斬新なアイデアで結果にコミット、クリエイティブ産業の確立を目指す

 「企業と社会の変化と挑戦、その先にある成長」をテーマに、新規事業の開発からプロモーション、ブランディングなどを手掛ける、The Breakthrough Company GO の代表でクリエイティブディレクターの三浦崇宏氏は、ケンドリック・ラマーの黒塗り広告や、漫画『キングダム』の広告キャンペーン「今、一番売れているビジネス書」など、数々の話題になったプロモーションの仕掛け人だ。10月20日、朝日新聞朝刊に全30段で掲載した「新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」も、実は企画全体を手掛けている。注目を集めるプロジェクトは一体どのように生み出されているのか、三浦氏に聞いた。

マーケティング、PR、クリエイティブを融合 企業の成長に貢献する

──2017年に10年勤めた博報堂から独立し、The Breakthrough Company GOを立ち上げました。独立しようと思ったきっかけを教えてください。

漫画『キングダム』の広告キャンペーン<br>©原泰久/集英社

漫画『キングダム』の広告キャンペーン
©原泰久/集英社

 僕は少し変わったキャリアで、博報堂ではマーケティングとPRとクリエイティブという3部門で働きました。二つの部門で働いた人はたまにいますが、3部門は珍しい。マーケティングの戦略を考え、メディアにどう報道してもらうかPRの企画を立て、広告の企画や制作も手掛けてきました。それらの経験によって、クライアントのビジネスのフローを理解できるようになり、広告というクリエイティブはビジネスのほんの一部でしかないことも実感しました。

 要するに、広告会社で働いている限り、クライアントのビジネスの一部にしか関われない。しかも、広告会社はメディア産業であり、クリエイティブはサービスという位置付けだったりもする。そうした状況にフラストレーションがたまってしまったことが、独立を考えるきっかけの一つでした。僕は広告クリエイターですが、マーケティングのスキルもあり、PRにも知見がある。その経験を融合させて生かせば、企業の成長に貢献できるのではないか。その仮説を実証するために、GOを立ち上げました。


──広告制作だけではなく、ビジネスの根幹から一緒に考えていくということですね。

 The Breakthrough Companyという社名のコピーは、クライアントが何か変化を起こしたい時に、頼りにしてもらえるパートナーになりたいという志を表現したものです。ブレークスルーの手法は、クライアントのニーズによってさまざまです。三陽商会「STORY & THE STUDY」というパーソナルオーダースーツ事業をゼロから一緒に立ち上げたり、雑誌『SPUR』の広告や、スタートアップ企業のブランディングを手掛けたり、ジャンルも内容も多岐にわたります。僕らのミッションは、顧客と社会の変化と挑戦、そして、その先にある成長にコミットすること。それは、どの仕事でも共通しています。

三陽商会「STORY & THE STUDY」

三陽商会「STORY & THE STUDY」

 強い広告をつくるためには、二つのルールがあります。一つはタブーを破ること。今の時代、世の中の人々は広告に対して冷めています。それは、面白くて刺激的なコンテンツが飽和しているからです。そんな状況の中で、広告を機能させるためには、タブーを破った、前例がない新しい表現でないと誰も目を留めてくれません。

 もう一つは、読者や見ている人が参加できる仕組みがあること。参加といっても、SNSで意見を言い合うとか、ツッコミを入れるとか、まねしたくなるとか、そのくらいのリアクションでもいいと思っています。この二つを設計することが重要だと考えています。

集英社 SPUR 「JUST BE YOURSELF.」

集英社 SPUR 「JUST BE YOURSELF.」

難題に取り組む勇気と熱狂は必ず伝わる

──10月20日、朝日新聞朝刊に「新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」と題した全30段の新聞広告が掲載されました。GOは企画からデザインまでトータルで手掛けています。このキャンペーンも、まさしく新聞広告のタブーを破り、参加できる仕組みを設けています。

新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS

2019年10月20日付 朝刊840KB

 朝日新聞社からの依頼は、新聞広告の日というタイミングに合わせて、これまでの新聞の常識にとらわれず、新聞広告の価値や可能性を伝えたいという内容でした。新しい変化を起こしてほしいという相談でしたが、予算は限られており、テレビCMの制作や大掛かりな撮影などはできない。とても難題でした。

 予算の問題もありましたが、新聞広告の良さは、やはり新聞広告で伝えるべきだと考えました。そこで、クリエイティブに関心のある感度の高い人たちをターゲットに設定し、彼らが知るコンテンツの中で新聞広告や広告業界のことを物語として伝える構造ができないか検討を重ねました。その構造にぴったりなコンテンツがあったんです。それが、かっぴーさんの「左ききのエレン」でした。広告業界を舞台にした僕も大好きな漫画だったので、早速かっぴーさんにご相談したところ、快諾していただけた。そこから具体的に内容を詰めていきました。

