歓迎光臨!訪日観光熱をどうとらえるか

海外のインバウンド施策から日本は何を学ぶべきか

共栄大学 客員教授 鈴木 勝氏

 外国人観光客誘致に関して、各国の政策に学ぶべきところはないのだろうか。大手旅行会社のジェイティービーで海外勤務が長く、また最近まで、桜美林大学でツーリズムの教授を務めていた鈴木勝氏が、「人材」「MICE」「広域連携」「トップセールス」「空港」「観光統計」という切り口から語ってくれた。

人材:日本人ガイドの養成を急げ

鈴木 勝氏 鈴木 勝氏

 中国では、多くの大学に外国人向けガイドを養成するコースがあり、学生たちは、英語、スペイン語、韓国語、日本語など、自分が得意とする言語でガイド術や各国の観光ニーズを学んでいます。

 日本のガイド養成システムは、中国に遠く及びません。日本では法律で、外国人に付き添って外国語で旅行案内をするプロのガイドは、通訳案内士試験に合格し、都道府県知事の登録を受ける必要があります。この試験が難しい上に、中国や台湾、そして韓国でも受験可能なため、多くの中国人や韓国人が資格を得て、日本でガイド業を行っています。

 本来は、日本人のガイド養成に力を入れるべきです。日本の国立公園の自然をよく知るのは地元の日本人でしょうし、富士山が文化遺産たるゆえんを語れるのも日本人でしょう。深い知識に基づくガイドの案内があってこそ、好印象につながるのではないでしょうか。小売店の場合も、外国人観光客への対応を外国人スタッフに任せきりにしているケースがありますが、日本人がもっと関与するように見直す必要があると思います。

 ガイドの育成と並行して、地方の穴場や楽しみ方を提案する「着地型観光」や、列車やバスなどを乗り継いで長期間日本各地をめぐる、いわゆる「グランドツアー」の企画など、新しい観光商品の開発を進めていく必要もあります。近年、欧州からの「盆栽ツアー」が人気ですが、こうした外国人向けの観光商品の開発においては、旅行会社、地方自治体、地域の観光産業の積極的な取り組みに期待しています。

MICE:2020 年東京五輪に向けてMICEに注力を

 海外では、観光振興策として、MICE(マイス)の誘致に力を入れる国や地域が増えています。MICEとは、会議や研修(Meeting)、報奨・招待旅行(Incentive Tour)、国際会議や学会(Convention、Conference)、展示会(Exhibition)の頭文字をとった観光用語で、一般の観光旅行に比べて、参加者の滞在日数が長く、消費額が大きいことから、国や都市の観光競争力を高める効果があるとして注目されています。

日本政府もMICEに力を入れ始めている(ロゴ) 日本政府もMICEに力を入れ始めている
(ロゴ)

 MICEの誘致の際、外資系ホテルとの連携も重要です。タイ、中国、香港、シンガポール、オーストラリアなどでは、政府観光局の誘致活動に外資系ホテルの現地トップが同行し、その国のPRをしています。第三者の推奨は影響力が大きく、例えば日本で営業する外資系ホテルの総支配人が「東北観光は今はもう安全です」と言えば、説得力が増します。日本ホテル協会の重要ポストに外資系ホテルの総支配人を登用するなどの施策も必要だと思います。

 また、MICEは「食」の質も厳しく問われます。これも、タイやシンガポール、オーストラリアは進んでいて、シェフを帯同し、国際会議や報奨旅行でふるまう料理のメニューや予算を細かく説明し、時には試食してもらい、派手にアピールしています。2020 年の東京五輪では、開会式や閉会式を旅程に組み込んだ報奨・招待旅行が急増するでしょう。東京だけでなく、日本全国でMICEに対応できる体制を整えていく必要があると思います。

広域連携:地域と交通機関の連携を推進せよ

 広域連携の好例はスイスです。国、州(カントン)、市、民間が足並みをそろえて地域をPRしています。日本は、政府と都道府県の活動がうまくいっているとは言えず、両者の中間の、地域ブロック(中国地方、関西地方など)の連携を強力にする必要がある。もし、京都・大阪・神戸が互いにPRし合えば、観光客の行動範囲は広がるはずです。11年の震災後、九州7県の知事が韓国に赴いて九州観光をPRしたことがありますが、こうした連携が重要です。

 昨年、国土交通省は、今夏をめどに全国9カ所の地方運輸局に観光政策を担う専任の部署を設けると発表しました。地元企業や自治体との連携を強め、外国人観光客が巡りやすい観光ルートを開発したり、地域の観光資源を魅力的に伝える取り組みを進めるのが狙いということです。この地方運輸局が広域連携をコントロールする組織になってほしいと大いに期待しています。

 スイスは交通機関の広域・異業種連携にも優れています。世界経済フォーラム(WEF)が過去5回発表した「旅行・観光競争力ランキング」において常にナンバー1ですが、物価に関する「価格競争力」は100位以下。そこで、同国では、列車、バス、フェリー・遊覧船などの交通機関を安く自由に利用できる「スイスパス」を発行しています。列車は特急列車にも乗れ、バスで隣国のリヒテンシュタインやオーストリアの国境駅まで利用できます。美術館などにも無料で入れて、若者優遇や数々の割引特典もついています。こうした配慮により、価格競争力の弱点を補っているのです。

