トランスフォーメーションはカタチにできるのか

認知と購買をつなぐ「ミドルファネル」の設計力で、マスデジプラニングの断絶を解消させる

博報堂 統合プラニング局 IMCディレクター クリエイティブストラテジスト/ディレクター 相沢理人氏

 博報堂のクリエイティブ部門・統合プラニング局からさまざまな領域の強みを持つメンバーが登場し、変化するビジネスニーズにどのように向き合い実行しているかを紹介するシリーズ「トランスフォーメーションはカタチにできるのか」。第8回は、同社統合プラニング局の相沢理人氏が登場。統合型のマーケティング「IMC(Integrated Marketing Communication)」に取り組む相沢氏に、マスとデジタルを統合的にプラニングする際に直面する課題と、その解決策となるミドルファネルの攻略方法など、「マスデジプラニングの新潮流」について聞いた。

マスデジを「満たす」だけでは、本質的な統合にたどり着けない

──まず、マスメディアの広告とデジタルを統合するコミュニケーションの課題について教えてください。

 統合コミュニケーションというのは、生活者の実態や企業課題に合った最適なタッチポイントや手法を組み合わせて、マーケティングゴールへの一連のシナリオをつくっていくわけです。ただそこにマスやデジタル、ブランディングや売り上げ、そうした異なる思想や目的が混在すると、開発プロセスがバケツリレーになったり、評価指標がバラバラになったりしてしまうことも多く、結局は個別最適・個別評価の集合になるというジレンマがありました。それでは正しい相乗効果も総合評価もできない。ただ複数のタッチポイントを埋めるだけでは、本質的な「統合」にたどり着いていないわけです。

 たとえば、テレビCMで認知度や好意度を大きく引き上げても、その先の体験と正しい導線がなければ機会ロスを生みますし、その足跡をきちんと追えなければ、設計のどこにボトルネックがあったのか、正しい振り返りもテコ入れもできなくなってしまいます。施策に対して定性的な満足度を計測して終わってしまい、事業成果との因果があいまいなままでは、ある種の博打(ばくち)のような仕掛けを繰り返すことになります。

 また、マス広告などの認知施策と、デジタルの獲得施策をバラバラに捉えると、ブランディングの正しいコントロールができず、獲得効率の悪化を招く結果にもなります。つまり360度フルファネルで施策がプロットされ、顔つきとしての「マスデジ」は満たしていても、それだけで機能するとは限らないわけです。そんなマスデジプランニングの断絶を解消させる鍵となるのが、認知と購買をつなぐ中間の「ミドルファネル」の設計だと考えています。

──ミドルファネルの施策は、どういったものがあるのでしょうか。

 代表的なものとしては、たとえばウェブ動画があります。商品に振り向きそうな見込み層をデータから割り出し、それぞれにパーソナライズしたメッセージで語りかけて、その後のサイト来訪や検索行動につなげるウェブ動画は、幅広いリーチ重視のテレビCMとは役割が違います。認知以上・購買未満のターゲットを、商品が手に届く距離まで一歩近づけさせる。そんな仕掛けや仕組みをミドルに設置することで、コミュニケーションの全体最適を図ろうという考えです。

 そのためにまず重要なのは、認知の先でどんな行動や気持ちをつくれば、購買行動へつながるのかを見極めることです。たとえば、生活の困り事に対して「共感を得る」ことが購買につながるトリガーになるなら、ひとりひとりに合った共感シーンとその解決策をウェブ動画で伝えることが有効かもしれません。それが「機能への納得感」であれば解説コンテンツ、「価値の実感」であれば体験機会の提供、「第三者からの推奨」であればPRやインフルエンサー施策というように、必要な態度変容に最適な手法を組み合わせていくわけです。

