事業活動を通じて継続的に地方創生という社会課題に取り組む

 キリンは、地方創生という社会課題に継続して取り組んでいます。その背景にあるのが、社会の課題解決を通じた企業の成長を目指すCSV経営の実践です。新聞広告で広く告知した「47都道府県の一番搾り」プロジェクトも、CSV活動の一環として全社員が携わっています。

社会課題解決と企業の成長を両立させるCSV経営

林田昌也氏 林田昌也氏

 キリンは、商品やサービスなど事業活動そのものによって社会課題の解決に貢献しながら、企業の成長を目指す「CSV(Creating Shared Value)」を実践している。CSVとは、社会と共有できる価値の創造という意味。キリンの経営の枠組みでもある。

 「少子高齢化や医療の問題、東京と地方の格差など、地域社会には課題が山積しています。こうした社会課題は、言わばキリンの商品を購入するお客様の課題でもあります。そもそも、私たちの商品は、お客様の日常の中で飲まれています。そんなお客様の日常の中にある課題を少しでもよくすることは、ひいては、ビールや清涼飲料を飲む場面を増やすことにつながると考えています。すなわち、社会課題の解決は、私たちの事業基盤を強くするのです。CSVと言うと難しく聞こえるかもしれませんが、我々の事業基盤そのものなのです」

 そう語るのは、キリン執行役員CSV本部CSV推進部長の林田昌也氏。

 キリンはこれまで、飲酒運転をなくしたいという思いからノンアルコール飲料という新市場を作ったり、健康への配慮から糖質オフの商品を開発したり、事業を通じて社会課題に取り組んできた。47都道府県の名産品が当たる「選ぼうニッポンのうまい!」キャンペーンや、岩手県遠野市でその年に収穫したホップだけで作る「一番搾り とれたてホップ生ビール」なども、地域貢献とビジネスを両立させた事例だ。こうした取り組みを、現在はCSV活動と位置付けている。キリンは、東日本大震災の復興支援をきっかけに、CSVを経営の枠組みとして本格的に実践するようになった。

 「キリングループでは東日本大震災復興支援として『復興応援 キリン絆プロジェクト』を立ち上げ、まずは農業機械をはじめ、さまざまな物理的支援をおこないました。ハード面が充足してきた後は、生産物のブランド育成や販路拡大、地域の農業をはじめとする産業の担い手やリーダーの育成など、ソフト面の支援へとシフトしていきました。その中で、継続して支援をするためにも、自分たちのビジネスとつなげていく必要があると考えたのです」

 福島県の梨や桃を使った「キリン氷結」は、放射能の風評被害で苦しむ果実農家の支援として始まった。放射性物質の検査をした上で商品原料として採用することで、福島の農家はキリンの商品を通じて安全性をアピールでき、メーカーとしても売り上げを伸ばすことができた。そして、福島産の桃を使った「キリン氷結 もも」は、2016年から通年商品として販売している。こうした震災復興にひもづいた事例やそれまでの様々な取り組みを、改めてCSVの視点で整理したという。

社員全員が関与した47都道府県一番搾り

 飲料メーカーであるキリンが特に注視する社会課題は主に3つある。「地域社会への貢献」「健康の増進」「地球環境への取り組み」だ。その中でも特に地域社会への貢献は、最重要課題と位置づける。「47都道府県すべてに営業の拠点があります。地域に密着することは営業のテーマ」と林田氏は言う。今年5月から10月にかけて順次販売している「47都道府県の一番搾り」は、全国の地域の人たちと一緒にそれぞれの地域の魅力を発掘し、各県オリジナルの一番搾りを作るという、地域密着型のプロジェクトだ。

 「昨年、全国9つのビール工場で働く9人の醸造家がそれぞれ地域ならではの味覚に合わせて作った“地元うまれ”の一番搾りを発売しました。『仙台づくり』や『横浜づくり』など、地域ごとに素材や味に特徴を持たせたところ、大変なご好評をいただき、47都道府県すべてに展開することにしたのです。今度は、より地域とのネットワークを深めていこうと、飲食店のオーナーやマスコミ、自治体の方、サッカーチームの監督や大学生など各地域の様々な方とともに、共創ワークショップを全国で実施し、各都道府県の県民性や地元の魅力について一緒に考えました」

 1月3日には、47都道府県ごとに異なるクリエーティブでの新聞広告を、全国紙と地方紙に一斉に掲載し、プロジェクトの始動を大々的に告知。朝日新聞には「東京づくり」「大阪づくり」「福岡づくり」の3パターンを掲載した。嵐のメンバーを起用した47バージョンの広告は、SNSでも大きな話題となった。

 「47都道府県それぞれのメッセージを各地で浸透させていくためには、じっくり読む媒体である新聞広告が最適だったと思います。掲載後の反応は、通常のキャンペーンとは違った盛り上がりを感じました。都会で暮らす人も自分の地元のビールを話題にしていたり、愛着を感じてくれていたり。発売後の調査でも『一番搾りのブランドの印象がよくなった』との回答が半数以上あり、親近感を感じるという意見も多く寄せられました。地域に密着したプロジェクトで企業努力が感じられると、地方創生を踏まえた好意的な意見もありました。売り上げだけでなく、ブランディング効果も高かったことが分かっています」

 最後に今後の展開について、林田氏はこう締めくくる。

 「絆プロジェクトの1つ、地域のプロジェクトの担い手やリーダーを育成する『東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト』は、『地域創生トレーニングプロジェクト』と名前を変えて日本全国に広めていく予定です。地方創生に欠かせないのは、なんと言っても地元をなんとかしたいと本気で取り組む人材の力です。人材の育成やネットワークづくりなど、私たちもビジネスと絡めながら携わっていけたらと思っています。『47都道府県の一番搾り』のプロジェクトを、さらに来年はどう発展させていけるか、今は計画を立てている段階です。このプロジェクトは、ほぼ全社員が関与し、CSVについても社内ではだいぶ理解が深まってきています。私自身のゴールは、CSV推進部長である私が必要でなくなること。CSVが当たり前のものとなり、誰もが自然に取り組めるようになることが理想です」

2016年1月3日付 朝刊(東京本社版) 2016年1月3日付 朝刊(東京本社版)
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