潜在欲求を言語化し、共感を生む コンテンツには無駄や余白が大事

 今、なぜコンテンツマーケティングが注目されているのか。コンテンツと広告の違いは何なのか。共感を呼ぶコンテンツをつくるうえで大事なことは何なのか。広告プロモーションだけでなく、自ら書店の経営や雑誌の発行などコンテンツ制作に携わる、博報堂ケトルの嶋浩一郎氏に聞いた。

──今、なぜコンテンツマーケティングが注目されているのでしょう。

嶋 浩一郎氏 嶋 浩一郎氏

 人々から支持されるコンテンツをつくると、それを媒介に人がつながり、コミュニティーが生まれ、マーケティングに有用であることは古くから知られ、実践されてきました。ギネスビールがギネスブックを、ミシュランがレストランガイドをつくったことは、その良い例です。ただ1970年代からはテレビCMの影響力が強まり、コンテンツをつくるより、マス広告で一斉に消費者へ情報を伝達したほうが効率的だと考えられていた時代が続きました。

 しかしその後、市場が成熟してモノが売れなくなり、ネットやSNSの普及でマスメディアの影響力が落ちます。デジタルネイティブの若者の支持を得るには、共感されるブランドであることが大事だと言われるようにもなりました。その結果、企業から一方的に情報を発信する広告に比べ、共感によって人から人へと伝するコンテンツの重要性が増しているのでしょう。

──広告とコンテンツの違いはどこにあるとお考えですか。

 厳密に言えば、両者は明確に分けられません。広告として、優れたコンテンツをつくることは可能です。テレビCMなら、ソフトバンクの白い犬、サントリー「BOSS」の宇宙人ジョーンズ、auの三太郎シリーズなどはコンテンツとしても秀逸です。視聴者はあのCMをコンテンツとして楽しみながら、そのストーリーテリングの文脈のうえに乗っている企業情報を受け取っているわけです。

■広告とコンテンツの違い

 とはいえ一般論で言えば、広告とコンテンツの役割や立ち位置は異なります。広告は企業が伝えたい情報 で、コンテンツは生活者が知りたい情報です。広告はインフォメーションが中心で、コンテンツには生活者にとって有益な何らかのユーティリティーが付随します。広告は受動的に受け取るものですが、コンテンツは生活者が能動的にアクセスするものです。

 また広告はクライアントと生活者の間に存在し、生活者に対して一方通行で情報を伝えます。コンテンツは生活者と生活者の間に入りこみ、生活者同士が話題にしたり、シェアしたりすることが多い。その結果、コミュニティーを生みやすいのです。

──そのようなコンテンツのメリットを生かした成功事例を教えてください。

絶メシリストの屋外看板

絶メシリストの屋外看板

 私たちが手がけたものではありますが、高崎市のプロモーション企画「絶メシリスト」は、その好例だと思います。地元で熱烈に愛されているけど後継者がおらず、このままでは消滅してしまう。そんな個人飲食店を「絶メシ」と名づけ、コンテンツ化したことで、面白いと感じて現地に来る人が増えました。そんな人が自分でも「絶メシを見つけた」とSNSで 発信し、後継者に手をあげる人が現れるなど、自律的に盛り上がっていきました。

 レクサスがサポートを続ける、日本各地にトップシェフを招き、その地の選りすぐりの食材を使った数日だけの野外レストランをオープンする「DINING OUT」も事例の一つで す。このプロモーションは、レクサスが唯一無二の体験を提供するブランドであることを見事に体現し、カルチャーへの感度が高い高所得層をブランドのファンにすることに成功しています。

──そのようなコンテンツをつくるうえで気をつけるべきことは。

 コンテンツには、潜在的な欲求を顕在化し、言語化するという重要な役割があります。「絶メシ」もそうで すし、雑誌が「美魔女」「イケダン」「モテカワ」など新しい言葉を作るのも同じです。

 人間の欲望には言語化されているものと言語化されていないものがありますが、人はすでに言語化されている欲求に応えるサービスにはあまり感謝しません。逆に「美魔女」のように言語化できていない欲望を言語化してあげると「この雑誌は私が思っていたことを分かってくれている」と共感し、熱烈なファンになるんです。

 現在、デジタルマーケティングの世界では徹底的な最適化、効率化が追求されています。「スポーツカーの情報をよく見ている人にスポーツカーの広告を表示する」といったように、顕在化した欲求にアプローチするうえでは最適化は有用です。

嶋 浩一郎氏

──ただ顕在化した欲求には限りがありますね。

 そうなんです。ですから現在のマーケティングの最大の課題は、潜在的な欲求をいかに掘り起こすか。そしてスポーツカーに興味のない人に、「スポーツカーのある生活はこんなにすてきだよ」と提案し、共感を得ることができるのがコンテンツの力です。 そのようなコンテンツは、企業発信の広告的発想や、顕在化している情報だけでつくると失敗します。大事なことは、多くの人がまだ言語化 できていないインサイトを先回りして言語化すること。そのためにはピュアな生活者視点が必要です。また効率より、無駄や余白が大事です。人は明確な目的をもってアプローチしてくるものは警戒し、なんだかよく分からないけど面白そう、といったものに引きつけられるからです。

──そういった意味では、効率や短期的なPV数が重視されがちなデジタルの分野でよいコンテンツをつくるには、より工夫が必要なのでは。

 そうですね。成功しているのは、じっくりと時間をかけて独自の世界観をつくりあげた「ほぼ日」(ほぼ日刊イトイ新聞)のようなところです。あのような独自の世界観をつくりあげるには、時間や試行錯誤が必要です。すぐに結果が求められる環境では、それはなかなか難しい。そういった意味では、膨大なリソースやデータ、過去の蓄積を持つ新聞社は、もっともっと面白いコンテンツをつくれるポテンシャルを持っているのではないかと思います。

嶋 浩一郎(しま・こういちろう)

博報堂ケトル 取締役 クリエイティブディレクター/編集者

1993年博報堂入社。企業のPR活動に携わり、朝日新聞社に出向。若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター、博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『ケトル』の編集長、「赤坂経済新聞」編集長などメディアコンテンツ制作に関わる。 2012年下北沢に内沼晋太郎との共同事業で本屋B&Bを開業。編著書に『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』『人が動くものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』がある。