トランスフォーメーションはカタチにできるのか

難しいことを分かりやすく、気持ちのいいUI・UXを目指す

博報堂 統合プラニング局 インタラクティブディレクター/クリエイティブテクノロジスト 栗田昌平氏

博報堂のクリエイティブ部門・統合プラニング局からさまざまな領域の強みを持つメンバーが登場し、変化するビジネスニーズにどのように向き合い実行しているかを紹介するシリーズ「トランスフォーメーションはカタチにできるのか」。第4回は、同社インタラクティブディレクター/クリエイティブテクノロジストの栗田昌平氏が登場。広告制作と並行して、デジタルを活用した新領域のサービス開発を手掛けている。そんな栗田氏に、テクノロジーやデータとクリエイティブをテーマに話を聞いた。

──栗田さんは日頃、統合プラニング局でどういった仕事をされているのでしょうか。

 僕は博報堂に入社する前は、大手電機メーカーでエンジニアとして働いた後、博報堂に転職。当初は研究員として様々なデータを分析したり、アドソリューションなどをつくったりしていました。その後、クリエイティブ職への異動を希望し、試験に合格して現在に至ります。最近手掛けている仕事は、マス・デジタル広告の制作と並行して、テクノロジーやデータを活用した新しいサービス開発やプロトタイピングなどを行っています。

──後者はどのようなものですか。

 僕がやっている新領域の仕事は、主に「サービスのUI・UX開発」と「テックパートナーやプラットフォーマーとの連携による開発」、「R&Dから仕事を作る」という三つに分類できます。一つ目の「サービスのUI・UX開発」では、音楽ストリーミングサービスの機能を活用した新しい音楽の楽しみ方の提案として、SNSのトレンドワードやニュースメディアの見出しなどの「言葉」をキーワードにして、プレイリストをつくるというサービスを企画しました。ユーザーの反応などを見るためのテストとして、ニュースメディアで展開したこともあります。そのときは、記事のキーワードや取材した方の身近にあった曲を聞き取り、記者と一緒にプレイリストを制作。手動で行ったのですが、読者からの反応は好意的なものが多く、可能性を感じることができました。そのサービスを搭載したハードウエアなども開発中です。

 二つ目の「テックパートナーやプラットフォーマーとの連携による開発」では、インターネット関連のサービスを提供している企業と連携し、小さなエリアに特化して広告が配信できるソリューションを開発しました。デジタル広告は一般的に本社が一括して広告を配信することが多く、細かい店舗ごとの情報を配信することはあまりありません。しかし、もし「今日、うちの店ではこの商品が売れ残りそうだから駅前でチラシを配ろう」といった感覚でデジタル広告を各店舗が配信できたら、便利ですよね。それを実現するチャレンジとして、各店舗の状況に合わせてデジタル広告を配信できるシステムを開発しました。ポイントは、パソコン操作になれていない方でも簡単に使え、忙しい店舗の現場でもスピーディーに使えるUIにしたことです。入力は3ステップのみ。それだけでバナー広告が自動生成され、数時間後には近隣エリアに配信されていくシステムを構築しました。汎用的な仕組みとして構築したので、レンタカーサービスの店舗でも活用されています。

 他にも、テックパートナーの技術力や演出力で生活者のニーズに応えるサービスを考えるというお題で、バーチャル空間でイベントやショッピングが楽しめるサービスの企画なども行っています。あと、カラオケの映像を歌詞から自動生成する企画も進めています。分解した歌詞のフレーズを、登録制の画像検索サービスで検索し、出てくる画像をつなぎ合わせつつ演出も加えるというアイデアです。

 三つ目の「R&Dから仕事を作る」は、シーズレベルからビジネスを生み出すコトにも挑戦しています。例えば、人工生命の研究の一貫でアート作品をつくるという、社内での取り組みがありました。僕はSNSでつぶやかれている文章を分析して、そこで使われている絵文字とリンクさせて「食物連鎖」をテーマにした作品を制作。その作品のアイデアに共感してくれた会社とともに、全世界で使われている絵文字をリアルタイムで表示してインタラクティブな体験ができる作品に進化させました。機会があったらお披露目できたらいいなと思っています。 

AIは万能ではなく、人間の仕事をサポートしてくれるツール

──テクノロジーをつかったサービス開発において、大切にしていることは何ですか。

 難しいことを簡単に「翻訳」することです。指針にしていることの一つが、「自分の母親でも使えるかどうか」。そうすると、自然と「翻訳能力」が高まると思っています。 発想方法は、案件によっても違いますが、基本的にはこれまでの広告制作と同じ。ターゲットのインサイトを見つけ、その解決のために担当している商品やサービスがどう貢献できるか。商品やサービスがテクノロジーに置きかわりますが、考え方は一緒です。

 インサイトを見つける方法は、いろいろあります。例えば、自分がヘビーユーザーだったら、きっと課題や物足りなさといった不満もあるはずなので、そこからインサイトは見つけられる。自分が使い込めていないものは、ソーシャルリスニングが有効だと思っています。ソーシャルリスニングなんてみんなやっているよ、と思われるかもしれませんね。けれども、実は探し方にもコツがあります。例えばTwitterで「朝日新聞 話題」と検索したいキーワードを入れると、拾い上げてくるものも大きくなる。それが必要な場合もありますが、目的に応じてもう少し絞り込みたいときは、「いいね」の数が100個以上、リツイートの数が200個以上の投稿に限るといった、数を指定して検索することもできます。意外と知られていないのですが、クエリをかけて検索することもできます。

