動画コミュニケーションが加速する

分かりやすく、様々に展開できる動画で「食品ロス」問題を啓発

九都県市首脳会議
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九都県市首脳会議廃棄物問題検討委員会では、食品ロス削減を目指し、食べ物を大切にするライフスタイルを呼びかけるクレイアニメ動画を制作。NHK Eテレ「ニャッキ!」を手がけるアニメーション・ディレクター・伊藤有壱氏の指導のもと、東京芸大大学院生らが動画を制作する様子を「朝日新聞DIALOG」で記事化しました。

クレイアニメーション動画で「食品ロス問題」を自分ごとに

動画「食品ロスを考えよう」

 九都県市首脳会議は埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の知事、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市の市長によって構成される。全人口の約3割を占め、日本の政治、経済、文化の中心となる首都圏の九都県市が、人口の集中や都市化によって生じる広域的な課題の解決に向けて、協調・連携して取り組むために設置された。

 具体的な取り組みは、首脳会議の下に設置された委員会によって行われている。例えば廃棄物問題検討委員会では、廃棄物問題を解決し、循環型社会をつくるためのシステムづくりと、市民への啓発活動に取り組んでいる。毎年、幹事を各自治体が持ち回りで担当しており、今年は川崎市が事務局となっている。

 「私どもの委員会では、循環型社会をつくるためにごみの減量化や再資源化に取り組んでいます。とりわけ今、大きな課題となっているのが食べ残しや賞味期限切れなどで廃棄される食べ物、いわゆる食品ロスの問題です」(増田氏)

 現在、食品製造業や小売業、外食産業など事業者からの廃棄量は年間約352万トン、家庭からの廃棄量は約291万トン、両者を合わせると約643万トンにもなる。国連世界食糧計画が1年間に実施している食糧援助の2倍の食品が廃棄されているという。

 「この問題を解決するには、そのための社会の仕組みを整備するとともに、域内の住民一人ひとりがこの問題に対する意識を高め、自分ごととして行動することが不可欠です。そのためには、一方的にこちらからメッセージを伝えるのではなく、この問題に対して気づきを与え、身近な問題として考えていただく。そんなコミュニケーションが重要です。そのうえで、動画コンテンツが有効なのではないかと考えました」(増田氏)

 「これまでも行政としてさまざまな情報発信をするなかで、動画は分かりやすいとの声をいただいています。今回はとくに、子供からお年寄りまで幅広い層に訴えたいとの思いがあったため、誰でも親しみやすく、共感しやすい動画を制作することにしました」(加藤氏)

 企画はプロポーザル方式で広く募集。そのなかから選ばれたのが、朝日新聞社が提案したクレイアニメーションによる動画だった。クレイアニメーションとは、粘土で被写体を造形し、1コマ撮影するごとに造形物に手を加えて動きを表現する、アニメの手法。非常に手間はかかるが、CGにはない素朴さと温かみが魅力である。今回の動画制作のディレクターには、NHK Eテレ「ニャッキ!」やミスタードーナツの「ポン・デ・ライオン」のTVCMを手がけた東京芸術大学大学院教授の伊藤有壱氏を起用。伊藤氏の授業の一環として、大学院生らとともに動画を制作するという試みだった。

 「伊藤さんの作品は多くの人がテレビで目にしているので、幅広い層が親しみや共感をもって受け入れてくれるのではないかと思いました。食品ロスは、将来の社会に大きな影響をもたらす問題です。それだけに、未来を担う若い人たちに制作に関わってもらえたことにも、大きな意義があると思います」(加藤氏)

プロポーザル方式※:公共事業を発注する際に業者を選定する方法の一つ。専門性を要する事業について、発注者である地方公共団体が選定条件に合致する業者を絞り込んで指名し、業者の技術提案書やプレゼンテーションを評価・検討したうえで、最も適切な業者を選定する。(「デジタル大辞泉」より)

長期的にさまざまな形で活用できるのが動画の良さ

 「おにぎりはどこから来るのかな?」。そんな問いかけから始まり、食べ物が食卓に届けられるまでの工程を分かりやすく伝え、食べ物へのリスペクトを呼びかける。そんな動画は、大きな反響を得た。

 「実は当初、動画制作ということもあって、活字メディアの新聞社から提案をもらえるとは少し意外に感じました。でも出来上がった動画はとても分かりやすく、誰もが共感をもちやすいものでした。私の周囲からも、かわいい動画だね、という声をたくさんいただきました」(加藤氏)

 今回の企画では、露出する場所に応じて適切なコンテンツを提供できるよう、3分、1分、15秒といった3種の尺の動画を制作。外国人のために、英語の字幕スーパーを入れたバージョンも用意した。

 動画の内容や食品ロス問題の概要をまとめ、動画のURLとQRコードをつけたPR用チラシも作成。さらに若者が日本の未来を考えるウェブメディア「朝日新聞 DIALOG」にて、大学院生らによる動画制作の様子を取材し、PR記事として配信した。

 「単に動画を制作するだけでなく、ウェブメディアの記事と連携されるなど、その後の展開にも配慮されたメディア企業ならではの取り組みも、この企画が高く評価された点だと思います」(加藤氏)

 昨年10月に作成された動画は、これまで各都県市の駅や街中のデジタルサイネージ、イベントなどで露出されてきた。一度制作すれば、長期的にさまざまな形で活用できるのも動画コンテンツのメリットだ。

 「今後はトレインチャンネルで配信するなど、九都県市全体での活用も考えています。また学校や環境教育の現場などでも、積極的に使ってもらえればと思っています」(増田氏)

川崎市 環境局生活環境部 減量推進課
課長補佐・普及広報係長
増田亘宏氏(左)/
川崎市 環境局生活環境部 減量推進課
加藤育子氏(右)

 最後に、行政が情報発信するうえでの動画コンテンツのメリットと、新聞社への期待を改めて伺った。

 「私どもが従来から行っているチラシやリーフレットの配布、ホームページによる情報発信だけでは、どうしても情報が届く相手は限定的なものになりがちです。動画コンテンツは、市民が普段行き交ったり、生活で使ったりする場所で流すことができるので、通常のやり方ではアプローチできない層に情報やメッセージを届けることができます。さらにそこに新聞社のようなメディアの発信力が加わることで、より大きな効果が期待できると考えています」(増田氏)

動画制作をディレクションしたアニメーション・ディレクター・伊藤有壱氏(談)

 「クレイアニメには、ともすれば子どものものというイメージがついて回りますが、今回は食品ロスの削減がテーマなので、大人にも響くように、ユルさの中にリアルなポイントを作ることを意識しました。具体的には、いわゆる幼児色と呼ばれる色をほぼ使わず、オフトーンという少し抑えた色のクレイで造形しました。見る人にフレンドリーに近づけるところがクレイアニメの魅力。食品ロスの深刻さを、一人ひとりに皮膚感覚で感じてもらうには、クレイアニメはいい手法だと思います」(朝日新聞DIALOGより)

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