──今回のキャンペーンは、漫画「左ききのエレン」の主人公が働く目黒広告社と三浦さん率いるGOがJINSの新聞広告を制作するストーリーで、オリエンテーションの様子を10月19日から「cakes」で公開し、2社による企画案や企画会議の模様を10月20日の朝日新聞全国版朝刊の全30段に掲載。その二つの広告案のどちらを採用するかは、読者の投票で決めるという、WEBと新聞広告を連動させた内容でした。実在の企業が登場することでも話題となりました。三浦さんも漫画に出演していますね。

 JINSから新聞広告のオリエンを受けて、広告会社のクリエイターが悩んで企画を考える様子を、そのまま漫画にしようと考えました。クライアントもプレゼンの競合相手も実在する企業にすることで、これまでの新聞広告のタブーを破っています。GOを競合相手にしたのは、単に許諾もギャラを払う必要もなく、悪役に描かれても問題ない。はっきり言って、自分が制作している広告に自分が登場するなんて正気の沙汰じゃないですよね(笑)。出たがりとか目立ちたがり屋だと思う人もいると思いますが、架空のキャラクターでは話題にならず、新聞で漫画の広告を掲載しただけになってしまう。この新聞広告を本気で成功させるために、自ら出ることに決めました。

──漫画内で考案したJINSの二つの新聞広告は、読者の投票でより多くの票を獲得した案を採用し、11月中に朝日新聞全国版朝刊に掲載される予定です。この二つの広告案は、実際にはGOが考えたものですよね。

 近年、話題となった新聞広告は大きく2種類あります。ギミックのあるものと、社会的なメッセージがあるものです。近視の人だけが読める視覚的なギミックがある案は目黒広告社が考案し、社会的なニュースになる案はGOが考案する設定にしました。社会的なニュースになる案は、JINSの意思を表明する内容なのですが、実際にJINSに確認してもらったら、ものすごい赤字が入って戻ってきたんです。それを修正するのではなく、その赤字入りのゲラを広告にしています。そのほうがインパクトもあるし、広告自体もタブーを破るものになると考えたからです。それと同時に、新聞広告はあいまいな表現ができない難しさがあり、だからこそ広告の信頼性にもつながっていることが伝えられるのではないかと考えました。

三浦崇宏氏

──タブーを破る内容を実現するまでには、苦労も多そうです。

 広告業界で働く人や、それに関連する仕事をしている人なら、この企画の実現がどれほど大変だったか想像できると思います。かっぴーさんをはじめ、クライアントのJINSも朝日新聞社の方々も調整を重ね、僕らGOのメンバーも相当ハードに働きました。原動力は、かっぴーさんをはじめ、JINSも朝日新聞社も僕らGOにとってもみんなにメリットがある仕事だったことと、今までにない新しい挑戦をしていたからだと思います。難しい企画を実現させるための勇気と熱狂は、仕上がった広告から伝わるものです。

──三浦さん自身の原動力はなんでしょうか。

 まず、広告の仕事が好きなんです。常に20案件くらいのアイデアを考えていますが、それが苦労だとは思いません。あと、僕が仕事に熱狂できるのは、仲間がいるから。今、若くして活躍するクリエイターが増えています。彼らが誇りを持って働ける社会にしたいんです。そのためには、クリエイティブを産業化する必要があるとも思っています。アイデアを生みだし、形にできる有能なクリエイターが増えることは、資源のない日本社会を発展させていく方法の一つでもあるはずです。

──最後に新聞というメディアについてのご意見をお聞かせください。今後、発展させるためには何が必要だと思われますか。

 新聞にしかないものが三つあります。一つ目は、日本全国に毎朝届ける宅配の仕組み、二つ目は、ジャーナリスト集団であることです。その特徴を生かして何ができるか。あらためて考えみると、新しい可能性はいくらでもあると思います。

 そして三つ目は、社会的信頼があること。かつて海外の広告賞で受賞した新聞広告でユニークなものがありました。それは、その国の知名度も実力もある経営者や著名人、5,6人の名前と「寄付してください」というメッセージを掲載したものでした。彼らはメールや手紙など見る時間はないけれど、新聞には目を通しているはず。だから、彼らに届けたいメッセージを、新聞広告にしたのです。要するに、新聞広告が届きやすい人と、届きにくい人がいるということ。例えば日本の大手企業の悪口がSNSで拡散されて、10万リツイートされたとしても、きっとその会社の社長さんは一瞬も見ないし気にしないと思います。しかし、もし新聞広告でその会社の商品はダサイ、といったメッセージが掲載されたら、大騒ぎになるはずです。

 広告の作り手側の視点で見ると、視覚的な仕掛けができる紙面の大きさと広告がニュースになることは新聞広告の魅力。社会課題の解決に取り組んでいる企業の姿勢を誠実に伝え、それがニュースとなる媒体は、新聞以外にはないと思います。

三浦崇宏(みうら・たかひろ)

The Breakthrough Company GO 代表取締役/PR・Creative Director

博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞、CampaignASIA Young Achiever of the Year、 ADfest、フジサンケイグループ広告大賞、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル 2013 PR部門ブロンズ・2016 ヘルスケアPR 部門ゴールド・2017年 プロダクトデザイン部門ブロンズ、2017 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS イノベーション部門グランプリ・総務大臣賞・インタラクティブ部門ブロンズなど受賞。