トランスフォーメーションはカタチにできるのか

ソーシャルメディア時代の社会の風をブランドの追い風に

博報堂 統合プラニング局 チーフPRディレクター 本田能隆氏/ ライター・編集者・PRプランナー 中川 淳一郎氏/ ライター ヨッピー氏

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社会の風を読み企業の姿勢を発信、共感を呼ぶ広告でファンを増やす

──「風の間」の活動についても教えてください。

本田:若手に向けた勉強会と、週に1回くらい「風を読む会」という勉強会を開催しています。今はコロナ禍なのでオンラインで実施しているのですが、たいてい20~30人は参加しています。

中川:若手の勉強会では、ソーシャルメディアのニュース編集者や、ビジネス系メディアの男性と女性の編集者2人を講師として呼びました。講師の人選は、若手からのリクエストでした。風を読む会では、参加メンバー各自が気になっているニュースを持ち寄り、それぞれが意見を言い合っています。たとえば、ネットで炎上した案件について、受け入れられなかった理由や挽回(ばんかい)策などを議論したりしています。

ヨッピー:他のタレントさんだったら炎上しなかったのではないか、とかね。

本田:ネットで炎上するケースは一つの事情とは限らないことも分かりました。中川さんとヨッピーさんは「よろず相談役」という立ち位置なので、社内の様々な部署の人たちが相談しています。お2人がプランナーとして競合プレゼンの企画から参加するケースもあります。その他にも、得意先に向けての「風を読む」勉強会も開いています。外から見た客観的な意見やSNSのトレンドが知れる場として好評を得ています。定期的に立ち止まって「社会の風」がどのように吹いているのかを冷静に考える場は必要だと思います。

ヨッピー:僕が「風の間」に参加するモチベーションは、広告に対する偏見や誤解を解きたいという思いです。広告は世間から、無意味に嫌われがちですよね。広告業界も広告会社も同様です。だけど、実際には、いい広告もたくさんあって、僕がかつて手掛けた記事広告も「内容が面白かった」と、いろんな方々に褒めてもらえたことがあります。広告を出す企業も、利益の追求だけが目的とは限らない。自分たちの利益がたとえ下がったとしても、社会が良くなるためのメッセージを発信している広告などもあります。ある医薬品メーカーの広告は、自分たちの商品が必要となる人が増える時期に、その商品を使わなくても済むような新しいルールを提言していました。多くの人が共感できる内容だったので、結果的にその企業のファンになった人は増えたはずです。そういった素晴らしい広告が、世の中で正当に評価されてほしい。そのためにも社会の風をうまくとらえることは大切で、そのお手伝いができたらいいなと思っています。

本田:その事例は「風を読む会」でも取り上げてくれていましたね。風を読んで、自社の存在意義を改めて社会に発信する、合意形成を図るというアクションは「風の間」が目指している一つのアプローチでもあります。

ヨッピー:どうやったら好かれるか。みんな考え始めていると思います。

中川:今、新型コロナウイルスの影響でダメージを受けたあるサービスについて企画しています。必要性をどう伝えていくか考えている段階でのクリエイティブ案は、「愛されていることを前提としたサービス」として考えられたものでした。ただ、そのサービスに対するネットでの評価は少し違うんです。社会の風を追い風にするためにも、ネットでの状況を資料としてまとめたところです。

本田:中川さんがまとめた資料で得意先に話したところ、「ネットではそう見られているのか!」と非常に驚かれ、違うアクションを検討することになりました。ネットにどっぷり漬かっていないと見えないことが多い。その結果、共感を得るどころか、風を読み違えて炎上してしまうことがあるなと感じています。

中川:僕が競合プレゼンに出す企画は、編集者として取材しようと思える内容です。そのことは、プレゼンのとき得意先にも伝えています。一般的なPR会社は、「こういう切り口であれば、メディアで記事にしてもらえるかもしれません」といった提案が限界でした。それは編集者じゃない人が考えているからですよね。僕は編集者で、自分が関わる媒体がいくつもあり、それぞれどんな内容だったら記事にできるか分かります。

──「風の間」の社外メンバーは、今後も増やしていく計画ですか。

本田:そうですね。統合プラニング局には、クリエイティブからマーケティング、デジタルが得意な人材などすでに多様なスタッフがいます。そこに例えばインスタグラムが得意な人など特定のジャンルに強いインフルエンサーの方々にもメンバーになっていただき、より良いソリューションを提供していきたいと思っています。

ヨッピー:TikTokの風とか、中川さんも僕も分からないですからね。それを読める人もいたほうがいい。今後、YouTube勉強会も開催する予定です。芸能人ユーチューバーやビジネスユーチューバーが増えていて、YouTubeの世界も変化しています。5年後のYouTubeがどうなっているか、トップランナーには見えているはず。

本田:中川さんやヨッピーさんと話していると、社会の風を起こしているのは「人」なんだと気づきます。僕らはついPVの数やランキングの順位ばかり注目してしまいますが、それだけでは社会の風は読めないことも分かりました。PRの企画もイメージではなく、ファクトベースで考えることが前提です。その考えは以前から変わらないのですが、今はより一層そうであるべきだと思っています。

ヨッピー:時代の風がそうですからね。イメージだけでは売れないし、うそもすぐばれる。魅力のない商品を無理やりPRすると、あらゆるものが全部一緒に燃えちゃいます。

中川:風を起こせると思っている方がいたら、それは違うと思います。風を意図的に起こして論調を変えられないからこそ、どの風に乗るべきか見極めることが大事なんです。ネットで話題になって、どんなに大きな風が吹いていても、今、その風には乗るべきではない、ということもあります。

本田:そういった意見を僕らが翻訳して、得意先に伝えています。組織の中にいると保守的になりがちなので、週に1回開催している「風を読む会」は、立ち止まって企画を見直すことができる、いい機会にもなっています。

本田能隆(ほんだ・よしたか)

博報堂 統合プラニング局 チーフPRディレクター

2001年入社、CC局(現・PR局)に配属。デジタル系セクションに複属。マーケティングPR業務を中心に、PR発想による統合コミュニケーション、社会テーマの合意形成、SNS・オウンドメディア・コンテンツ制作など幅広い業務に従事。デジタルPRのソリューション開発も行う。カンヌライオンズ銅賞他受賞

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ライター・編集者・PRプランナー

1973年生まれ。東京都立川市出身。一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

ヨッピー(よっぴー)

ライター

「オモコロ」「SPOT」「Yahoo!ニュース個人」「みんなのごはん」など、さまざまなWEBメディアで活躍中のライター。「WEBでウケること」の第一人者として、タイアップ広告案件なども多数手がける。

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