 そのトリガーとなる気持ちや行動を明らかにするために、僕らはアッパーとロワーの両方向からミドルファネルの鍵を探っていきます。中間の意識や行動を見つけるためには、スタート地点=アッパーファネルにおける一般生活者の姿やそれを取り巻く社会環境と、ゴール地点=ロワーファネルにいる既存ユーザーの気分や状況を捉え、その間に一体どんなアクションが生まれたら、両者のパスが正しくつながるのかを明らかにする必要があります。そのために、博報堂が得意とする生活者の意識や社会潮流を捉える知見と、プラットフォーマーのもつ様々な行動データを組み合わせたりして、ミドルファネルの見立てを行っています。

 この方法論は、組織やチームによっても様々なアプローチがありますが、この中間地点を軸に設計を描くことで、マス広告ではまずどんな気持ちや行動を起こせば良いか、ミドルにどんな仕掛けを置けば良いか、購買地点ではどんなメッセージで後押しすれば良いか、それぞれの役割に沿った最適なクリエイティブを開発できるようになるわけです。そしてひとつひとつの行動を調査やアクチュアルデータの両方向で可視化し、事業成果との相関も見ながら全体の効果検証につなげていきます。

ミドルファネルの設計シナリオ

これからは、ビッグアイデアより持続性のあるビッグソリューション

──ミドルファネルを軸に、施策全体がどう機能しているか説明できるようになるのは、とてもいいことですね。得られた成果はどうやって生かしていくのでしょうか。

 PDCAの意味合いも変わってきているように感じています。ユーザーによって、ブランドの価値やパーソナリティーが再解釈・再構築される時代だからです。たとえば、インスタグラムは当初、位置情報共有アプリとして開発されました。それがローンチしてみたら、写真を共有するために使う人たちが多かった。どう使って欲しいかではなく、どう使われているのかという実態を見て、あらためて写真共有アプリとしてリローンチし爆発的ヒットにつながったという話もあります。自分たちがこうありたいとか、こう使ってほしいという意図は言うまでもなく大切なことですが、実態からさかのぼって改善を行うことで、ウィンウィンの関係性になることもある。ブランディングと獲得という思想は、真逆に見えて、実はもっと近くに存在し合うべきものかもしれません。

 広告運用の中で生活者がどこに反応して、どこで離れたのか。そこには「生活者の意思」が凝縮されています。一方、ブランド運用は、社会に対して何を約束して、どういう存在でありたいのか。どういう人に使ってもらって、どんな風に日常に存在していたいかという、「企業の意思」が詰まっています。この両者を両立するベストポジションを探るために、運用成果から逆上がりでコミュニケーション戦略全体をチューニングし、ブランド運用へとフィードバックさせてリプラニングしていく。このように、PDCAのサイクルを大きく捉える視点もこれからは必要になってくると思います。

──これからのマスデジプラニングのあり方は。

 マスとデジタル、ブランディングと売り上げをどう両立させるかは、我々の大きなテーマのひとつですが、生活者の環境の変化やプラットフォーマーの進化によって、プラニングの形も変わりつつあります。事前の仮説をより確かな見立てと設計で組み立てて成功率を上げ、そして実装した後も、答え合わせをして循環させていくことが大事だと思っています。

 これまでデジタルマーケティングの世界では当たり前だった思想が、マーケティングコミュニケーション全体に拡張しています。そのような中で、以前にも増して求められているのは、コミュニケーションを単発で終わらせず、持続的に成長させることです。ですから僕らのミッションは、キャンペーンをアウトプットするだけでなく、中長期的に成長していけるスキームをブランドに実装させて、伴走することだと思っています。そのためには、瞬間風速のビッグアイデアではなく、そこに持続性も加えたビッグソリューションを作りあげられたらいいなと思っています。

相沢理人(あいざわ・りひと)

博報堂 統合プラニング局 IMCディレクター クリエイティブストラテジスト/ディレクター

外資系広告会社を経て、2015年博報堂入社。インタラクティブ領域を軸足に、マスデジ横断型の統合コミュニケーション開発や、プラットフォーマーとの協業によるクリエイティブ開発に従事。

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