新聞のデジタル化がもたらすインパクト

「いつでも、どこでも、だれでも」朝日新聞デジタルで広がるニュースの読み方

朝日新聞社 取締役 経営企画・デジタルビジネス担当 佐藤吉雄

 朝日新聞の有料電子版「朝日新聞デジタル」が5月18日に創刊した。国内外でも前例が少ない一般紙の有料配信ビジネスでもあり、その動向は各方面から大きな注目を集めている。サービス開始から約2カ月、朝日新聞社取締役の佐藤吉雄に話を聞いた。

紙の新聞とデジタル版がシナジー効果を生む「ハイブリッド型メディア」を目指す

――有料課金のニュース配信に踏み切った背景は。

佐藤吉雄取締役 佐藤吉雄取締役

 新聞業界を取り巻く状況は厳しくなっています。人口の減少、若い人を中心にした新聞離れ、広告収入の減収、インターネット上にあふれる無料情報の影響など理由はさまざまですが、こうした状況を打開するひとつの策としてのデジタル展開は、他メディアと同様に当社でも考えてきました。一方で、デジタル事業はこれまで130年間続けてきた「紙に印刷して宅配する」という新聞社のビジネスの根幹を自ら破壊しかねないという危惧もありました。

 しかし、紙の新聞のビジネスがこれまで以上に大きく成長することは望みにくい。さらに、インターネットの世界では技術革新が目覚ましい速度で進んでいます。3年後、5年後に突然大きなパラダイムシフトが起こったときに、何の対策も講じてなければビジネスとして生き残ることは難しい。一刻も早く始めなければ、という危機感がありました。

――経営の課題だったわけですね。

 朝日新聞社としては、これまでの紙の新聞のモデルから、紙とデジタルを両立させる「ハイブリッド型メディア」を目指すことを経営の主軸に据える方針を打ち立てました。紙の新聞に加え、デジタルならではのコンテンツが充実しているから紙もデジタル版も併読する、という方向に進むのが、新聞社としては最良の解決策です。そうした観点から、「朝日新聞デジタル」の開発は進められたのです。

――「朝日新聞デジタル」の特長は。

 コンセプトは「いつでも、どこでも、だれでも」です。最新ニュースをリアルタイムで配信する「24時刊」、200本を超える1日分のニュースを編集して早朝に配信する「朝刊」、そして、経済や文化といった各界の著名人によるコラムなど、デジタル版限定のコラムが充実の「You刊」という3つのコンテンツを、購読者はパソコン、iPadやAndroid端末で読むことができます。モバイル端末なら持ち歩くことができ、「いつでも、どこでも」利用できます。家では紙の新聞、通勤途中にはモバイル端末、会社ではパソコンと、シチュエーションごとにもっとも便利な端末で記事を読むこともできます。また、紙の新聞と同じで「一家に一契約」となるので、一契約で付与されるひとつのIDを使って複数端末で閲覧することも可能になりました。家族全員、つまり「だれでも」が自分の愛用する端末で読めるわけです。

 ユーザーインターフェースも特徴的です。1面、政治、経済、国際…といった「面」で見せ、「24時刊」でも新しいニュースが起きたときは「面」で更新されていきます。これは、ニュースをリストで見せる既存のニュースサイトとは違うまったく新しい概念です。また、紙の新聞同様ニュースの重みづけもして、重要なニュースは大きく表示されるよう自動的にレイアウトしています。

好評のパッケージ型ニュース「朝刊」ユーザー主導の斬新な使い方も

パソコン、iPad、スマートフォンで読める朝日新聞デジタル パソコン、iPad、スマートフォンで読める朝日新聞デジタル

――購読状況、また、購読者からの反響はどうですか。

 契約件数は現在、ほぼ見込み通りに推移しています。購読者層は、いわゆるアーリーアダプターと朝日新聞ファンのコア読者がほとんどと見ています。反響は、「24時刊」「朝刊」「You刊」の3つの中では「朝刊」が非常によく読まれています。特に紙の新聞に慣れ親しんだ読者には、パッケージ化されたニュースとして違和感なく利用していただいているようです。

 評判がいいのは「スクラップブック」機能です。取っておきたい記事をボタンひとつで保存し、付箋(ふせん)にはメモも書き込めます。朝ざっと見ておもしろそうな記事を格納しておき、通勤途中や会社で読むとか、映画の記事に「おもしろそうだから観に行こう」と付箋をつけておくとそれを家族がチェックするとか、そうした使い方が可能です。後者の付箋の使い方などは、家庭内SNS的な使われ方でもあります。実はこうした利用法は、ツイッターで購読者がツイートしていたのです。私どもが当初考えてもいなかったような使い方を、すでに購読者が始めている。ユーザー主導で活用法が広がっているのは非常に光栄で、こうしたニーズに対応できるサービスや機能をさらに充実していきたいですね。

