生活者の広告への反応は低下しているにもかかわらず、情報感度は上がっている-。今の生活者の情報への欲求に応えるメディアプランニングや、広告の受容性を高めるために必要な考え方について、広告出稿配分や広告効果検証の分析、コンサルティング業務に従事するビデオリサーチの吉田正寛氏に話を聞きました。
生活者の広告・情報への意識変化を捉える
メディア環境の変化により生活者が日常的に接するメディアは増大しています。インターネットではコンテンツがテキストから、動画、音声に至るまで様々な形態で、その接点もスマートフォンやPCといったデバイスを超え、テレビ、屋外・電車内だけでなく店頭にも進出し「リテールメディア」という新たなコンタクトポイントも登場しています。容れ物/ビークルであるメディアとメディアに様々な形態で露出されるコンテンツ、生活者にとっては両者に区別がなく、メディア・コンテンツとして垣根なく捉える必要があります。
そうした環境下で近年、「広告を生活者に届けることが以前に比べて難しくなっている」という声を耳にするようになりました。図表1の「広告をよく見る」と回答する生活者はコロナ禍(2020年~)にかけて減少し、下げ止まっています。これは、広告コミュニケーション接点増大への嫌悪感の表れなのかもしれません。
図表1:生活者の広告・情報への意識変化
一方で、生活者は情報を自ら探索しはじめています。同じく図表1をみると、「情報収集は自ら積極的におこなうほうだ」の回答はコロナ禍を境に伸長、広告への意識低下と反対に増大しています。生活者は一方的に伝達される広告ではなく自らの意思で情報を求めるようになってきているのです。
このような生活者の情報志向に対応するアプローチとして、コンテンツマーケティングの活用が注目されています。これは、コンテキスト=内容のみならず、情報を載せるフォーマットや生活者に利用される時間帯、接触体験と言った文脈を備えたメディア・コンテンツで、その文脈に則った広告により、高い態度変容効果を獲得するアプローチです。
様々な事例研究から効果が証明されていますが、広告主の視点に立つと、「コンテンツマーケティングの活用には一定のハードルが存在する」との声もあります。制作に伴うコストの負担や、広告接触者がコンテンツ関与者に限定されてしまうことへの懸念です。
コンテンツマーケティングの特性をうまく取り入れコミュニケーション施策を円滑に行う上では、生活者の行動・意識の変化を踏まえたメディアプランニングが、これまで以上に重要になります。そのためには、各メディアとその広告に生活者があらかじめ備わった文脈、前提条件として抱いている情報イメージを確認する必要があります。
生活者のメディアへの評価を再確認する
プランニングにおけるメディア選定方法は、従来リーチの大小で検討されがちでした。しかし、前述の生活者の広告・情報への意識変化を鑑みると、メディア特性の観点からも検討する必要があるといえます。
筆者は、主要な各メディアに対し、生活者の情報評価を比較する研究を行いました。この研究では、各メディア・アプリ・場所で得る情報が、生活者にとってどのように認識されているのかを、「発見がある」「わかりやすい」などの項目ごとに提示し、あてはまるものすべてを選んでもらいました。回答を各メディア利用者で集計した結果が図表2です。各情報イメージ項目で上位2位のスコアをピンクで示しています。
図表2:各メディア・アプリ・場所で得る情報イメージ
これを見ると、生活者が抱く情報イメージはメディア・コンテンツによって異なる特性を持つことがわかりました。テレビが「流行や気分の切り替えとして生活に欠かせない情報」である一方、インターネットの動画は「自分が好きな、好奇心を満たすパーソナルな情報」であると生活者は考えています。このパーソナルな面はラジオの情報も同様ですが、SNSはそれに加えて「発見を期待される情報」だといえます。テレビが流行や生活といった世の中のマスな情報源で、インターネットやラジオはよりパーソナルな情報源というすみ分けができています。
新聞をみると、特に「得るものがある」「学びや勉強になる」「仕事や生活に役立つ」の項目で他のメディア・コンテンツと比較して目立って高いことがわかります(図表2で太字の項目)。これらの項目に共通する要素として、「ベネフィット感」があるといえます。これは、前述のテレビとインターネットでみてきたような、マスとパーソナルといった比較軸とは別の特長です。新聞は「発見に加えて学びや仕事・生活に役立つといったベネフィットがある情報」であると評価されている点は興味深いです。
なお、昨今注目される屋外・交通やリテールメディアでは情報のイメージが相対的に薄い結果でした。これらのメディア・コンテンツはテレビやインターネット、新聞やラジオと異なり、接し方が能動的というよりは受動的な特徴があります。屋外・交通やリテールメディアがリーチ獲得を主目的に展開されている点は、こうした接し方の違いと関係していると筆者は考えています。
多様化する情報接点は「生活者から異なる役割を与えられている」ことがわかりました。この役割の違いに留意することで、コミュニケーション効果を高めることができるのではないでしょうか。加えて、独自の前提とすべき文脈が存在するメディア・コンテンツでは、その文脈という情報特性を活かした訴求をすることで、より高い効果が期待できるといえます。
「新聞のベネフィット感」など、各メディアの役割と呼応した広告イメージ
情報特性の分析をさらに進め、主要な各メディアの広告特性を比較した筆者の研究もご紹介します。これは、各メディア・アプリ・場所でみる「広告」にどのような印象を持つかを、提示したイメージからあてはまるものをそれぞれの違いを踏まえて選んでもらったものです。回答を各メディア利用者でそれぞれ集計した結果が図表3です。各イメージ項目で上位2位のスコアをピンクの網掛けで示しています。
図表3:各メディア・アプリ・場所の広告に対するイメージ
