旅先・旅行の目的地のこと。「国内旅行の旅先」「日本人の海外旅行の旅先」に続いて、近年のインバウンドブームの中で「訪日外国人にとっての旅先(特に地方のインバウンド)」という意味でも注目されている。
デスティネーションというと、JRグループと地方自治体などが共同実施する「デスティネーション・キャンペーン(DC)」が想起される。1978年に当時の国鉄のキャンペーンから始まったもので、日本人にとっての「国内の旅先」という意味で使われている。また旅行業界では、フランスやハワイなど人気旅行先を「主要デスティネーション」という言葉で呼んでおり、こちらは「日本人の海外旅行の旅先」という意味で使われている。
そして近年の訪日外国人の急増によって、デスティネーションという言葉は「訪日外国人にとっての旅先」という第3の意味で使われはじめている。博報堂DYホールディングスは、2016年7月に「デスティネーション・プロデュース」を旗印とする株式会社wondertrunk & co.(ワンダートランク アンド カンパニー)を設立したが、ここでいうデスティネーションとはまさにこの第3の意味である。
デスティネーションという言葉が注目される背景には、これまで外国人が訪れることが少なかった「地方の新しい旅先」をいかにつくるかという日本の旅行・インバウンド業界の問題意識がある。
2015年の訪日外国人旅行者数は1,973万人、消費額も3.4兆円でいずれも過去最高を記録したが、観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、東京都と大阪府だけで全体の40%、神奈川県・千葉県・大阪府・京都府・愛知県を足すと全体の60%を占めており、都市部に集中している。
政府が2016年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」で提示した、訪日者数「2020年:4,000万人、2030年:6,000万人」、消費額「2020年:8兆円、2030年:15兆円」という目標を実現するためには、地方に「魅力ある新しい旅先」をつくることが不可欠な状況なのである。
では、誰が新しいデスティネーションをつくっていくのか。そのために期待されているのが、「DMO(Destination Management / Marketing Organization)」である。DMOは欧米で始まった概念で、地域をまたいだ観光ルートの形成、民間企業と連携したマーケティング、高品質なデスティネーションとしての受け入れ整備やブランド戦略などを担う「観光地域づくりを行うかじ取り役」である。
観光庁は「日本版DMO」の概念を打ち出し、観光以外の関係者も幅広く巻き込み、データマーケティングやブランディングなどのアプローチを取り込んだ新しい地域のプレーヤーを育成している。実際に2016年3月に、瀬戸内の7県と地銀7行と日本政策投資銀行が中心となって設立された「せとうち観光推進機構」など、取り組み例も増えてきており、今後、急速にDMOの役割が重要になっていくであろう。
これまでのインバウンドでは、訪日客の数字をどう伸ばすか、「爆買い」にどう対応して売り上げを伸ばすか、といった点に注目が集まっていた。しかし、世界が訪れたくなる日本をつくっていくには、中長期的な地域社会と外国人旅行者の好循環をつくることが大切であり、その結果としての地域の経済効果が生まれてくると考える。その意味で、「デスティネーション」とは、「地方創生×インバウンド」という新しいチャレンジともいえる。
博報堂 アクティベーション企画局 統合コミュニケーションディレクター兼 wondertrunk & co. 代表取締役共同CEO
2005年博報堂入社。統合キャンペーンの企画・制作に従事。世界17カ国の市場で、観光庁・日本政府観光局(JNTO)のビジットジャパンキャンペーンを担当。沖縄観光映像「一人行」でTudou Film Festivalグランプリ受賞、ビジットジャパンキャンペーン韓国で大韓民国広告大賞受賞など。国際観光学会会員。2016年7月、博報堂DYホールディングス内にwondertrunk & co.を設立。