――無料のニュースサイト「アサヒ・コム」と有料の「朝日新聞デジタル」との違い、すみ分けについて、どう考えていますか。

 「24時刊」は速報ニュースなので、同じ記事の多くがアサヒ・コムにもアップされます。しかし、「朝刊」ではアサヒ・コムに配信されていない新聞の記事や、動画も配信しています。「You刊」に掲載されているオリジナルコンテンツなどはアサヒ・コムでは読むことができません。ですから、「You刊」と「朝刊」はアサヒ・コムとは別物といえます。朝日新聞デジタルは、新聞にもアサヒ・コムにも載っていない、プラスアルファの情報も提供する、といった概念で進めています。そこが大きな違いであり、すみ分けのポイントでもあるのです。

 ですが正直なところ、今はまだ整理されていない部分がかなりある、というのが実情です。というのも、ニュースサイトの草分けであるアサヒ・コムは、月間4億ページビューを誇り、ユニークユーザーも1千万人を超えていることから、インターネットユーザーの支持を得ていると考えています。これまで無料で充実させてきたものを、有料化ビジネスを始めたからと言って、ただちに大きく変えることは難しい。ゆくゆくは、あるところまでは無料でそこから先は有料、というような形態も含め検討していく考えです。

 いずれにしても、無料コンテンツと有料コンテンツをどう併存させるかは今後の大きな課題です。ユーザーの動きを見ながら最適な道を模索していかなければ、と考えているところです。

欧米とは新聞の作り方が違う日本の新聞ならではのビジネスを確立したい

――ソーシャルメディアが爆発的に普及してきていますが、朝日新聞デジタルのスタンスは。

 この点については、非常に難しいですね。SNSで行われているのは、簡単に言えば「記事の引用」です。しかし有料化すると、SNSに張られたリンクをクリックしても読めない、ということになってしまう。これは、有料の手前に無料のサービスが確立されていないと不可能なのです。

 ニューヨーク・タイムズでは、見出しと前書き部分などは無料で公開し、その先は有料、といったモデルにしています。しかし、実は同紙の記事はとても長いものが多く、記事1本でニュース全体の解説をしているものがほとんどなので、多少前文を無料で載せたところで記事の内容はわからない。一方、朝日新聞をはじめとする日本の一般紙は、第一段落を読めば何が起きたのかがほぼわかる、という記事の作り方をしています。見出しだけでも前文だけでも内容がある程度理解できてしまう。そもそもの新聞の作りが違うので、同じようなやり方が適するとは考えにくいのです。

 これは有料課金についても同様で、速報や一般的なニュースは通信社から配信され、解説や分析に力を入れている欧米の一般紙と、そうしたニュースまでも自分たちで取材する日本の新聞とでは、媒体のスタンスがまったく違うため、米国の事例と同じような手法が通用するかは、かなり疑問です。日本ならではのスタイル、ビジネスモデルを探していく必要があると考えています。

――今後について聞かせてください。

 7月末まで無料キャンペーンをしているので、本格的に有料化する8月以降にどう動くかをしっかりとウオッチし、課題については見つかり次第速やかに対応していく考えです。iPhone版へのニーズも高いので、これも早急に対応すべく開発を進めています。そうした中で期待しているのが、広告の展開です。朝日新聞デジタルの購読者属性をみると購買力のある優良読者が多いので、広告主にとっても期待していただける媒体になると考えています。広告表現も、技術の進歩したデジタルだからこそできることがありそうです。将来的には、朝日新聞デジタルに出稿することで、そこを商品購入の入り口にできるのではないかとも考えます。特に書籍や雑誌広告は読者からのニーズが多く寄せられており、広告を入り口に購入してダウンロードし、その瞬間から読める、ということも可能になります。このほかにも、購読者の属性を把握しているからこそできる配信手法なども、さらに検討していきます。

 有料化モデルの確立を急ぐ事情の根底には、もちろん企業としてのビジネスの側面もありますが、ジャーナリズムを守らなければという使命感が強くあります。「ニュースはタダ」という認識が常識になりつつある今、記者がきちんと取材した信頼性とクオリティーを保証できる記事の価値を、朝日新聞デジタルを通じて社会に発信していきたいと考えています。

◎朝日新聞デジタルの詳細はこちら

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