フルファネルで広告の効果が期待できるテレビに対して、インターネットでは動画、SNSとも「自分向けである」というイメージが強い結果でした。これは先の情報特性の違いに対応する結果です。世の中のマスなテレビに対し、パーソナルなインターネットの情報特性は広告の印象とも連動することが示されています。
一方で、インターネットには課題もあることが伺えます。「しつこい」「見聞きしたくない」「ストレスを感じる」といった嫌悪感の項目は、インターネット動画やSNSの広告で目立って高い結果でした。これは、パーソナルな情報特性のメディアにその文脈を無視して繰り返し提示される広告に対するネガティブな反応を反映しているといえます。インターネットは、従来のマスメディアで実施していたような大量出稿型のアプローチとは適合しないのではないでしょうか?活用のしかたを見直す時期に来ているのかもしれません。
では、ネガティブな反応を起こさずに関心領域のテーマをしっかり伝えたい場合、どのようなアプローチをとればよいのでしょうか。その解答の一つとしてこの分析から浮かび上がるのが新聞です。
新聞広告の印象として特に目立つものが、「詳しく知ることができる」「新しい発見がある」「内容をもっと知りたくなる」でした(図表3で太字の項目)。新聞の情報特性である「発見や学び、仕事・生活に役立つといったベネフィット感」が、広告であっても読者に「詳しくみてもらうことができ、そこに新しい発見を見出し興味関心まで喚起する」実態が浮き彫りになりました。
新聞広告をメディアプランに加えることで得られるリフト効果
ここまでの研究分析から、新聞の特異性が明確になりました。新聞は現代の生活者にとって、「発見や学び、仕事・生活に役立つといったベネフィット感」という情報特性を持ちます。その特性により、広告であっても読者に詳しくみてもらうことや、新しい発見を見出すことで興味関心まで喚起するメディアと言えます。
昨今のメディアプランニングの主流は、様々なメディアをクロスさせる統合プランニングです。他メディアの広告に新聞広告を加えると、どの程度相乗効果が期待できるか、筆者の保有する分析ロジック「クロスメディア効果推計」(特許番号:第7329708号 情報処理装置、及び情報処理方法)を用いて算出しました(吉田,2024)。
図表4では、テレビ、インターネット動画(インターネット動画サービスA)、SNS(SNSサービスA)の広告に新聞広告を加えた場合に期待できる効果を、図表3で確認した広告イメージにおいてそれぞれ確認しています。多くの項目で高いリフト効果がみられることが確認できます。
図表4:各メディア・アプリ・場所の広告に対するイメージを用いたクロスメディア推計
(新聞広告を加えた際に期待できるリフト効果)
興味深い点は、新聞広告が得意とする「詳しく知ることができる」「新しい発見がある」「内容をもっと知りたくなる」といったイメージ項目だけに留まらず、それ以外の項目においても高いリフト効果がみられたことです。テレビ広告との組み合わせにおいては「自分向けだと感じる」「メディア・アプリ・場所になじむ」といった親和性が向上する結果です。インターネット動画広告では、「自然な」「企業や商品に親しみがわく」がいずれも300%を超えており、親近感を醸成させることで広告に対する嫌悪感を緩和させる効果が期待できます。SNS広告との組み合わせでも「自然な」が300%を超える他、「内容がわかりやすい」も高く、広告内容の理解促進につながることが期待できます。
このように、統合プランニングの中に新聞広告を加えることで、新聞が持つ情報・広告特性だけでなく、二次的な付加効果も期待できることがわかりました。これは、単に新聞広告単体の効果が高いからでなく、他メディアで実施する施策との相乗効果の働きがあることを示しています。こうした統合的な観点で新聞広告を見直すと、費用対効果の評価も違った結果になるのかもしれません。
結果を振り返って
今回は、筆者の最新の研究知見から、各メディアの役割を再考しました。その中で、新聞広告の新たな役割が浮かび上がってきました。新聞広告を読者が能動的に見る特性があることは、新聞広告共通効果検証フレームであるJ-MONITOR調査での「自由回答設問への文字量の多さ」からも実感します。
筆者の研究では、「自由回答における文字量の多寡が、広告効果の大小と関連していること」が明らかになっています(吉田・石垣,2025)。これらの文字量はコンテンツに対する生活者の熱量の表現として筆者が注目している指標であり、新聞が内容のみならず、情報を載せるフォーマットや生活者に利用される時間帯と言った文脈を備えたコンテンツマーケティングの出稿先として有効になりうる可能性が見えています。
従来、広告のリーチ効果を担ってきた新聞メディアは、環境の変化で新たな役割を持ち始めています。統合プランニングの中で新聞をあらためて評価、活用すべき段階になっているといえるでしょう。本論をプランニングの参考にしていただければ幸いです。
<参考>
- 「クロスメディア効果推計」特許番号:第7329708号(情報処理装置、及び情報処理方法)
- 吉田正寛(2024)「『クロスメディア推計』で可視化するテレビCMとインターネット動画広告のクロスメディアブランドリフト価値」『VRダイジェスト+』(https://www.videor.co.jp/digestplus/article/ad-marketing241025.html)
- 吉田正寛、石垣宏樹(2025)「オーディエンスとの" キズナ" を定量可視化する試み: 新聞オーディエンスの広告に対する反応を通じて」『日経広告研究所報』342号,pp.26-33
株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット シニアフェロー
同志社大学文学部卒業、同大学大学院文学研究科心理学専攻修了。2008年ビデオリサーチ入社。
調査実務やメーカー営業担当、商品企画担当を経て現職。ビデオリサーチ保有のデータを用いたコンサルティング業務に従事。主な専門は広告出稿配分や広告効果検証の分析。