コロナを超えて ─変わる企業、変わるコミュニケーション

新聞の信頼性や権威性を前提に、ユニークな広告を展開。SNSを起点に拡散を狙う

BASEクリエイティブディレクター/奈良新聞社取締役 西島知宏氏

 クリエーティブディレクターの西島知宏氏は、コミュニケーション領域のコンサルティングや広告制作などを手掛けながら、月額1,000円で広告に特化したオンラインイベント「ADBOX」を主宰し、奈良新聞社では、デジタル担当の取締役として数々のプロジェクトを担当している。そんな西島氏に、改めて新聞のメディアとしての価値や、新聞広告の可能性、新聞社がデジタル施策を展開する目的や意義などについて聞いた。

――奈良新聞社では、デジタル担当の取締役として数々のプロジェクトを担当されています。西島さんが着任されてから新たに始めたことと、その狙いを教えてください。

西島知宏氏西島知宏氏

 デジタルメディアを強化している理由は、奈良新聞に限ったことではないと思いますが、新聞の発行部数が年々減少しているからです。人口の減少やデジタルをはじめとしたメディアの多様化を考えても、今後、新聞の発行部数を伸ばしていくことは難しいと思います。

 とはいえ、発行部数が減少すれば媒体価値の低下につながるため、手立てが必要です。そこでまず奈良新聞では、二つの施策に取り組むことにしました。一つが、奈良新聞のデジタル媒体の会員だけにサブスクリプション型でコンテンツを提供する「奈良新聞デジタル会員限定コンテンツ」です。テキストコンテンツをベースとした従来型のデジタルメディアではなく、イベント、動画コンテンツ、その他様々なサービスを月々定額で提供することで奈良新聞社に新たな収益の柱を作ろうとしています。

 もう一つは、「広がる広告プロジェクト」と称したブランディングのための社内プロジェクトの立ち上げです。新聞広告がSNS上で話題になると、500万から1,000万くらいのインプレッションが狙えます。SNS上での拡散を狙った紙面企画に強い新聞社になることができたら、今後新聞の発行部数が減少しても、インターネット上で露出量を補うことで純広告の掲出を増やしていける。そうした考えをもとに「広告が一番面白い地方新聞になる」というスローガンを社内で掲げ、ブランディングに取り組んでいます。その事例の一つが、2019年11月9日の奈良新聞に掲載したクリーニングモリの「白紙広告」です。真っ白に洗い上げるというクリーニングのサービスをシンプルに「真っ白なビジュアル」で表現しました。新聞は文字がぎっしり詰まった読む媒体だからこそ、真っ白なビジュアルは相対的に目を引き、その異質なデザインがSNSでの拡散も狙えると考えました。狙い通り、読者が広告を写真に撮ってSNSにアップしたことをきっかけに拡散され、ツイッター上で300万以上のインプレッションを獲得。WEBのニュースをはじめ、テレビ番組でも取り上げられるなど、最終的には累計1,500万以上のインプレッションを獲得できました。

クリーニングモリ「白紙広告」 2019年11月9日付 奈良新聞 クリーニングモリ「白紙広告」

――新聞とSNSとは親和性が高いということですね。

 非常に相性がいいと思っています。以前から感じていることですが、新聞は平面のクリエイティブで、表現への理解の速度が速く、動画などよりも記憶しやすい傾向があり、気軽に広告を撮影してシェアすることができます。また、新聞には真面目で「お堅い」というイメージがありますが、だからこそユニークな広告が載ると「新聞なのによくやった」ということで拡散してもらいやすい。誰もがSNS上でネタ探しをしている状況においては、格好の題材となり得るんですね。

