変わる学校選択の基準と大学広報

継続的な「高大接続」があるべき大学のコミュニケーション

教育ジャーナリスト おおたとしまさ氏

 偏差値やブランドに左右されない大学選びが進んでいる。中学・高校の生徒や親、教師たちが大学に期待するものとは?その期待に応えるために大学が取り組むべきこととは?教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏に聞いた。

将来の職業から逆算して大学を選ぶ傾向が顕著に

──大学選びに際して、中学・高校生やその親、教師の意識はどのように変化しているとお考えですか?

おおたとしまさ氏 おおたとしまさ氏

 名門のブランド大学を目指す傾向から、国家資格や〝手に職〟につながる大学や学部を目指す傾向が顕著になっています。「東大よりも地方の医学部に進んだ方が、将来の食い逸れがない」というような考え方です。進学指導においても、将来の職業から逆算して学校を選択するケースが増えています。

──その背景にあるものは?

 リーマン・ショック、東芝の経営不振など、従来は考えられなかったことが起こる時代です。フリーターの生き方が礼賛されたバブル時代は今や苦い教訓となっています。そうした中で、より安定志向が強まっているのだと思います。偏差値やブランドに左右されない大学選びは、悪いことでありません。ただし、個人的には、大学は職業訓練のために行くところではないと思います。

──大学入試改革を控え、中学・高校の教育方針はどのように変わっているのでしょうか。

 大学入試改革では、知識や技能だけでなく、思考力、判断力、表現力の評価に重きが置かれ、文部科学省から問題例も発表されました。しかし、この入試で真の思考力、判断力、表現力が判断できるのかと疑問視する声もあり、私もそのひとりです。そもそも大学入試改革以前に、中学・高校の自主改革が進んでいたように思います。

教育目標の分類学

文部科学省ホームページ「教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方に関する補足資料ver.5」より3.5MB

──中学・高校で進む自主改革とは?

 近年注目されているのは、点数や偏差値に変わる新しい学力の基準「思考コード」です。1956年にアメリカの教育心理学者・ベンジャミン・ブルームが中心となって開発した「教育目標分類学(通称:ブルーム・タキソノミー)」を応用したもので、試験問題の難易度だけでなく、「どの程度知識が必要なのか」「どの程度の思考の深さが必要なのか」という二つの軸から論理的思考や創造的思考のレベルを測る指標のことです。もともと難関校や公立中高一貫校の中学入試では、高度な思考力を求める入試問題を出題しています。模試を実施している業者などが、それに近い問題を作るため、あるいは中堅校が特色を出すために、思考コードを取り入れるようになっています。

思考コードの例

首都圏模試センターホームページより
https://www.syutoken-mosi.co.jp/column/entry/entry000668.php

 また、4教科の垣根を越えて発想力や表現力を評価する「思考力型入試」も入試改革論議の前から導入する学校が増えており、首都圏の私立の中・高一貫校約300校のうち約120校が実施、来年は全体の半数に及ぶ150校程度が導入すると予想されています。思考コードや思考力型入試によって、偏差値では推し量れなかった能力をすくい上げることができるようになったという現場の声も多く聞かれます。

トレンドに流されず建学の精神を訴求する

──高校生やその親、高校の進路指導教員などに向けた大学のコミュニケーション活動は、どうあるべきだと考えますか?

 オープンキャンパス一度きりで終わらせるのではなく、日頃から高校生を大学に招いて学生との交流の場を設けたり、大学の研究室を高校生に開放したり、高校と大学の教員が連携して教育活動を展開したりと、継続的な「高大接続」こそが、あるべき大学のコミュニケーションだと思います。接触できる学生数は少なくても、内容の濃い交流を通じて大学の存在感を高めることができるはずです。大学付属校ではそうした交流がありますが、大学と1対1の関係にとどまっています。地域ごとや学力ごとにマッチングを図り、関係性が複数結ばれることで、理想的な高大接続改革が実現するのではないでしょうか。

おおたとしまさ氏

──大学の広報のあり方についてはどのように考えますか?

 大学広報のトレンドワードは「グローバル」と「キャリア」です。これに応じて中学・高校もグローバル教育やキャリア教育に注力したカリキュラムを組み立てています。もちろん重要な視点ではありますが、ポスト・トゥルース時代と言われる中では、トレンドに流されず、建学の精神を正々堂々とうたう姿勢も重要ではないでしょうか。トレンドワードを発して入試倍率を高めても、定員は限られています。新入生を「お客さん」ではなく、社会での活躍をともにする「仲間」だと考えれば、大学の本質を見極めている学生を集めた方がいい。ポイントは、建学の精神を今の生徒に刺さる言葉にどう言い換えるか。私はよく、カタカナの誘い文句が多い学校は要注意だと言っています。表層的なメッセージに終始しているのではと思えてしまうからです。中高一貫校の受験に関してふだん言っていることですが、大学広報にも通じる話ではないかと思います。

──改革の今後について、期待することは。

 中学・高校には、大学入試改革の先を行く取り組みを進めてほしいですね。具体的には、就職のためではなく、人生のために有益な学びを提供してほしいと思います。文科省主導の大学入試改革には課題も多いので、大学側は、個別入試にも知恵を絞って、本当に欲しい学生を獲得する努力をすべきではないでしょうか。

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートで雑誌編集に携わる。心理カウンセラー資格、中高教員免許を持ち私立小学校教員も経験。2005年に独立。現在は育児・教育に関する書籍やコラム執筆・講演活動を行う。サイト「パパの悩み相談横丁」管理人。『中学受験という選択』『男子校という選択』(共に日経プレミアシリーズ)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)など著書多数。近著に『名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと』(集英社新書)。

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