アフターコロナ ―広告コミュニケーションのこれから

時間と空間の常識が大きく変わり モノとコトを行き来する「いいとこどり経済」が加速

博報堂 博報堂生活総合研究所 所長 石寺修三氏

 新型コロナウイルスの影響で生活者の行動は一変し、一部の業界では大幅に消費が冷え込んだこの春。その一方で、目覚ましく伸びた商品・サービスもある。コロナ禍を経て、生活者の心理や行動はどのように変化したのか。企業はその変化をどうとらえてマーケティングに生かせばよいのだろうか。博報堂生活総合研究所 所長の石寺修三氏に聞いた。※2020年6月15日取材

──withコロナ、コロナ以降の消費者の意識はどのように変化していますか。

 博報堂生活総合研究所では、緊急事態宣言発出直前の3月初旬から「新型コロナウイルスに関する生活者調査」を行ってきました。その結果によれば、3~4月には「不安度」が大きくなり、「生活自由度」が大幅に下がりました。5月には外出を控える、自宅で過ごすなどの「行動抑制度」や「行動変化度」がピークに。いずれも緊急事態宣言が解除された6月には落ち着いてきています。

(「新型コロナウイルスに関する生活者調査」より)

──消費行動はどのように変化していますか。

 消費動向自体は4月に一度下がったものの5、6月と復調傾向にあり、飲食やファッション、レジャーなどに対する消費意欲も上がっています。ただ、08年のリーマン・ショック以降続いている、より身近なものを求める「内向きモード」は加速しました。今後の傾向としては、社会貢献のような漠然とした意識の変化は元に戻りやすく、恐怖や便利、快感といった実体験に基づいた行動は元に戻りにくいと予測しています。これは東日本大震災の時も同様でした。

(「来月の消費予報(2020年6月)」より)

──コロナ禍で注目している業界・サービスはありますか。

 テレワークやデリバリーサービスなど生活者が新たに便利さや快適さを実感した商品・サービスはこれからも伸びるでしょう。ライドシェアやオフィスシェアなど交通・空間のシェアリングサービスは「密を生みやすい」という理由でビジネスが厳しくなる可能性が出てきています。ここ数年、サブスクやシェアリングサービスなど所有することを「決めない」消費傾向が顕著でしたが、「自分で所有する」ストック型の消費への揺り戻しが来るかも知れません。とはいえ、すべてのシェアリングサービ スがシュリンクするとは言い切れず、フリマアプリやクラウドソーシングなどモノやスキルをシェアするビジネスは今後も好調となると思われます。

 しばらくは「新しい生活様式」に基づく消費行動と、オフィスへの出勤や外食など従来の消費行動が併存する状態が続きます。生活者は「オフィスかテレワークか」「リアルかデジタルか」と二者択一で選ぶことなく、その時々で自分にとって最適なサービスを「いいとこどり」する傾向が強くなるのではないでしょうか。

 企業から見れば消費者の行動が複雑化したように見えますが、生活者からすれば多様性が生まれたということ。マーケターは打ち手が増えたとポジティブにとらえ、生活者の心理・行動変容に則した商品・サービスを提供するとよいでしょう。

──こうした心理・行動変容を企業はコミュニケーションにどう生かせばよいでしょうか。

 「モノ」と「コト」をうまく組み合わせることが重要だと思います。コロナ前は「モノからコトへ」と言われてきましたが、これからは「モノ」と「コト」を行き来したり、「コトの中にモノを」内包したり、あるいは「モノ+コト」で提供したりなど、状況に応じてベストな組み合わせを考えてみると良いでしょう。例えば、酒類メーカーが事前に商品を提供して「オンライン飲み会イベント」を開催したり(「コトの中にモノを内包」)、リアルの場に集客できない映画館やライブハウスがECグッズ販売に力を入れたり(コトからモノ)。観光業界がライブ動画配信を通じて観光地の見どころを伝える「バーチャルツーリズム」を提供し、同時にコロナ後に利用できる宿泊チケットを販売する(コト+モノ)といった手法がその好例です。

 生活者にとって時間と空間の常識は一変してしまいました。例えば店舗型のスーパーマーケットを利用する時と違い、ネットスーパーなら深夜でも、リビングや寝室からでも注文できます。このように時間と空間の常識をがらりと変えるサービスやコミュニケーションが重宝されることになりそうですね。

──メディア接触に変化はありますか。

 暮らしの中でどのメディアにどんな役割を持たせ、どれだけの時間を割くか…というメディアの「ポートフォリオ」が大きく変わりました。在宅生活の中で、仕事や家事など他のことをしつつ「ながら時間」を有効活用できるラジオの接触が大幅に増えました。

 今回、「インフォデミック」という言葉が生まれたように、新型コロナウイルスに関する真偽含めた情報が世の中に溢(あふ)れました。日々刻々と変わる情報に触れた生活者は、情報を冷静に見極めて選択したいという意識が高まっています。客観性の高い「インフォメーション」と主観的な「オピニオン」の違いを自分で判断したいと考える人が増え、情報リテラシーが上がったように感じます。

──新聞や新聞広告の持つ役割はどのように変化したでしょう。

博報堂生活総合研究所 所長石寺修三氏

石寺修三氏

 新聞は紙面のすみずみまで精読でき、一つの見解に偏ることなく様々な専門家や識者の意見が併記されているところが大きな強みです。情報を冷静に取捨選択したい生活者のニーズにマッチしたと言えます。また、一つのメディアに生活面、文化面、政治面、国際面があり、社会を様々な角度から俯瞰(ふかん)できる総覧性の高さも、情報の取捨選択に適しています。自分の生活と社会、世界が地続きになっていることを実感しやすいのがいまの気分に合っているようです。

──石寺さんはwith コロナという視点には限界を感じているそうですね。

 マーケターは「afterコロナ」で発想した方がいいのではないでしょうか。「withコロナ」で考えると、どうしても現在の延長上で考えがちで短期思考になって、発想に制約や停滞感がつきまといます。仮説でもいいので「afterコロナ」にはどんな世界が広がっているのか想像を膨らませ、自由な発想で商品・サービスを生み出したいですよね。

石寺修三(いしでら・しゅうぞう)

博報堂 博報堂生活総合研究所 所長

1989年に博報堂入社。マーケティング・プラナーとして得意先企業の市場調査や商品開発、コミュニケーションに関わる業務に従事。以後、ブランディングや新領域を開拓する異職種混成部門や、専門職の人事・人材開発を担当する本社系部門を経て、2015年より現職。博報堂グループのフィロソフィーである「生活者発想」を軸とした調査研究を続けている。著書に『生活者の平成30年史 ~データで読む価値観の変化~』(共著・日本経済新聞出版・2019年)、『地ブランド ~日本を救う地域ブランド論~』(共著・弘文堂・2006年)など。東京農工大学、法政大学非常勤講師。

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