 大きな平面の紙媒体という、物理的な優位性も見逃せません。記録性、保存性という意味で優れているのはもちろん、何よりも大きな紙面で展開できることが広告表現としての発想の幅を広げてくれると思います。私が奈良新聞のブランディングの一環で立ち上げた「クリエイティブ・アド」は、こちらが提示する課題に合わせてオリジナルの全15段の新聞広告を制作して応募するコンペで、毎月受賞作品を奈良新聞に掲載しています。どれも自由な発想でとても面白いので、新聞に掲載されるとSNS上で拡散され、話題になっています。

 こうしたSNSでの拡散を考慮した新聞広告の考え方は、部数減を補って余りあるインプレッションを獲得できるので、これからの新聞の活用という意味で重要な示唆を与えてくれるのではと思います。

――コロナ禍において、働き方やライフスタイルなど、私たちの価値観はダイナミックに変化し始めています。そんな状況の中で、メディアはどのような役割を果たすべきだと考えますか。

 コロナ禍とは直接関係ないのですが、アメリカの大統領選挙のニュースを見ていて、あらためて新聞メディアの価値は信頼性だと思いました。SNS上では、いくつものフェイクニュースが拡散されていて、それを信じてしまう人もいる。だからこそ、ニューヨークタイムズなどは速報も慎重に出していて、伝統あるメディアのプライドのようなものが感じられました。SNS上での情報発信が当たり前になった今、これまで以上に、信頼性は新聞のメディアとしての価値になると思います。

――企業のミッションやパーパスといったメッセージは、新聞との親和性が高いとも言われています。企業の社会的なメッセージを掲載した広告をSNSで上手く拡散させるために、必要なこととは何でしょうか。

 新聞広告がSNS上で注目されるのも、新聞が長年培ってきた信頼性や権威性あってのものだと思います。その前提があるからこそ、ユニークなクリエイティビティが際立つ。そんな新聞の特性を理解した上で、今まで通り「WHAT」「HOW」を研ぎ澄ませていくということが重要だと考えます。

 たとえば、2019年8月9日付の朝日新聞朝刊にユーグレナが「CFO(Chief Future Officer=最高未来責任者)募集、ただし18歳以下」というキャッチコピーの広告を掲載して話題になりましたよね。それは何を訴えかけるかという「WHAT」に独自性があり、社会性のあるメッセージでもあったので話題になったのだと思います。また新聞は、日付を限定できるというのも魅力の一つです。そのメッセージをいつ発信するか。「WHEN」にこだわることで、同じメッセージでもインパクトや影響力を格段に大きくすることができる。これからは「いつ発信するか」というのも、新聞の価値を最大限生かすためのポイントだと思います。

ユーグレナ広告

2019年8月9日付 朝日新聞朝刊 全15段827KB

 私は日頃から、朝日新聞の広告に注目しています。新しい挑戦もしていて、ユニークな広告を掲載されていますよね。私も制作に携わった2019年に掲載された「新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」(2019年度日本新聞協会「新聞広告賞」受賞)は、漫画の中にしか存在しないクリエーターの企画と実在するGOという会社のクリエーターが競合プレゼンを行い、読者のネット投票で選ばれた広告が実際に新聞に掲載されるという、今までにない面白い取り組みだったと思います。

 新聞には、号外やテレビ欄といった独自の表現もあります。そうした既存の表現の解釈や使い方を変え、クリエイティビティを加えられたら、メディアとしてさらに活用の幅が広がるのではないでしょうか。今後も、新聞広告の可能性を探っていきたいと思っています。

西島知宏(にしじま・ともひろ)

BASEクリエイティブディレクター/奈良新聞社取締役

電通を経てBASE設立。デジタル会員向けの無料広告コンペ「クリエイティブ・アド」や個人が出せる新聞広告「アドレター」など新聞が持つアセットを活用したサービスの開発を行う傍ら、クリーニングモリ「白紙広告シリーズ」をはじめ話題になる新聞広告の企画・制作にも取り組んでいる。著書『思考のスイッチ』は日韓で発売。Twitterのフォロワー(@t_nishijima)は1万4000人超。

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