「インバウンドマーケティング」

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 訪日観光客に向けたコミュニケーションやプロモーション活動を総じてインバウンドマーケティングと呼ぶ。ビザの緩和や免税制度の拡充、円安進行の影響で訪日観光客は増加傾向。昨今非常に注目されているテーマである。

 国土交通省・観光庁によると、2014年に日本を訪れた外国人旅行者は1341万3600人(推計)で前年比約30%の増加。その中でアジア地域からの旅行者は1061万人と全体の約8割を占めている。国・地域別に見ると、1位が台湾で282万人、2位が韓国の275万人、3位が中国の240万人、4位が香港の92万人、という状況。

 博報堂が今年3月に実施した上記4つの国と地域の訪日観光客の消費に関する調査では、下記のような特徴があることが分かった。

 1)訪日観光客の4人に3人が訪日前に購入したい商品を決めている。

→購入商品決定のタイミングについて聞いてみると、訪日検討前46.5%、訪日検討期
26.9%と、訪日前に購入商品を決定している人が約7割という結果となった。男女で
その傾向に差異はなく、若干、女性の方が訪日検討前に決定していることが多い。(女性48.3%、男性44.5%)
購入商品カテゴリーごとにみても、ほとんどが訪日検討前、訪日検討期に決定して
いることから、買い物リストは訪日前につくられていることがわかる。

 2)商品購買決定に影響を与えているのはECサイトや旅行情報サイトなど。

→どのようなメディアを見て購買を決定するのか聞いてみると、「検索エンジン」「ECサイト」「自国の親族、知人(SNS・口コミなど)」「旅行情報サイト」が上位となった。
  いずれも日本限定のメディアではなく、一般生活者が観光などで訪日中に買い物をした経験を踏まえたコメントなどが情報源。

 実はこのメディア接触は訪日前と訪日中では大きな差異はないことが分かった。店頭施策や訪日中の情報提供ももちろん重要だが、このような訪日観光客の特徴を踏まえた、効率的で効果的なマーケティング手法が今後さらに求められていくであろう。

 なお、この過熱するインバウンド需要は、中華圏を中心としたアジア地域への海外マーケティング戦略にまで昇華されていく可能性もある。「売れそう」な商品を現地に工場を建てて生産するより、実際にインバウンドで外国人観光客に「売れている」商品を、その国に輸出していく方が企業側にとってもリスクは少ないからだ。

 そう考えると、インバウンドマーケティングは、クロスバウンドマーケティングのための試金石なのかもしれない。

木戸 良彦(きど・よしひこ)

博報堂 グローバルMD推進局MDソリューションG グループマネージャー

1998年博報堂入社。営業部門を経て2003年~2008年まで中国北京に駐在。
帰国後は主に海外部門に在籍し、様々なジャンルの得意先のグローバルビジネスを担当。同時に数々の新ソリューションやナレッジの開発にも従事。2015年7月より現職。