総合視聴率とは、テレビ放送における従来のリアルタイム視聴と、ハードディスクレコーターなどによる再生視聴(タイムシフト視聴)のいずれかでの視聴を示す新たな視聴率の指標である。
テレビ放送の視聴率などを測定しているビデオリサーチは、2016年10月より、従来のリアルタイムの「視聴」だけでなく、同一世帯による「タイムシフト視聴」の測定を開始した(注1)。
同社は、これまでもタイムシフト視聴の測定を行ってきたが、調査世帯はリアルタイム視聴の調査世帯とは別の世帯であった。リアルタイムの視聴とタイムシフト視聴を統合するためには、リアルタイム視聴とタイムシフト視聴の重複視聴者を除く必要があるため同一世帯で調査を行う必要がある。そこで、同社は、関東地区における調査対象を従来の600世帯(個人約1,800人)から900世帯(個人約2,300人)に拡充させた上で、同一世帯にリアルタイム視聴とタイムシフト視聴を測定する専用機器を設置した。
調査結果は「視聴率」「タイムシフト視聴率」そして両者を統合した「総合視聴率」の3種類の指標で示される。「視聴率」は、従来のリアルタイム視聴率である。「タイムシフト視聴率」は、リアルタイム視聴の有無にかかわらず、7日内(168時間内)でのタイムシフト視聴率を示す。そして「総合視聴率」は、リアルタイム、タイムシフトを問わず、いずれかの方法で番組を見た世帯の割合を示す。なお、重複視聴は除かれる。
ビデオリサーチが発表した総合視聴率ランキング(2016年10月3日~10月30日)の上位番組をみると、「木曜ドラマ・ドクターX~外科医・大門未知子~」が総合視聴率28.3%とトップになっている。同番組のリアルタイム視聴率は20.4%、タイムシフト視聴率は9.5%と1/3の視聴者がタイムシフト視聴していることがわかる。2位は、「連続テレビ小説・べっぴんさん」で総合視聴率が27%で、リアルタイム視聴率が21.6%、タイムシフト視聴率は7.1%とやはりタイムシフト視聴者が約1/3を占めている。
なお、3位の「2016プロ野球日本シリーズ・広島×日本ハム・第6戦」は、総合視聴率が25.2%に対してタイムシフト視聴率がわずか0.1%となっており、生で楽しみたいというスポーツ番組の特徴が反映された結果となっている。バラエティー番組も4位の「DASH×イッテQ!交換留学2時間SP」が総合視聴率23.5%に対してタイムシフト視聴率3.4%、7位の笑点が総合視聴率22.3%に対してタイムシフト視聴率が1.3%とリアルタイム視聴率が高い。
テレビ番組の視聴率は、テレビ番組の成績ともいえる指標だが、タイムシフト視聴が増える現状においては、総合視聴率がより実態に即した指標になるともいえるだろう。
一方で、テレビ広告は大きく分けて「スポットCM」と「タイムCM(番組提供)」の2種類に大別できるが、特に「スポットCM」においては、世帯視聴率が通貨的な役割を果たしているともいえる。「タイムCM」は、原則として視聴率ではなく、番組枠に対して月額提供料金が設定されるが、それでもより視聴率の高い番組の月額料金が高く設定される傾向がある。そのため、広告関係者にとっては、タイムシフト視聴におけるテレビCMの視聴状況がより重要な関心事となる。
広告専門メディアである「ADWEEK」によると、2016年米国のアップフロントプレゼンテーション(注2)では、テレビネットワークの実態を反映して、75%が7日以内に再生されたCMの平均視聴率を、広告販売における標準通貨として採用との記事が紹介されている(注3)。
また、スマートフォンなどテレビ以外でのスマートデバイスによる視聴も増えており、これらの視聴状況の把握も課題だ。ビデオリサーチ社は、タイムシフト視聴についてのプレスリリースで、スマートデバイスによるテレビ視聴の測定についても言及し、2016年10月から試験的に実態を把握する取り組みを開始し、これからのテレビメディアデータの研究として、テレビ視聴測定範囲の拡大およびデータ提供のあり方などについても検討するとしており、大いに期待したい。
(注1)ビデオリサーチ社プレスリリース(2016年8月26日発表)「関東地区テレビ視聴率調査の仕様変更について~ サンプル拡張とタイムシフト測定 ~」
アクセス日時;2016年11月25日
(注2)ネットワーク各局、新シーズンに向けて広告主を募るために、番組編成発表とCM枠の先行販売を行うことを「アップフロント」という。
(注3)Jason Lynch(2016) “75 Percent of Networks Will Use C7 Advertising Metric for Upfront Deals VAB survey caps shift after decade using C3” ADWEEK,
(accessed on Nov.25, 2016).
アサツー ディ・ケイ ADK ソーシャル・デザイン・ラボ 所長/ストラテジック・プランニング・ディレクター/コミュニケーション・デザイナー
1989年旭通信社(現ADK)入社。新聞局などを経て2006年第2クロスメディアプロモーション局長。16年から現職。日本広告学会理事、WOMマーケティング協議会理事など。SPIKES ASIA 2011 メディア部門銅賞受賞。共著に『R3コミュニケーション』(宣伝会議)、『わかりやすいマーケティング・コミュニケーションと広告』(八千代出版)など。