アフターコロナ ―広告コミュニケーションのこれから

時代、社会課題とどう向き合うか 企業の「本気・本音・本質」が問われる

銀河ライター/東北芸術工科大学客員教授 河尻亨一氏

 with/afterコロナの時代に、企業のコミュニケーションはどうあるべきか。マーケティングや広告のトレンドは今後、どのように変わっていくのか。10年以上にわたりカンヌライオンズをウオッチし続け、世界の広告業界のトレンドに詳しい、元「広告批評」編集長で、銀河ライター主宰・東北芸術工科大学客員教授の河尻亨一氏に伺った。※2020年6月9日取材

河尻亨一氏河尻亨一氏

──with/afterコロナの時代、人々の価値観やライフスタイルはどのように変化していくと思いますか。

 緊急事態宣言下で、リモートワークやネット通販の普及、デジタル化の加速など、ライフスタイルの変化が起きました。ただそれがドラスティックな社会の価値観の変化につながるかといえば、日本においてはやや懐疑的です。東日本大震災の後、経済偏重の価値観からの転換が言われながら、数年で元に戻ったと感じているからです。

 今後の世界的な感染拡大、第二波がどうなるか分からない状況下で、「ニューノーマル」が日本で定着するかどうかを予想するのも、正直難しいと思います。

──そのような状況のなか、広告や企業コミュニケーションを行ううえで大事なことは。

 コロナ禍では、あらためて広告が「不要不急の存在」であることがはっきりしました。世界的に見ても危機の状況下の企業コミュニケーションはとても難しく、普段は広告コミュニケーションに長(た)けた企業でさえネットでの炎上騒ぎに巻き込まれる例もありました。

 とはいえコミュニケーションは、一度止めると再始動のハードルが上がります。何らかのかたちで続けざるを得ません。そんな時に大事なことは、やはり原点に立ち戻ることではないでしょうか。withコロナの時代には、以前にまして真摯(しんし)なコミュニケーションが求められます。エモーショナルに訴えかけ、丁寧な説明を愚直なまでに行うことが大切です。そのうえで問われるのが、企業の「本気・本音・本質」だと思います。

──そのような観点から評価しているプロモーションはありますか。

 例えば、サンリオピューロランドのメッセージ動画「休んでたって、ここにいるよ」ですね。営業中止のお知らせとともに、再開したときに最高のおもてなしができるよう、従業員やスタッフが掃除や練習をしている様子を淡々と描いたものです。

 本来はネガティブな情報である、休業を知らせるために、わざわざ動画を制作した点にまずは「本気」を感じます。それでいて、メッセージ自体は「またぜひ来てください」といった「本音」です。綺麗ごとではなく、本音を本気で伝えたからこそ、この動画は共感を呼んだのだと思います。お客様をもてなし、楽しませることが自分たちの使命なのだという、エンタメ施設としてのぶれない「本質」も、しっかり伝わってきます。

 中高生のダンスをリモート撮影した、ポカリスエットのテレビCMも良かったですね。外出自粛期間中の中高生が日々をどう過ごし、楽しんでいるのかが分かり、ポカリスエットが時代と向き合う姿勢も伝わっています。「若者とダンス」というコロナ以前の企画を、リモート撮影で貫いたところがいい。ブランドの本質は変えないまま、時代に応じて表現をアップデートさせています。

──その他、注目されている企業コミュニケーションやマーケティングの動きはありますか。

 現代は、良くも悪くもあらゆるものがコンテンツ化する時代です。極端にいえば、無理に気の利いた広告メッセージを考える必要はありません。それよりも、社会のために取り組む企業の「本気・本音・本質」の行動が、人々の共感を呼び、マーケティングや広告として機能するのではないでしょうか。

 例えば、ルイヴィトンやシャープ、ユニクロなどがマスクの製造を始めました。あのように自社のリソースを使い、何とか社会に貢献しようと行った取り組みが、結果的にはマーケティングや広告として機能しています。

 その他にも、ミニシアターを助けるクラウド・ファンディング、旅館の名物をネット通販で売る試みなど、社会のために自分たちができることをやる。そんな大小さまざまな取り組みが、with/afterコロナ時代のムーブメントを牽引(けんいん)していくことになるのではないでしょうか。

── 近年、カンヌライオンズで大きなトレンドとなっている「ソーシャルグッド」や「ブランドパーパス」の流れが、一層加速するのでしょうか。

 そう期待しています。コロナ禍は経済格差や人種差別など、世界的な社会課題を改めて浮き彫りにしました。企業はそれに対してこれまで以上に真摯に向き合い、行動することが求められています。

 日本では社会貢献というと、本業で儲けた利益を使って余力でやるものといったイメージがあります。でも欧米の潮流は、それとはまったく異なります。これからの時代、ビジネスを持続的に成長させ、生き残っていくには、社会課題に真剣に向き合い、行動するしか道はない。

 残念ながら、多くの日本企業からは、そのような危機感が伝わってきません。しかしコロナ禍は、世界的にマーケティング産業を崩壊させかねない危機です。コロナの影響で今年中止になったカンヌでは、替わりにオンライン・セミナーのみ開催していますが、そこからは強烈な危機感が伝わってきます。そもそもこの10年のカンヌを牽引してきたのは、巨大テック企業の勃興でマーケティング産業の存在感が薄れることへの危機意識でした。そこで「クリエイティブ」と「ソーシャル・グッド」を旗印に、新興勢力との差別化を図る"生存戦略"にシフトしたわけですが、日本の多くの大企業にはこういった戦略や構想、思想がありません。

── コロナ禍を経た時代のメディアに期待することは。

 メディアも「本気・本音・本質」が問われます。たとえば、ニューヨーク・タイムズ(NYT)のTRUTHキャンペーンはそれを感じさせる取り組みだと思います。

 コロナ禍を通して、メディアに対する関心と不信の両方が高まっています。生活者のニーズを的確に把握し、課題解決を志向して、ある視点から情報をバランスよく提供する。そのためのキュレーション力が、ますます問われます。そのような蓄積があるトラディショナルなメディアを時代に最適化した形でアップデートさせることができれば、今後再評価されていくのではないでしょうか。

河尻亨一(かわじり・こういち)

銀河ライター/東北芸術工科大学客員教授

1974年大阪市生まれ。雑誌「広告批評」を経て、現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰、企業コンテンツの企画制作など行う。伝説のデザイナー石岡瑛子の評伝「TIMELESS」を、朝日新聞出版より今秋上梓の予定。翻訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS(クリエイティブ・スーパーパワーズ)』(左右社)がある。

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