多様性が企業を強くする

画期的なアイデアや従来にない仕組みは多様性のシナジーから生まれる

早稲田大学大学院商学研究科教授  谷口真美氏

 企業のグローバル化が進む中で、ダイバーシティーマネジメントへの関心が高まっている。その一方で、日本企業の取り組みの多くは、真の多様性活用に至っていない。こう指摘するのは、ダイバーシティー研究の第一人者である早稲田大学大学院商学研究科教授の谷口真美氏。多様化における課題や組織づくりのポイントなどについて聞いた。

個々が持つKSAを生かし企業価値を創造する

──多様性について、どのようにとらえていますか。

谷口真美氏

 多様性とは、「個人の持つあらゆる属性」のことで、その次元は表層的なものと深層的なものに大別されます。表層の多様性は、性別、年齢、人種・民族など外見から識別可能なもので、深層の多様性は、パーソナリティ、考え方、習慣、職歴、専門性など、外見から判断しにくい内面的な特性です。米国では、1960年代後半の公民権運動を契機に雇用機会均等法やアファーマティブアクション(※)の文脈から表層の多様性による差別是正が進み、1980年代に入ると、米国を中心に深層の多様性を生かすという考え方が浸透していきました。個々が持つKSA、すなわち、知識(Knowledge)・技術(Skill)・能力(Ability)を生かすことが、革新的な製品やサービスに結びつくという考え方です。

──ダイバーシティーマネジメントとはどのようなもので、どのようなメリットがあると考えますか。

 近年米国では、「インクルージョン」「インクルーシブ」といったキーワードとセットで多様性が語られるようになっています。誰もが対等な関係で関わり合い、多様性を受容し合い、KSAを生かし価値を創造する、という意味合いです。インクルージョンの最大のメリットは、シナジーです。画期的なアイデアや従来にない仕組みは、異なる意見がぶつかり合ってこそ生まれる。シナジーを生むインクルージョンをいかに実現できるかが、企業価値創造のカギを握っています。また、有能な人材は、深層の多様性を尊重してくれる企業を求めています。私が教える学生たちも、「この企業は表層の多様性のことしか語っていない」などと見抜いています。採用においても欠かせない取り組みなのです。

──マーケティングや企業ブランディングなどにおけるメリットについては、どのように考えますでしょうか。

 従来は、「購買層はF1層」などと特定の属性にターゲットを絞り、ターゲットの反響だけを重視するようなマーケティングが主流でした。しかし、昨今そうした手法は、ターゲット属性以外の層から「違和感がある」「差別的だ」と批判されやすくなっています。日本国内では特に差別的だとして批判されないことが、動画投稿サイトを通じて世界中に拡散され、国外から批判を浴びるリスクも生まれています。インクルーシブマーケティングに先んじている米国の企業は、あらゆる層を対象にテストマーケティングを徹底的に行っています。マーケティングや企業ブランディングのリスク回避においても、多様な見方・考え方を意識することが重要になってきているのです。

──多様性の観点で注目している企業はありますか。

 私がここ数年注目しているのは、YKK APです。斬新なデザインの巨大建築物が世界各所で誕生している中、ファサード(建築物の外装)事業に特化したYKK AP FACADE社をシンガポールに設立しました。それぞれの国や地域の多様性を尊重し地域密着主義を徹底。アジア各国に事業拠点を作って世界中から有能な人材を雇用し、最先端の構造設計、製品製造、施工技術をグローバルな顧客に提供しています。

距離の多様性を許容しゴールを共有する

──多様性を受け止める経営側の課題とは。

 近年、上場企業に対して「コーポレート・ガバナンス・コード」(企業統治のための行動指針)の策定が求められるようになっています。そうした中で注目されているのが、企業経営の意思決定を担う役員会の多様性です。役員の属性分布に偏りがあると、その企業内で異なる属性の社員は深層の多様性の表出をためらいがちになり、結果的にシナジーを生むインクルージョンが実現できません。そのデメリットを経営者はよく理解し、役員の多様化を進め、個性に基づくKSAを発揮しやすい風土づくりに努める必要があります。

──多様性を企業文化として浸透させるための課題は。

 表層の多様性の分布の偏りを解消する取り組みと、深層の多様性(個性)を生かす取り組みとを混同しないことです。表層的な属性が同じ人たちの中でも、依拠する価値観が異なり、意見の対立が生まれます。その時、価値観の違い(距離の多様性)を認めようとせず、早急に距離を縮めるべく同化を強要すると、多様性によるシナジーは生まれません。価値観の違いをお互いに許容した上でチームとしてのゴールを共有し、その達成に向けて協働する。この個々の違いを超えた上位概念での「リカテゴライズ」の過程があって初めて多様な集団の業績を高めることができるのです。

──多様性を社内外に宣言する上で大事なことは。

 現在、日本企業が宣言する多様性は、女性の活躍推進や企業のグローバル化に関することが大半です。もちろんそれも大事なことですが、表層的な属性の分布にのみ着目して“数合わせ”的に管理職登用しても、KSA(知識・技術・能力)を生かしきれなければ意味がありません。また、日本企業が発信する情報の多くは、「自社の女性の管理職比率は現在5%。2020年までに20%にします」といったもので、「なぜ現在5%なのか、どの職種に女性管理職が少ないのか。個々の能力を生かすために、どんな行動計画(風土づくりを含む)を立てているのか」といったところまで言及できていません。これでは海外の投資家の信頼は得にくいでしょう。多様性活用に向けてネガティブな要素を含む課題を透明化し、企業トップ自らがコミットし、確実に解決策を打ち出す継続した取り組みが求められます。

──多様性がもたらす影響は社内外の多岐にわたります。企業の今後の取り組みについて、どのように見ていますか。

 リモートワークや産休産後の時短出勤などを許容することは、インフラとしての多様性を許容する重要な取り組みだと思います。企業の取り組みについて最近実施した調査を紹介すると、日本の売上高上位500社と、米国の売上高上位500社のリーマンショック前後のダイバーシティーへの取り組みと業績回復の程度を分析したところ、リーマンショック以前に深層の多様性をいかすための変革にすでに取り組んでいた企業は、ショック後の業績回復が早いことがわかりました。その一方で、ショック後、多様性をいかす変革を性急に導入した企業はおしなべて業績が回復しませんでした。この結果が示すのは、多様性は諸刃の剣だということです。つまり多様性は、外部環境が激変する時期には、対立・相互排斥・非凝集性というマイナス効果が表れやすいものであり、環境が安定した時期に拙速を避けて地道に変革・風土づくりを進めていくことが不可欠です。そうすることで、環境激変の下でも創造性を発揮し、環境変化に翻弄されない強い企業を作ることができると言えるでしょう。

(※)黒人や女性など構造的に差別されてきた人々に対し、雇用や教育などを保障する特別優遇政策

谷口真美(たにぐち・まみ)

早稲田大学大学院商学研究科教授

1996年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学取得)。広島経済大学専任講師、同助教授、広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻、助教授、早稲田大学大学院商学研究科准教授を経て、2008年4月より教授。2013年8月より2015年3月まで、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院研究員。

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