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読者の絶賛ツイートが共感を広げ、異例の重版、さらに新聞広告掲載へ

平凡社

 書店数の減少など、読者との接点が減りつつある中、出版社は様々なプロモーションの知恵を絞っています。ツイッターなどSNSの活用も広がっているものの、成功事例はそれほど多くはないのが現状です。そのような中、読者の感想ツイートが拡散され、大きな話題を呼び、重版が決定。その後、新聞広告の掲載にまで至ったケースがあります。一般にあまり注目されることがなかった、平凡社の『有職装束大全』という専門書をめぐる出来事です。

左:『有職装束大全』平凡社/右:2019年9月28日付 朝刊 半5段広告1.0MB

絵師の間でツイートが拡散、品切れとなり急きょ重版を決定

 『有職装束大全』は、朝廷や公家社会、武家の儀式などで使われた衣装や持ち物をビジュアルと文章で詳細に紹介した専門書。価格は7,480円(税込み)。膨大な文献に基づいて書かれた資料的価値の高い本で、基本的には図書館や学校などをターゲットに企画されたものだ。2018年6月に発売されて以降、専門書としては売り上げは好調だったというが、それでも毎月の販売は数十部程度。あくまで長い時間をかけて、じっくりと売るタイプの本だった。

中里浩之氏

 「本の性質上、もともと広く一般にプロモーションする気はありませんでした。でもある時期から突然、取次や書店からの問い合わせや注文が増え、電話が鳴りやまない日が続きました。本来ならこんなに問い合わせがくる本ではないので、最初はすごく不思議だったんです」と、同社営業部部長の中里浩之氏は語る。

 やがてその原因は、ツイッターにあったことが判明する。今年の9月21日、この本を買ったある人物が、「ヤベェ本を買ったぞ」「全創作者にオススメ」とツイッターで絶賛。それを契機に、この本の話題が大きく拡散していった。漫画やアニメ、ゲームなどのイラストを描くいわゆる“絵師”と呼ばれる人たちとって、この本は格好の資料だったからだ。


 その後、ネット書店や大手書店からの大量注文が一気に入り、初刷り3,000部の在庫はすぐに底をついてしまう。Amazonランキングでは、専門書としては異例の総合10位内にまでランキングがあがった。そこで平凡社では、最初のツイートから3日後の9月24日には、2,000部の重版を決めた。

 「とにかくすごい勢いで驚きました。まさかこんなマニアックな本が、ここまでツイッターで反響を呼ぶなんて思ってもいませんでしたから」(中里氏)


 重版が決まると、平凡社ライブラリーのアカウントが「このツイートのおかげで、重版が決まりました」とお礼のツイートをする。さらに「いい本をつくれば、読者はちゃんと見てくれている…そんな当たり前のことにとても励まされました」とつぶやくと、「いい話だ」「Twitterで書籍が必要な人にきっちり届いた」などといった共感のコメントが寄せられる。お礼を伝えるためにツイッターデビューした著者の有職故実研究家・八條忠基さんが投稿を始めると、さらに大きな盛り上がりを見せていく。一連の流れをまとめるサイトがつくられ、AbemaTVやネットニュースでも取り上げられた。


予定していた新聞広告を差し替え、品切れ中の本の広告を掲載

 このような状況を受け、平凡社では新たな決断をする。前から予定していた朝日新聞の半5段広告の中の一冊を急きょ、『有職装束大全』に差し替え。「“ヤベェ本を買ったぞ…” 読者のSNS発信で大ブレイク。緊急重版中!」とのコピーをつけて、9月28日付朝刊に掲載したのだ。品切れ中の本の広告を出すことは、業界としては極めて異例のことである。

下中順平氏

 「本を売るための広告というより、せっかくの機会を生かして、より幅広い人にこの本のことを知っていただきたいと思ったんです。とくに日々、新聞広告をご覧になられている書店員さんに向けた情報発信の意味も強くありました」と当時、この本の宣伝を担当していた同社執行役員の下中順平氏は語る。

 新聞広告を打ったことで、ツイッターに端を発したこの本への興味・関心は、現実世界でも大きく広がっていった。重版決定を受け、書店への注文も急増した。また著者の八條さんが広告紙面を写真に撮ってツイートすると、さらにこの本の話題がツイッター上で大きく拡散した。この本に関する最初のツイートは、最終的に6.4万もの「いいね」がついた。

■ツイッターでの話題量分析(リツイートを含むツイート数) 株式会社ユーザーローカル提供 social insight調べ
※キーワード集計条件「有職装束大全」もしくは「ヤベェ本」 ※サンプリングデータのため、件数は補正後のものです

 特定の興味・関心をもつコアな層の共感が広がりやすいツイッターと、朝日新聞でいえば約600万世帯という多くの人に一気に情報を発信できる新聞広告との連携が、非常にうまくいったケースと言える。とはいえ、このようなことは最初から狙ってできることではない。

 「今でもSNSでのプロモーションはすごく難しいと感じています。あまり狙いすぎるとかえって炎上してしまいますし、SNSで盛り上がったからといって必ずしもダイレクトに実売に結びつくわけでもありません。今回は正直、運が良かったんです。また絶妙なタイミングで新聞広告を打つことができ、想定以上に多くの方にこの本のことを知っていただくことができたのはうれしい限りです」(中里氏)

 「SNSは戦略的に使うより、今回のような自然発生的な出来事に対して、スピーディーに、臨機応変に対応できる準備をしておくことが大事だと思います。幸い当社では近年、重版についても広告制作においても、スピーディーな対応ができる体制づくりを進めてきました。また今回のような素早いレスポンスが重要なときに、掲載日の直前まで内容を修正・変更できる新聞広告が有効であることも、改めて実感しました」(下中氏)

『有職装束大全』平凡社
ジュンク堂書店池袋本店にて10月28日撮影

 身銭を切って商品を購入し、愛用するファン。そんな人たちこそ、メーカーさえ気づかぬその商品の真の価値を知る人たちである。その声をSNSからすくい上げ、マスメディアによって社会に大きく広げる。今回の事例は、そんな消費者起点のプロモーションの好例といえるだろう。

 なお、『有職装束大全』は「即位礼正殿の儀」でも関心が高まり、翌日の10月23日には3刷1,500部の増刷が決定した。


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