動画コミュニケーションが加速する

新聞社の信頼感は動画ビジネスでも強みに 課題は広告媒体の価値証明

電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局 動画ビジネス推進部長 植木崇文氏

 YouTubeやFacebook、TwitterなどSNSをはじめ、テレビポータルのTVerやAbemaTVなど、動画を視聴できるプラットフォームは増えている。新聞社も動画制作や配信を手掛け、動画ビジネスを展開。今後、発展させていくために必要なことは、媒体の価値を数値化して証明することだという。電通でラジオテレビビジネスプロデュース局 動画ビジネス推進部長を務める植木崇文氏に、動画ビジネスの潮流から、新聞社による動画ビジネスに期待することなど聞いた。

植木崇文氏植木崇文氏

──動画メディアや動画ビジネスの潮流をどのように捉えていますか。

 2018年の日本の広告費は、約6.5兆円でした。そのうちテレビの広告費は約1.9兆円で、インターネットの広告費は約1.8兆円。2019年には、インターネットの広告費がテレビの広告費を、ほぼ確実に追い抜くだろうと言われています。(図表1)インターネット広告費のうち、YouTubeやFacebook、Twitter、民間公式テレビポータルTVerなどで配信する動画の広告費は約2,000億円。そのうち Google、Facebook、Twitter、この3社が全体の8割を占めています。インターネットの広告の中で市場が最も拡大しているのは動画広告です。2017年から2018年のインターネット広告費は約2,000億円増で、そのうち動画広告は約800億円増。増加分の約4割を占めていました。

(電通「日本の広告費2018」より)

 今後はインターネットによる動画配信の視聴がますます増えていくことが予想されています。それと同時に、動画配信によるコンテンツをテレビデバイスで見る人の割合も上がっていくでしょう。アメリカでの調査では、ネット配信の動画広告を見た人の中で、テレビデバイスで見た人の割合は2018年で約6割。タブレットとスマートフォンで見た人の約2倍にのぼるという調査結果があります。

──地上波広告と動画広告の違いや、媒体選びの判断基準は何でしょうか。

 ターゲティングができるかどうかです。地上波広告はターゲティングして流すことはできませんが、動画広告であれば可能です。実際、クライアントが動画による広告の出稿を検討するとき、媒体選びの判断基準はリーチの数とターゲティングの細かさです。テレビ広告が最も売れているのは、月間の利用者数(MAU=Monthly Active User)が最も多いからです。テレビは約1億1千万MAUで、YouTubeは6,200万MAU。それに対して、TVerは1,600万MAUとまだまだ低い。そんな状況ですが、私は、数年のうちにTVerとAbemaTVを、1千億円市場にすることが可能だと考えています。

──現在、TVerとAbemaTVの売り上げを合わせても150億円ほどで、約7倍伸ばす必要があります。本当に可能なのでしょうか。

 日本の放送局が本気を出せば、実現できると思っています。単純な話、出稿媒体を決める一番の基準がリーチだとすれば、TVerとAbemaTVのMAUがYouTubeのリーチに並べばいい。そのためには、まずはTVerで全番組を見られるようにすること。その瞬間、スマートフォンは無料のポータブル全録画デバイスに変わります。あまり知られてはいませんが、タイムシフト視聴(録画視聴)は、放送終了後1週間で約8,000万MAUもあります。もし、TVerで全番組を見ることができるようになれば、録画して見る人は減り、タイムシフト視聴している8000万MAUの大半はTVerに流れてくるはずです。そうすれば、YouTubeのリーチを超えられるんです。もちろん、簡単ではなく、複雑な権利問題をクリアする必要があります。

──若い人はテレビを見ないと言われています。

 そうとは限らないんですよ。調査では「テレビデバイス」で地上波を見る若い人が少ないだけで、スマホやタブレットでTVerやAbemaTVで見ている人は増えています。たしかに「Amazon PrimeやNetflixだけあればいい」という若い人もいますよね。ただ、Amazon PrimeやNetflixで何を見ているか聞くと、テレビ局が制作したテレビコンテンツだったりする。要するに、テレビコンテンツが若年層に通用しなくなったわけではなく、番組の視聴場所を「どこに置くか」という出口の問題なんです。(図表2)

(電通調べ)

 だからこそ、まずはTVerで全番組見られるようになれば、状況は一変するはず。もちろん、それに加えて、コンテンツによってはTVerだけ、AbemaTVだけではなく、どちらにも置いたり、YouTubeに置いたりしてもいいかもしれません。

── 現在、新聞社も動画コンテンツを制作・配信しています。新聞社が動画ビジネスを手掛けることについて、ご意見をお聞かせください。

植木崇文氏

 私の仕事は媒体に広告枠をつけて広告を売ることなので、例えば、放送局とGoogleとAmazonは全く違う業種ですが、それぞれ媒体として捉えています。放送局はテレビコンテンツ、GoogleはYouTubeという投稿動画コンテンツ、Amazonは有料動画コンテンツを配信する媒体であり、大元の業種によって区別をしたことはありません。その考え方は、新聞社の媒体についても同様です。

 私が興味があることは、クライアントが欲しているターゲットにどれだけリーチし、どれだけブランドリフトアップできるか。そういう観点から考えると、国民の多くが新聞社に対して持っている「信頼感」というイメージを動画ビジネスでも生かせる可能性はあると思います。例えば、同じクルマの動画広告を投稿動画サイトで見たときと、朝日新聞デジタルで見たときとでは、印象が違うはずです。さきほどクライアントが広告を出稿するとき、媒体を選ぶ基準の一番はリーチと言いましたが、同じ1リーチでも認知される度合いは全て同じではありません。課題は、ブランドリフトアップや認知率向上といった価値を媒体側が自ら、数値で証明すること。1リーチの価値証明は、僕らはもちろん、クライアントも望んでいることです。それは新聞社に限ったことではなく、動画コンテンツを流す媒体すべてに言えることだと思っています。

植木崇文(うえき・たかふみ)

電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局 動画ビジネス推進部長

1999年電通テレビ局入社。地上波セールス(スポット・タイム)に18年従事し、2017年より動画配信広告の分野を担当。

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