次代にツナグ新聞広告 ─ 平成の30年広告

変化し続ける広告コミュニケーションの潮流 「優良知性人」に届く新聞の再発見を

コミュニケーション・ディレクター  佐藤尚之氏

 メディアの環境が激変した平成の30年間。企業は今後、どのようなマーケティングに取り組んでいけばよいのか。新聞広告の役割や新聞社ができることは何か。広告のコミュニケーションを中心に、マーケティングに携わる、コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏に話を聞いた。

マスメディア全盛時代から、人との「つながり」がメディアになるまで

佐藤尚之氏 佐藤尚之氏

──広告コミュニケーションにおいて、平成の30年間はどんな時代だったと思いますか。

 広告コミュニケーションは、この30年間で大きく変化してきました。30年間を俯瞰(ふかん)して見ると、およそ5年ごとに大きな変化が起きていることが分かります。何十年も続いてきたマスメディア広告にかげりが見え始めたのは、1995年にWindows95が発売され、インターネットが普及し始めた頃からです。

 マス広告の全盛時代は、トップダウンで「これがおすすめ」と発信できました。けれども、インターネットの登場で、いろいろな情報を得られるようになり「たしかにこれもいいけど、あれもいいよね」と生活者が気づき始めた。さらに、2000年にグーグルの日本語検索が始まると、「自分で検索して調べる」ことができるようになり、インターネットの存在感が増していきました。

 そうした状況を踏まえ、広告の手法も変化しました。まず、インターネットが登場した当初、1995年から2000年ごろまでは、テレビや新聞、雑誌、ラジオに加え、インターネットを融合して広告を考える「メディアミックス」という手法が主流でした。しかし、自分で検索して調べられるようになった2000年以降は、一番伝わるメディア同士を組み合わせる「メディアニュートラル」という手法に変わります。クロスメディアという考え方も、この頃に生まれたものです。

 最も大きな転換点は、情報が爆発的に増えた2005、06年ごろだと思います。2004年にブログが普及し始め、ミクシイが開始されました。さらに、2005年にユーチューブも登場します。個人が情報を気軽に発信できるようになり、情報が天文学的に増加したのです。そのため、伝えたい相手に情報を届けることが困難になってきた。私は「情報『砂の一粒』時代」と呼んでいますが、「メディアニュートラル」という考え方は終焉(しゅうえん)を迎え、コミュニケーション全体を考える「コミュニケーションデザイン」という手法へと切り替わっていきました。

【広告コミュニケーションの大きな流れ】5年ごとに変化が起きている 広告コミュニケーションの大きな流れ※拡大表示できます

── 広告とコミュニケーションデザインの違いは。

 広告は、企業の思いを一方的に発信するので一方通行です。一方、コミュニケーションデザインは、相手の気持ちを踏まえた伝え方を考えます。コミュニケーションデザインという言葉は以前からありましたが、広告の手法として本格的に取り入れられるようになったのは、2005年以降のことです。

 その後も情報は、さらに増えていきます。2008年には、日本でもツイッターやフェイスブックが登場し、iPhoneも発売。ソーシャルメディア(SNS)が普及したことで、生活者は「リツイート」やシェアなどワンクリックで情報を発信できるようになりました。友人関係や人脈など、人とのつながりがメディアになった。これは大きな変化です。

─── インターネットを活用していない人もいます。

 たしかに、日本の国民全員がインターネットやSNSを活用してさまざまな情報を得ているわけではありません。ざっくりとした数字ですが、主なSNSの月間アクティブユーザー(月に1回以上使うユーザー)は、ツイッターが4,500万人、フェイスブックが2,800万人、インスタグラムが2,000万人です。そのうち約20%のヘビーユーザーが総利用時間の約80%を占有しているというデータがあります(注1)。つまり、一番利用者の多いツイッターでも、ヘビーユーザーは900万人程度なわけで、ツイッターでバズっている話題もその中の拡散でしかない。日本の総人口約1億2,700万人のうち、残り約1億1,800万人には、バズが届くことを期待できない、ということになります。また、インターネット検索を利用している人も、東京都が人口当たりで突出した検索数で残りの地域はほとんどが東京の半分以下です(注2)

 ネットの検索利用から見れば、「東京は別の国」。東京で暮らしていると気づきにくいのですが、実際には若者も含めて、情報リテラシーが高い人と低い人に二極化しているのです。その分断が顕在化したのは、2015年頃からだと思っています。

新聞の「いいところ」を伸ばす。そのためには愛読者から傾聴を

──マスメディアやネットなどあふれる情報の中にいる人と、ネットをあまり使わずマスメディアでしか伝わらない人と、二極化しているということですね。新聞については、マスメディアが伝わる世代に向けてコミュニケーションを考えていくべきなのでしょうか。

佐藤尚之氏

 世代は関係ないと思います。新聞を読んでいる人が年配の方という考え方は、実態を反映していません。また新聞読者とネット利用者がくっきり分けられるということもありません。新聞読者の中には、インターネットも活用して、さまざまな情報を得ている知性のある人たち、いわば「優良知性人」が多数いるのです。経営者や起業家、ビジネスのキーパーソンも、新聞には必ず目を通していると思います。また、自分で購読していなくても、会社で新聞を読んでいるという人も少なくない。

 「優良知性人」にターゲットを絞って考えると、新聞広告の表現も違ってくるはずです。ただ、マスメディア全盛だった頃のような、インパクトを重視した広告はスルーされる可能性が高いので、工夫は必要です。今、新聞広告を活用していないクライアントも「優良知性人」に情報を届けたいなら、インターネット広告より新聞広告のほうが効果的だと思います。

──佐藤さんの著書でも提唱している、ファンをベースに中長期的に売り上げや価値を上げていく「ファンベース」施策で考えると、新聞社は何をすべきなのでしょうか。

 まずは、新聞に価値を感じてくれている人たちから、新聞に望んでいることや魅力だと感じていることを傾聴すべきだと思います。新聞を購読していない人たちの意見を聞いて、悪いところを直そうとするのではなく、重視すべきことはファンのインサイト。新聞の「いいところ」を伸ばすべきです。

 新聞の愛読者、「優良知性人」が、まわりの若者や子どもに「新聞は絶対に読まないとだめだよ」と自分の言葉で説得してくれることが理想だと思います。そのためにも、みんなが「新聞いいよね」と言える状況をつくる必要があります。そもそも、知性がある人たちが読んでいて、毎日何百万部も発行しているメディアは、新聞以外ありません。インターネットにはできないアプローチの方法、知恵が必ずある。新聞を愛している私は、そう思っています。

注1)ニールセン調べ 2016年5月 (https://www. nielsen.com/jp/ja/insights/reports/nielsen-digital-trends-2016-first-half.html)
注2)Yahoo!検索データ(2015年1月~12月 PCのみ)

佐藤尚之(さとう・なおゆき)

コミュニケーション・ディレクター

1961年東京都生まれ。電通にてマス広告、ネット広告、コミュニケーション・デザインなどに携わる。2011年に独立。現在はコミュニケーション・ディレクターとして、(株)ツナグ代表。コミュニティ主宰・運営として、(株)4th代表。『明日のプランニング』(講談社現代新書)、『ファンベース』(ちくま新書)など著書多数。

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