 日本は「価格競争力」の指標ではスイスと同レベルです。しかし、交通面でその弱点を補えていません。外国人向けに発行される鉄道用パスは一部の特急しか使えなかったり、他の鉄道やバス、フェリーなどと連携していません。しかも海外からネット予約ができません。

 日本もスイスパスのようなチケットをぜひ開発すべきでしょう。さらに、博多~釜山、博多~上海、下関~青島のフェリーでも使えれば、博多や下関への外国人観光客は増え、韓国や中国を訪れた観光客が日本に足を伸ばしてくれる可能性も増えるでしょう。国を越えた広域連携によって、中国、韓国との相互理解も深まるのではないでしょうか。

トップセールス:国のセールスには、首相や大臣が先頭に立つ

 トップセールスに積極的なのは、タイ、ニュージーランド、オーストラリア、韓国などです。首相や大臣が自国の観光をアピールする影響力は絶大です。例えばニュージーランドは、「9.11」から間もない頃に、日本の新聞広告で「ニュージーランドは、平和です。」というタイトルの首相メッセージを発信し、そのあと観光大臣が来日して自国をアピールしました。トップセールスは、他国への波及効果のみならず、自国の観光関係者の意識向上にもつながります。

空港:トランジットツアーが次なる訪問を誘う

※画像は拡大表示します。 仁川空港の日本語のトランジットツアー案内 仁川空港の
日本語のトランジットツアー案内

 空港利用者への優遇政策において参考にできるのは、韓国やシンガポールです。韓国では、仁川空港乗り継ぎ客の中国人客もビザなしで降りられたりして、ソウルのトランジット観光を無料で、または安価に提供しています。シンガポールでは、シンガポール航空がチャンギ空港の乗り継ぎ客に無料のトランジットツアーを提供しています。日本はもっと魅力的なトランジットツアーを組みPRすれば、「今度は日本に来てみよう」という人が出てくるはずです。また、ビザが必要な乗り継ぎ客に対して、ビザなしで降りられるようにすれば、空港で時間を過ごす乗客はなくなりそうです。ストップオーバー(途中降機)客への優遇サービスなども含めて、国や空港、または旅行会社は、種々のトランジットツアーを実現してほしいと思います。

観光統計:観光統計は、マーケティング戦略を立てる上で必須

 観光統計をきちんと取っている国・地域としては、オーストラリア、韓国、香港、英国などが挙げられます。どの国から来たのか、初めての訪問か、リピーターであれば何度目の訪問か、観光目的か、親戚・知人を訪ねて来たのかなど、詳細に統計を取って経済効果を分析し、マーケティング戦略を立てています。

オーストラリアは外国人観光客数を10年先まで予測してウェブで公開している オーストラリアは外国人観光客数を10年先まで予測してウェブで公開している

 観光統計を蓄積しておくと、どの国の人が何パーセント来訪しているのか把握できるので、来訪者が多い国のニーズをくみ取ることでビジネスチャンスが広がります。その一方で、社会情勢の変化によってその国の人たちが来なくなってしまった時に困らないように、世界各国から広く観光客を集める施策も重要で、観光統計はその参考にもなるのです。

 日本が目標とすべきなのは、同じ島国であるイギリスの観光施策ではないかと考えています。英国は年間約3千万人の外国人観光客を集めていますが、そのうちオーストラリア、ニュージーランド、カナダなどイギリス連邦の国々からの親戚・知人がかなり多く訪問しています。リピート率が高いこうした訪問者を対象とした観光統計も進んでいて、国・地域ごとにマーケティング戦略を立ててPRしています。日本も在外邦人に目を向け、日系3世、4世まで優遇策を用意して訪日をアピールしたらどうでしょうか。

 英国はアウトバウンド面も活発で、約5千万人が海外に出かけています。外に出る人が増えれば飛行機の便数が増え、インバウンドのキャパシティーも拡大します。残念ながら、現在の日本は海外渡航者数が低迷し、その影響で飛行機の便が減少傾向で席数不足が課題となっています。インバウンドの拡大にはアウトバウンドの拡大が不可欠であることも忘れてはならないと思います。

鈴木 勝(すずき・まさる)

共栄大学 客員教授

1945年千葉県生まれ。67年早稲田大学商学部卒、日本交通公社(現ジェイティービー)入社。
主に国際業務に従事。シドニーや北京勤務を経験。外人旅行事業部(現JTB-GMT)豪亜FIT課長、JTBワールド取締役アジア部長などを経て2000年退社。同年大阪観光大学(旧大阪明浄大学)助教授、02年教授、08年名誉教授。08年4月から桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授。15年4月から現職。09年から国連世界観光機関(UNWTO)観光専門家委員会委員(Tourism Expert)。専門は国際ツーリズム振興論、観光マーケティング論。著書に、最新刊『観光立国ニッポンの新戦略 海外マーケットを探れ!』など「観光学オピニオン・シリーズ全5巻」(NCコミュニケーションズ)ほか。

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