「VR for Good」

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「VR for Good」とは、限りなく現実に近い世界を作り上げることができるVR(バーチャル・リアリティー)をソーシャルグッドに活用して社会をより良い方向に変革させようという一連の活動のことである。

 2016年は「VR元年」と呼ばれた年であった。HTC社(注1)より発売されたHTC Vive(注2)、Facebookに買収されたOculus社(注3)より発売されたOculus Rift(注4)、Sony Interactive Entertainment社より発売されたPlayStation VRの登場でVRが大きな盛り上がりを見せたのは多少なりとも耳にしたことがあるかもしれない。

 人間の五感に働きかけることで、あたかも現実と見間違うような体験を作り上げるVRという技術は、現在はHMD(ヘッドマウントディスプレー)と言われる両目に覆いかぶせるようにして装着する装置の飛躍的な技術革新によって成し遂げられている。

 その口火を切ったのは、2012年にKickstarter(注5)で240万ドル以上の投資を集めたOculus社のOculus Riftである。現在のVRブームを先導しているOculus社が注力している取り組みの一つが「VR for Good」である。

 VRの特性として、圧倒的没入感の高さにより、通常の映像表現よりも、より感情的に、より臨場感が強く、共感性をもたせる表現が可能ということがある。まるで現実と間違えるような体験を生み出せるので、あたかも自分が物語の主人公となったような体験を生み出すことができ、その体験は時に心に対して本当に体験したときと同様の効果を生む。

 この特性を社会に対するポジティブな変革をもたらそうとする活動である「ソーシャルグッド」に活用したものが「VR for Good」である。

 世界ではOculus社以外でもVRをソーシャルグッドに活用する「VR for Good」の動きが数多く生まれている。

 例えば、米国のKind VR社はVRを用いて疾患を持つ子どもの痛みやストレスを和らげる試みを行っている。オークランドにあるUCSFベニオフ小児病院における臨床実験においては、鎌状赤血球症に苦しむ児童の痛みを和らげるために、VRヘッドセットを用いて患者である児童にあたかもスキューバダイビングをしているかのようなCGで作られた映像を見せ、様々な魚やサメと出合い、宝箱を見つける体験をさせることで、痛みやストレスの軽減につなげている。

 また、一つの靴を購入すると靴が一つ途上国へと寄付される「One for One」というコーズマーケティングを行っている米国のシューズメーカーTOMS社は、店舗に来客した人に対してコロンビアで靴を寄付され、幸せに生活する人々のドキュメンタリー映像をVRで視聴できるようにした。

 TOMS社はこれまで「One for One」を通じて6千万足以上もの靴を、靴を購入することができない子どもに対して寄付してきたが、靴を購入した消費者が実感しづらいという課題があった。しかし臨場感強く共感性を持たせて伝えることができるVRという手段によって、効果的に消費者に対してコーズを伝達し、より強い購買理由作りに寄与している。

VR動画で見た旭山動物園のレッサーパンダ VR動画で見た旭山動物園のレッサーパンダ

 日本においても、統合失調症にかかってしまった人たちが実際に体験した症状を疑似体験できるVR動画がヤンセンファーマによって制作されていたり、長期入院している小児患者向けに「いどう型どうぶつえん」なるVR動画が旭山動物園の全面サポートで実施されていたりと、徐々にではあるが事例がでてきている。

 まだまだVRを体験する機会は多くの人にとって簡単なものではないと思うが、今後は体験できる場所の開発や機材の普及で、多くの人々がより簡単にVRを体験できるようになる。VRという心に大きな影響を及ぼす力を持つメディアは今後も多くの「VR for Good」な事例を作り、社会を大きく変革させて行くだろう。

「いどう型どうぶつえん」体験会を実施 東京都小平市の保育園で
「いどう型どうぶつえん」体験会を実施

(注1)台湾を拠点とするスマートフォン・携帯情報端末メーカー
(注2)HTC社と米国のValve社が共同開発したVR向けHMD
(注3)米国のVRヘッドセットメーカー
(注4)Oculus社が開発したVR向けHMD
(注5)米国のクラウドファンディングサービス

金林 真(かなばやし・まこと)
金林 真氏

電通 第12営業局

2009年電通入社。2015年より第12営業局にて既存クライアントとスタートアップ企業とのコラボレーション施策や新規クライアントを担当。
2016年よりVRを活用したビジネス機会の創出を行う社内横断組織「Dentsu VR Plus」プロジェクトにてプロジェクトプロデュースを行っている。CANNES LIONS2013メディア部門銀賞受賞。