ブランドリフト ─新聞広告の可能性再考

認知の向上、理念の浸透、メモリアル 様々なブランドリフトに機能する新聞

中央大学大学院戦略経営研究科教授 田中 洋氏

 近年の広告コミュニケーションにおいてブランドがどのような価値を持っているのか。ブランドリフトを目指す企業に何が求められているのか。マーケティング研究の第一人者で、『ブランド戦略論』(有斐閣)を著した、中央大学ビジネススクール 大学院戦略経営研究科教授の田中 洋氏に聞いた。

ブランドの影響力が相対的に増している

田中 洋氏 田中 洋氏

──ブランドの役割について、どのように考えますか。

 ブランドの存在は、今や人々の共通の関心事です。要因はいくつかありますが、消費者の選択肢が増えたことが大きいと思います。通信の自由化、セルフ販売の多様化、ネット通販の浸透など、80年代以降の規制緩和や流通の変化が人々の自由な選択を促し、選択基準となるブランドへの関心が高まったと考えられます。

 グローバルな流れでは、企業のブランド買収が加速しています。例えばネスレは、ヴィッテルやペリエなどミネラルウォーターの有名ブランドを買収。グーグルはユーチューブを買収しました。

 こうしたブランドに対する評価は、地域、観光、テクノロジーなどあらゆる分野に広がり、色、形、音、動き、においなどの商標もブランドの範疇(はんちゅう)になっています。不動産市場ではアメリカの大統領が自らの名前をブランド化して売っています。極端な例ですが、IS(イスラミック・ステート)などテロリストの活動ですらブランドを浸透させようという意図が見えます。

 ブランドへの関心はNHKの番組にも表れています。一昔前のNHKは特定のブランド名を出すことはありませんでしたが、今は特定のブランドを特集した番組も作り、たとえばニュースの中で「iPhoneの新製品が出た」などと商品名を出すこともあります。ブランドが人々の共通の関心事であるために、こうした報道が許容されるようになっているのだと思います。

── 販促におけるブランドの影響力についてどのように考えますか。

メルカリ 2019年1月3日付 朝刊 394KB

 ブランドの影響力が相対的に増している印象があります。その傾向がとりわけ強いのが、オンライン上の小売りです。ブランドの認知度が高いほど購買のネックとなる「検索」の対象になりやすいからです。とはいえ売れる条件は、商品特性、流通、営業、店頭陳列などにもよるので、ブランドや商品ごとに売れる条件を測定して指標化し、KPI設定に生かすことが重要だと思います。

── ブランドの認知向上において、マス広告が果たす役割とは。

 短期間に知名度を上昇させたい時には、やはりマス広告は有用です。メルカリやハズキルーペの広告などは最近の成功事例といえるでしょう。ちなみにマーケティングの世界では長く「ヘビーユーザーに訴求した方が効くのか、ライトユーザーに訴求した方が効くのか」という議論があり、昨今は「ライトユーザーに幅広く裾野を広げているブランドが強い」といわれています。リーチをかせげるマス広告はこの点でも有利です。もちろんオンラインメディアの得意分野もあるので、マスとデジタルを使い分ける工夫も必要です。


ターゲットを絞らず特ダネを 発信する機能が新聞の強みに

──ブランドリフトのために大切なのは。

パナソニック 2018年3月9日付 朝刊 1.1MB

 いかに目先の売り上げにとらわれず、ブランド価値を高めるための経営、マーケティング、コミュニケーションに集中できるかがカギだと思います。例えばSDGsやソーシャルグッドの取り組みは、売り上げに直結することはまだ少ないですが、今の社会ではブランドリフトの大切な要素です。また最近は、SNS上の話題がブランドイメージを大きく左右し、尖(とが)った広告表現や、動画で配信された従業員の問題行動などが、いわゆる「炎上」を招く事態も増えています。そうした問題が起こっていない企業を見ていくと、自社の理念を社内に浸透させ、ブランドに共鳴する社員を大事に育成している。インナーコミュニケーションがいかに重要かということです。

──新聞広告をインナーコミュニケーションに活用する企業も増えています。

 最近注目しているのは、企業が周年の節目などに一種のメモリアルとして展開する新聞広告です。パナソニックの創業100周年広告などもそうでしょう。私が社外取締役を務めるソウルドアウトはデジタルマーケティングの会社ですが、東証マザーズ上場を新聞広告で報告し、同じビジュアルをポスターにして社内に掲示しています。新聞をある種のシンボリックなメディアとして捉え、自社の勝負どきに活用したいと考える企業が、メルカリも含めて若いスタートアップにも存在するのが面白い傾向だと思っています。

ソウルドアウト2018年6月1日付 河北新報 朝刊 1.4MB

ソウルドアウト 社内ポスター 1.0MB

── 新聞メディアの今後の可能性は。

 リターゲティングによってユーザーが好む情報を集中的に配信していくデジタルメディアに対し、新聞は記事でも広告でも、ありとあらゆる情報をあまねく人々に発信するメディアです。そのターゲットを絞らないメディア特性が、読者に気づきを与え、逆にこれからの時代の優位性になっていくのではないでしょうか。

田中 洋氏

 そして何より新聞の強みになっているのは、特ダネをつかむ機能です。緻密な取材網や政界、財界などへの太いパイプなどを持つからこそ獲得できる情報があり、代替できるメディアは他にありません。新聞はいわば情報の根っこ。そこに掲載する広告にも情報価値があると人々は無意識にわかっていて、だからデジタル系の若い経営者も注目するのだと思います。

 新聞はこれまで「信頼性」「伝統」といった特性で語られてきましたが、オンラインメディアにない特性が浮き彫りになってきたことで、その存在価値が改めて見直されていくのではないでしょうか。

田中 洋(たなか・ひろし)

中央大学ビジネススクール 大学院戦略経営研究科教授

中央大学大学院戦略経営研究科教授。京都大学博士(経済学)。マーケティング戦略論・消費者行動論・ブランド戦略論。 1951年名古屋市生まれ。75年電通入社、同社マーケティング・ディレクターを経て、96年城西大学経済学部助教授、98年法政大学経営学部教授。2003-4年度コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員。08年4月より現職。日本マーケティング学会元会長。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。近著『ブランド戦略論』(有斐閣)により、日本マーケティング学会マーケティング本大賞・日本広告学会賞・中央大学学術研究奨励賞の3つを受賞。ブランド論・マーケティング論・広告論で多数の著書をもつ。

この記事にいいね!

認知の向上、理念の浸透、メモリアル 様々なブランドリフトに機能する新聞

スペシャルインタビュー新着記事

PAGE TOP