科学者の名言を毎朝紹介 “じわじわ”と読者の興味喚起を目指す

「最高の勝利は、自分を乗り越えること(プラトン)」「現実は常に公式からはみ出す(ファーブル)」……東京理科大学は5月から6月にかけて朝刊社会面にシリーズ広告「今日をステキにする科学者の名言」を出稿した。発案者である藤嶋昭学長は「科学の楽しさを知ってほしい」と、その意図を語る。

ブランディングを目的とした38日間連続の小型広告

藤嶋昭氏 藤嶋昭氏

 6月14日、東京理科大学は創立134周年を迎えた。毎年、創立記念日には新聞広告を出稿してきたが、今年の企画は一風変わっていた。5月8日からの38日間連続で、シリーズ小型広告を出稿したのだ。「今日をステキにする科学者の名言」と銘打って、世界中の科学者の名言をひとつずつ紹介。創立記念日当日には、すべてをまとめた全15段広告も併せて掲載した。

 小型広告も全面広告も、東京理科大学の名称はごく控えめで、決して目立たない。「毎朝の広告を通して、“じわじわ”と認知を広げたいと考えました。理科大自体、実力主義を掲げて、地道な研究で“じわじわ”と信用を得てきましたから」と語るのは、本企画の発案者である藤嶋昭学長。世界で初めて「光触媒」を発見し、今も自らの研究と指導を続ける傍ら、子供向けの出張授業に全国を飛び回る。

 少子化の流れの中、理科大の志願者数は過去10年で2割近く増加し、現状では約5万3千人程度で堅調に推移。来年には新学科の創設も控え、今回の広告はブランディングを主な目的とした。「『理学の普及』という建学の精神に根ざし、幅広い年代や属性の人が目にする新聞広告を通して、科学に興味を持ってもらいたいと考えました」と藤嶋学長は語る。

 そのコンテンツとして選んだのが、科学者の名言だ。ベースには、藤嶋学長が2011年に出版した書籍『時代を変えた科学者の名言』(東京書籍)がある。さまざまな分野の偉人に感銘を受けてきた自身の経験から、研究の背景にある信念を伝え、読み手の糧にしてほしいと編集したものだ。

 科学への興味喚起という広告の意図、またブランディングにつながるという点でもこれ以上のコンテンツはないと、本書からの抜粋に書き下ろしのイラストを添えて毎朝の掲載を決定した。

 「さまざまな偉人の生まれ年と没年を見ていると、誰かが亡くなった年に誰かが生まれ、連綿と学問が進歩し続けてきたことがよく分かります。普段、当たり前だと思っていることに疑問を持つところから、科学への挑戦は始まります。全面広告に添えた『なぜ空は青いのか。なぜ雲は白いのか。』と始まる文章には、そんな思いを込めました」

「広告を見て笑顔を」理科大らしさを表現

2015年6月14日付 朝刊 2015年6月14日付 朝刊273kb

 小型広告は朝刊で連日掲載したため、日を追うごとに認知されていった。制作に携わった広報統括部 広報課の石黒寛行氏と桒原(くわばら)夏希氏は、口をそろえて「制作はとても楽しかった」と振り返る。「建学の精神に基づき、たくさんの人に科学のおもしろさを知ってもらいたいという思いは学長も我々も同じです。その積み重ねで、理科大が134年間続けてきたことを伝えたいと思いました」(石黒氏)

 実際の制作は、3月にスタート。まず、元となる書籍に収められた108の名言を、38に絞り込むところから始まった。広く一般の人がイメージできるものを選ぼうと、広報課から年代もさまざまな9人が携わり、自分に響いたものを持ち寄った。

「朝日新聞は特に読者層の幅が広いと思うので、文系出身者もいる広報課で選べば、読者の皆さんにも響くのではと考えました。理系のメンバーが選んだものには、理系の視点が表れていましたね。『目の前の仕事に専念せよ。太陽光も一点に集めなければ発火しない』(グラハム・ベル)は、1年目の若手が選んだものです」(桒原氏)

 イラストは親しみやすさを重視して、コミカルなタッチが人気のイラストレーター、JUN OSON氏に依頼。昨年出版した、朝日小学生新聞での連載をまとめた藤嶋学長の書籍に氏が携わったことから、学長たっての希望で決定した。ひとつひとつの名言を元に、イメージをふくらませてもらった。

 企画のタイトル「今日をステキにする科学者の名言」は、名言とイラストを組み合わせてみて、桒原氏が発案。「朝刊なので、この広告を見て笑顔になり、1日の新しいスタートを切ってもらえたらと。同時に、さまざまな科学分野を網羅する理科大らしい広告になったと思います」

 連載中、学長や広報課には関係者から好評価の声が聞かれたほか、一般の方からも電話やメールで「毎朝『頑張ろう』と思える」「親子の会話のきっかけになっている」など、反響が寄せられた。まさに、狙い通りの効果があったと言えるだろう。

 来年には135周年と、節目を迎える。直近では「世界の理科大へ」を旗印にし、英語教育や留学を通じた学際交流を強く進めるほか、30分野以上に及ぶ教科書の編集も進行中だ。「時代に応じて、変えるべきところは変えていきます。ただし、根本にある精神は変わりません。一貫したブレのない発信を続けていくつもりです」(石黒氏)