子世帯の共働き化と生活基盤の強化が背景 増えている「二世帯住宅」

 1972年に創業、その翌年から二世帯住宅の研究を開始した旭化成ホームズの「ヘーベルハウス」。「二世帯住宅」という言葉も同社が発案し、世に送り出した。親・子・孫が住む二世帯住宅のニーズをどのように捉え、商品に反映してきたのか。最近見られるトレンドは何か。マーケティング本部営業推進部課長の中村干城(たてき)氏に聞いた。

子ども世帯が若いうちに計画  親の資金援助が増加

中村干城氏 中村干城氏

──二世帯住宅の近年の傾向は。

 当社の二世帯住宅の定義は「キッチンが2つあること」です。この定義で、全体受注に占める割合は20%強、二世帯が住んでいてもキッチンが1つという場合も入れると比率はさらに高まります。受注のピークはバブル期で、地価の高騰に伴い自分たちでの土地購入をあきらめ、二世帯同居を選択する子世帯が増えましたが、バブル終焉(しゅうえん)と共にしばらく減少しました。ところが近年、再び二世帯が増え始めています。直近の受注推移は、2010年度1,658棟、11年度1,750棟、12年度1,930棟と着実に増えています。

 二世帯が増えている主な要因は、次の3つが考えられます。第一に、子育て世代の共働きが一般化していること。第二に、娘夫婦との同居の増加。そして配偶者を亡くした高齢の父か母との同居の増加です。

 子育て世代の共働き化は、長引く景気低迷による子ども世帯(子世帯)の収入減も要因として挙げられます。娘夫婦との同居は、働く娘さんが増えていること、母と実の娘の関係にはストレスが少ないことなどから、創業期2割程度だった比率が4割を占めるまでになっています。高齢の片親との同居は、「夫婦で支え合っているうちは心配なかったが、一方が亡くなったので面倒をみたい」という、子世帯の意向を反映したもので、高齢化の進展とともに増え続けています。

──住宅購入の資金繰りの内訳は。

 「土地は親世帯」「建物は子世帯」という図式は今も昔も変わりません。ただ、子世帯が、十分に貯蓄がない若いうちに親との同居を希望し、親世帯が建物に関しても資金援助するケースが増えています。これも共働きの増加が関係しています。そもそも住宅の建て替えや新築には、間取りの検討などに、ある程度のまとまった時間が必要です。しかし働く女性がそうした時間を持てるのは、育児休暇で仕事を休んでいる間です。子どもが小さいうちに二世帯住宅に住めれば、家事や育児において親からの協力を得やすくなります。子世帯の妻の専業主婦の割合が高かった時代には見られなかった「住宅購入計画の前倒し傾向」が、共働きによる有職主婦率の上昇と共により顕著になっているのです。

──商品設計において、最近増えているケースは。

 ひと昔前は、親子世帯の完全分離型の間取りが歓迎され、「生活を分ければ気持ちがくっつく」というコンセプトのもと「ナイスセパレーション」という言葉を使ってプランをアピールしていました。好まれたのは、1階に親、2階に子・孫が住み、2階には外階段で上がれて玄関が別々、というような作りです。ただ近年では、共働き夫婦に代わって育児や家事を受け持つ祖父母にとっては、そうした間取りは不便でもあります。一方で、親世代の中核を成す団塊世代は独立心が旺盛で、「四六時中孫とベッタリは勘弁して」という方も少なくありません。

 そこで当社では、必要なときには二世帯が融合し、お互いの時間も尊重できる「i_co_i」(イコイ)という商品を打ち出しています。「交流空間」「協力空間」「自分空間」を持ち、3世代がそれぞれ快適に過ごせる住宅です。

──具体的な提案内容について、聞かせてください。

 例えば、「子世帯が共働きの場合、孫のものを取りに祖父母が頻繁に孫の部屋に出入りする」という調査データがあります。そのとき、子世帯の住空間を通るのは、いくら親子とはいえ気兼ねしてしまうので、親世帯がアクセスしやすい場所に、孫の部屋を配置する「孫共育ゾーニング」というプランを提案しています。さらに子世帯が共働きの場合は、日中は祖父母の住空間で孫の面倒を見るケースが一般的です。その際、「孫と遊ぶのも勉強を見るのも楽しいけれど、ダイニングテーブルを散らかされると困る……」という親世帯の意向もあり、リビングの一角に孫と共用できるデスクコーナーや遊び場兼お昼寝用にも使えるタタミコーナーを提案しています。

団塊世代には「同居」でなく「集居」 親子で読める新聞広告で提案

中村干城氏

──3世代攻略のポイントは。

 これから増えるであろう暮らし方、時代の少し先を見越した住まい方を時代に先駆け、どう一般化させるかということが一つのカギで、当時は少なかった「娘夫婦との同居」にしても、80年代にすでに広告で語り始め、今では受注の半数弱を占めまでになりました。一方で、暮らしに身近な等身大の提案も大切にしています。例えば「室内物干しコーナー」は、共働きが増え、夜の洗濯が一般化してきた家事スタイルに合わせた提案です。「一歩先を行く暮らしへのあこがれ」と「等身大の暮らしへの共感」、この両方を3世代攻略のポイントに据えています。

 もう一つのポイントは、団塊世代へのアプローチです。先ほども触れたように、この世代は独立心が旺盛で、精神的にも肉体的にも若い。昔は高齢者に響いた「バリアフリー」といった言葉が彼らに響かない代わりに、「オープンキッチン」などおしゃれな響きには敏感です。核家族化をけん引してきた世代なので、「同居」という言葉そのものに抵抗を感じる方もいます。当社としては、主体的なニュアンスの強い「集居」という言葉を使い、さらには「メリット」というよりも「デメリットの少なさ」を紹介しながら、様々な選択肢がある中でも3世代で暮らす意義をアピールしています。

 二世帯住宅を建てたいと申し出るのは圧倒的に子世帯で、親世帯は基本的に受け身です。ただ、調査をすると、「同居に満足」という親世帯は8割を超えます。面白いのが、「孫との交流で楽しいと思うこと」を聞くと、「近居」の祖父母は、運動会や旅行などイベントを挙げるのに対し、同居の祖父母は、「孫から学校での出来事を聞くのが楽しい」など、日常的なことを挙げます。そうした何げない暮らしの喜びも伝え続けています。

2012年8月24日付 朝刊 2012年8月24日付 朝刊

──重視している告知メディアは。

 計画の起点は子世帯でも、最終決定権を持つのは土地や資金を提供する親世帯だったりします。新聞は、「今朝の朝刊見た?」と親子で情報を共有しやすいメディアなので重視しています。保存しておいて後で一緒に見るというお客様も多くいらっしゃいます。

 また、私たちは共働き家庭の子育てや高齢者の介護など、社会課題の解決に住宅が寄与できる部分が大きいと考えています。社会性の高いメディア、社会課題を訴求しやすいメディアである新聞を通じて「この提案はどうでしょう」と世に問うことも大事だと思っています。

──今後の取り組みについて。

 ここ数年の二世帯住宅は、収入不安、子育て不安、家事不安などを抱える子世帯を応援するメッセージにウエートを置いてきましたが、現在は自分のライフスタイルを大切にしたい団塊世代の視点に立った商品開発やコミュニケーションに注力しています。また、3世代の縦の関係だけでなく、2.5世帯(2世帯+未婚の息子・娘)など、横の関係を含めた家族形態についても提案しています。これからも「時代の少し先を見据えた住まい方」を探っていきたいですね。