データを元に飢餓問題の深刻さを強調 SDGsとの関連性の訴求が広報のカギ

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国連WFP協会は、朝日新聞GLOBEのSDGs特集号に、直近で視察した スーダンからのリポートとともに、世界における飢餓問題の最新状況を4ページにわたる広告特集として掲載しました。SDGsへの関心の高まりは、飢餓問題の訴求にとって追い風と捉え、分かりやすい数値を打ち出しながら活動への理解を広報したところ、寄付の拡大にもつながりました。

SDGsへの関心を追い風に 活動と使命を打ち出す

 最新情報によると、世界で5歳未満の子どもの「4人に1人」が発育阻害の状態にある。そして「30円」あれば、子ども1人に1日分の給食を届けられる─。飢餓のない世界を目指して食糧支援を行う国連機関、WFP国連世界食糧計画を支援する認定NPO法人国連WFP協会は朝日新聞GLOBEのSDGs特集号にて、分かりやすいデータを打ち出して世界の飢餓の状況を訴えた。特集号発行のわずか数週間前に視察したスーダンのリポートや現地職員の声、同協会親善大使を務める竹下景子さんの視察を通したインタビューなども盛り込んだ4ページの構成は、骨太の企画となった。

2017年11月5日付 「朝日新聞GLOB」広告特集

2017年11月5日付 「朝日新聞GLOBE」広告特集1.3MB

2017年11月5日付 「朝日新聞GLOB」広告特集

2017年11月5日付 「朝日新聞GLOBE」広告特集1.1MB

 国連WFP協会はこれまで、飢餓問題を身近に感じてもらう意図から、学校給食の重要性を訴求する広告を中心に展開してきた。今回のように、飢餓問題をまずストレートに訴える広告は初めての試みだ。同協会の広報マネジャー、外岡瑞紀氏は「SDGs特集は待ちに待っていた特集だった」と語る。SDGsの周知と関心の高まりが、企業にも生活者にも急速に広がっている現状は、長らく飢餓問題の解決に取り組んできた国連WFPにとって追い風になっている。SDGsの目標2「飢餓をゼロに」は、まさに国連WFPの活動そのものだ。

 「この出稿の機会を逃したくないと思いました。視察直後の制作で苦労しましたが、手応えがありましたね。結果的に私たちの活動と最新情報がコンパクトにまとまった紙面になったので、増刷してパンフレットとしても年間で活用してきました」

国際連合世界食糧計画WFP協会
事業部 広報 マネジャー
外岡瑞紀氏

 最も強調されているのは飢餓人口が増加したという事実だ。これは2017年に発表された2016年時点のものだが、10年来減少傾向にあった数値が増加に転じてしまった。まもなく秋口には2017年時点の数値が発表されるが、それが上昇していたら、飢餓人口の増加トレンドが明確になるため、国連WFP協会をはじめ関係者の間には危機感が広がっている。

 「この点が出稿の大きな背景にあり、初めて飢餓問題を真正面から訴える広告を制作した理由でもあります。同時に、国連WFPの活動の理解とブランディングも目的のひとつでした。国連WFPは組織の認知度こそ30%ほどですが、活動内容の認知度はその半分以下なのです。学校給食の提供は活動のひとつであって、国連WFPは国連唯一の食糧支援機関として飢餓ゼロに取り組む、飢餓ゼロを使命としている団体だと知ってほしいと考えました。そのため寄付については簡単な紹介に留めましたが、予想以上にご寄付も集まり、SDGsへの関心との親和性を感じました」

飢餓と身の回りの事柄のつながりを梃子に

 飢餓問題自体の報道は多くないため、日本にいながら身近に感じるのは難しい部分もあるだろう。外岡氏が話すように、それは「ちょっと遠い話と思われがち」だ。しかし、飢餓は紛争と直結しているといわれれば、紛争のニュースはしばしば目にしているため、少しイメージしやすくなる。食糧不足自体が紛争の原因になることもあるし、食糧不足によって紛争が深刻化・長期化して紛争と飢餓の負のスパイラルが発生することもある。

2017年11月5日付「朝日新聞GLOBE」1面610KB
2017年11月5日付「朝日新聞GLOBE」2面875KB

 また、日本のような輸入に頼っている先進国は、飢餓問題に関与している。ある作物を必要以上に輸入すると、輸出国でその価格が高騰し、不作と重なれば現地での深刻な飢餓を引き起こすこともあるからだ。

 あるいは排ガスの大量な排出が温暖化を引き起こし、気候変動が大きくなれば、干ばつや水害などが農業へ影響して飢餓人口が増加する。自然災害も、紛争に次ぐ要因だ。決して遠い話ではなく、実は先進国と飢餓が起きている地域とはかなり密接に関連している。

 「飢餓問題への取り組みは、SDGsの2番だけでなく、他の目標やターゲットへの波及効果も大きいということも知って頂きたいことの一つです。たとえば学校給食が普及すると、子どもの飢餓と貧困の解消になるだけでなく、給食がインセンティブになって就学率が上がります。特に家事手伝い等が優先されがちな女児に教育が普及すると、ジェンダーの平等にも貢献でき、国を支える人材が増えれば経済成長ももたらされる。すべて、つながっているんですね」

 広報活動においてこのリンケージ(連係)を伝えると、ピンと来る人がぐっと増えるという。さまざまな問題が関連し合っていることを説明する上でも、SDGsは有効な切り口になっている。

2017年11月5日付「朝日新聞GLOBE」5面1.1MB

 そして今、外岡氏が日本での広報で特に注目しているのが、食品ロスとの関係を訴求すること。8億人もの飢餓人口に対し、世界の食品の3分の1が廃棄されており、国連WFPが80カ国に年間380万トンの食糧を支援する傍ら、日本の食品ロスは年間約650万トンに上る。目を疑う数値だが、現実だ。食品ロスに対する関心は高まっており、スーパーほか小売店などをはじめ積極的に取り組む企業も増えているため、国連WFP協会では10月16日の世界食糧デーに合わせ、毎年10月をキャンペーン月間として3カ年計画で「ゼロハンガーチャレンジ 飢餓ゼロ×食品ロス」を展開。食品を無駄にしないレシピ考案やSNS投稿、シェフによるメニュー提案などを予定している。「食品ロスへの関心を梃子に、もっといえば食への関心を梃子にしても、飢餓への注目は高められます。SDGsの目標「2030年までの飢餓ゼロ」を達成するためには、今から本腰を入れなければ」と外岡氏は力を込める。

 今後はそうした企画を弾みに飢餓問題の周知に努めながら、活動を支える寄付の拡大、特に寄付人口の拡大を目指す。そのためには、他の団体との連携協力も視野にあるという。日本は欧米に比べて寄付文化が薄いとされるが、社会問題に関心を持つ人が増える中、寄付未経験の潜在層はまだ多い。

 「調査によると、最近は学生や20代の寄付意向が高く、また新聞の中心読者層である中高年、実際に戦中戦後などに飢餓を経験している高齢者の方々にも、まだリーチする余地があります。SNSなど拡散力のあるデジタルツールと、正しく理解を促せる紙媒体を組み合わせて広報に努め、引き続き飢餓ゼロを目指していきます」