新聞の素晴らしさを啓発し、具体的な新聞の活用方法を伝え、サポートしながら、「最終的な目標は教科書の外にある」「教科書から飛び出していこう」といったことを訴えていきたいですね。

関口修司(せきぐち・しゅうじ)

東京都北区立東十条小学校校長/東京都NIE推進協議会 会長

1955年生まれ。東京学芸大学卒業後、東京都公立小学校教諭、社会科を中心に研究。その後、教頭を経て、現職。その間、1991~2007 年の17年間にわたり群馬大学教育学部非常勤講師として教育実習の事前・事後指導を務める。現在、東京都小学校新聞教育研究会会長。全国新聞教育研究協議会副会長。東京都NIE推進協議会会長。

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