──栗田さんが開発を担当されたAI技術でキャッチコピーを作る「AIコピーライター」や、アイデア発想支援システム「AIブレストスパーク」など、クリエイティブの領域でAIを活用するサービスは、人間の仕事を奪っていくというイメージも少なからずあると思います。それについては、どうお考えですか。

 AIは決して万能ではなく、ツールだと思っています。AIは、あくまでも人間をサポートしてくれるもので、任せっきりにできるとか、なんでも解決してくれるとは一度も思ったことはありません。ただ世の中には、AIは万能だというイメージを持っている人も多い。社内でも「AIブレストスパーク」の話をするときは、必ず「これはみなさんの仕事を奪うものではありません」と伝えています。「AIブレストスパーク」の発想の源は、博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクターの八幡功一のメソッドです。そのメソッドをテクノロジーによって機械化したら多くの人に使ってもらえるし、きっと需要があると思い、開発しました。

──R&Dから仕事をつくるとき、テクノロジーやデータはどこで見つけることが多いのですか。

 僕は社内のR&Dのセクションにも所属しているので、そこで研究していることを活用することも多いです。あとは、Twitterでテクノロジーに興味を持っている人をフォローしていると、その方が「こんな技術がある」といったつぶやきから得ることもあります。あとは、朝日新聞社の動画メディア「bouncy(バウンシー)」をはじめ、テック系に強いニュース系のメディアは一通りチェックしています。僕はエンジニア出身なので、テクノロジーから考えることが得意。こういう技術があるんだけど、何かサービスに生かすことはできないかといったパターンです。とても素晴らしい技術なのに、生かされてなくてもったいないと気づいたときが、一番テンションが上がります。

──マネタイズはどのタイミングで考えるのですか。

 統合プラニング局には、ビジネスプロデューサーも所属していて、彼らと一緒にマネタイズについては考えています。ビジネスプロデューサーは新しいサービスやソリューションを開発していくとき、マネタイズのポイントを考えたり、使っていただけそうな企業を探ったりすることが仕事。どういう風にセールスすれば、この企画がもっと魅力的に見えるか。その視点からアイデアが生まれることもあります。それは、ビジネスプロデューサーらしい視点であり、クリエイティブとテクノロジーを融合させ、新しいビジネスを作るうえで欠かせないものだと言えるでしょう。

ついやりたくなる、気持ちのいい体験をつくることが理想

──「テックパートナーとの連携」でお話があった、バーチャル空間でイベントやショッピングが楽しめるサービスの開発は、新型コロナが流行したことでニーズはより高まっていますよね。

 この状況の中で、いち早く新しいサービスを生み出したいと思っています。それは、僕らだけではなく多くの企業が意識していると思います。とはいえ、オンラインでの疑似体験を、どんな世界観の中でおこなうことが求められているかが、まだ定まっていない気がします。完全にバーチャル空間にするのがいいのか、もしくは、ライトにアイコンだけで参加できるのがいいのか。リッチにすればするほど、ネットワーク環境を整える必要があり、PCやスマホにも負荷がかかります。ただ、ライトにすると没入感がなくなってしまう。要するに、一番気持ちのいいUXはどういったものなのか、答えが出ていない中、探っている状態です。

──企画しているものが、どういったアプトプットになるか、イメージを共有することは大事ですよね。エンジニアではなく、テクノロジーにもあまり詳しくない人たちとコミュニケーションする上で、工夫していることは。

 言葉で説明しても伝わらないことは、確かに多いです。だから、まずは動きのあるプロトタイプをつくって、実際に感じ取ってもらうようにしています。それは必ずやっていることですね。静止画より動画のほうが、面白さに気づいてもらえたり、関心を持ってもらえたりするので、打ち合わせのときはプロトタイプやベータ版を用意していきます。インタラクティブディレクターの仕事は、単に便利なものを開発するのではなく、「気持ちがいい体験をつくる仕事」だと思っています。気持ちがいいとは、どういうことか。それは、「ついやりたくなっちゃう」「つい続けたくなっちゃう」「ずっと見ていられちゃう」「どうしてもやっちゃう」というようなこと。その要素の一つが、誰でも簡単に使えることであり、難しいことを、どれだけポップにできるか。そのことも意識しています。テクノロジーに造詣(ぞうけい)が深い人たちに届けるものであれば、逆に使いづらいとか、余計な演出が入っているほうがカッコイイこともあります。ターゲット次第ではありますが、テクノロジーを駆使しながらも、気持ちのいいものを目指しています。

──日頃はマス・デジタル広告も手掛けていますが、両立するメリットは。

 マス広告は、限られたスペースや時間の中で、わずかな情報で生活者に情報を届けていますよね。そぎ落としたり抽象化したり、その表現方法はテクノロジーの領域でも生かせると思っています。一方、広告制作で自分の強みを生かせることもあります。データとしてこういうファクトが存在するから、コンセプトの方向性はこれでいいと思う、と自信をもって選択できることもあります。新領域でクリエイティビティを発揮するためにも、今は広告制作と新領域の仕事を両立させることが必要なことだと思っています。

栗田昌平(くりた・しょうへい)

博報堂 統合プラニング局 インタラクティブディレクター/クリエイティブテクノロジスト

大学卒業後、電機メーカーにエンジニアとして入社。UI/UX開発、データ分析に携わり、その後博報堂入社。マス、デジタルのプランニングに加えて、データやテクノロジーを活用した、体験やサービス開発業務などに従事。(SMAPとあいみょんが好き。)

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