被災地を洗濯で支援する「アリエール あなたにエールを。プロジェクト」

 東日本大震災は、被災者から「当たり前の日常生活」を奪った。そのひとつが毎日の洗濯だ。日用品メーカーとして洗濯洗剤を販売するP&G(神戸市)は、洗濯で被災地を支援している。同社ブランドオペレーション ブランドPRスペシャリストの羽牟綾子氏に話を聞いた。

奪われた「洗濯」という日常を 少しでも取り戻し、元気を届けたい

――3月11日の大震災を受けた取り組みについて聞かせてください。

羽牟綾子氏 羽牟綾子氏

 震災発生から3日後の3月14日から、子ども用おむつ「パンパース」や生理用品「ウィスパー」などを緊急支援物資として提供を始めました。神戸に本社のある当社は、阪神大震災で被災した経験から、被災直後に何が必要かを的確に判断することができ、迅速な初動に結びついたと思います。その後は、自治体と緊密な連携をとりながら、被災地の要望や状況に沿う形で、物資の支援を続けています。

 緊急支援物資の提供活動と並行し、「グローバルスケールを持つ日用品メーカーとしてできる支援は何だろうか」という検討を始め、当社の各製品ブランドの独自性を生かした活動をすることを決めました。その代表的な取り組みが、「アリエール あなたにエールを。プロジェクト」という洗濯支援です。被災地は上下水道が復旧していなかったり、復旧はしていても電気や水の制限がかかっていたり、洗濯できてもプライバシーがほとんどない避難所では干すスペースがなかったりと、被災者の皆さんは不自由を強いられていました。洗濯というちょっとした日常を取り戻すだけでも元気を出していただけるのではないか、と考えたのです。

 実はP&Gでは、グローバルの「Tide(タイド)」という洗剤ブランドによる「Tide Loads of Hope」という洗濯支援を、ハイチ大地震やアメリカのカトリーナハリケーンといった被災地で実施した実績があります。この活動のノウハウをベースに、今回のプロジェクトの内容を詰めていきました。

――具体的な活動内容は。

 宮城県内の避難所にいる被災者の方々の洗濯物をお預かりし、山形県内に40台の洗濯機を設置したランドリーセンターで洗濯、乾燥を行い、たたんで袋に入れ、翌々日に返却する、というものです。4月26日、宮城県多賀城市の避難所からスタートし、現在は石巻市内と南三陸町の避難所で活動しています。現在までに、のべ15カ所の避難所を回り、3,791回、1万8,300点余りの衣類を洗濯しました(8月11日現在)。

 また、微力ではありますが現地の経済復興に貢献できればと、洗濯スタッフは仙台市の人材派遣会社を通じて現地の女性を雇用しています。被災者の女性の方々も気兼ねなく洗濯物を預けていただけますし、地元の人同士ということで避難所の皆さんも心を開き、安心して利用していただいているようです。スタッフも、自分の家族や家は大丈夫だったけれど、被災者の方々のために役に立ちたいと思っていた人が多く、「こういう仕事があってよかった」と喜んでくれています。

――反響は。

 「きれいな洗濯物を手にすると気分が晴れる」「洗剤の香りに日常を取り戻せた気がした」「乾燥して、たたむところまでやってくれるのはうれしい」、主婦の方からは「毎日洗濯をしていたことを思い出した」といった声が寄せられるなど、非常に喜んでいただいています。洗濯スタッフも、「自分の家族の洗濯をするように、丁寧に洗って、心をこめてたたんでいます」と話しており、そんな温かさが伝わっているのかもしれませんね。

 最初に支援を始めた多賀城市の避難所では、日が経つにつれ回収率が上がりました。最初は様子見だった被災者の方々も、仕上がりに満足してリピーターになってくれる、そこからクチコミで評判が広がるなどして、利用が増えたようです。この避難所はすでに支援を終了しましたが、最後は避難所の方から「もっと大変な状況の避難所で頑張ってください」と励ましの言葉をもらい、スタッフはとても感激していました。

新聞とフェイスブックを組み合わせたコミュニケーションで 被災地以外の人に理解と共感を促す

――6月27日と7月20日、朝日新聞朝刊に全面広告を掲載しました。概要とねらいを聞かせてください。

 被災地での洗濯支援を行う一方で、上下水道が十分に復旧していないことやプライバシーの問題から満足に洗濯ができない被災者の方々がいるという現状を、より広く、多くの方々に知ってもらいたい、と考えました。そのうえで、一般の方々にも参加してもらえる2つのプログラムを用意しました。ひとつは、フェイスブック上の公式ページで活動内容を紹介し、それに対して「いいね!」ボタンをクリックしてもらうことで、その数に合わせて当社が活動資金を増額するというプログラムです。もうひとつは、6月中旬から、スーパーや量販店の協力のもと、当社製品を店頭でお買い求めいただくことによって、その売り上げの一部を「アリエール あなたにエールを。プロジェクト」をはじめとした被災地支援活動にあてる、「東日本エールプロジェクト」です。

 新聞広告を出稿した目的は、被災地の現状をより多くの方に知っていただくため、そして、私たちの洗濯支援の必要性を理解してもらい、参加を促すためです。リーチに優れているうえ、特に朝日新聞のような媒体だと当社の社会的メッセージをしっかりと伝えることができると考えました。こうした活動は、「共感」を得ることが大事です。真摯(しんし)に語りかけるようなコピーワーク、実際に清潔に洗い上がった洗濯物を手に笑顔で喜んでくれている被災者の方々の大きなビジュアルは、きっと読者の皆さんに共感を持って受け止めていただけると期待しましたし、こうしたクリエーティブは新聞広告だからこそ実現できたと考えています。

2011年6月27日付 朝刊 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン 2011年6月27日付 朝刊
2011年7月20日付 朝刊 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン 2011年7月20日付 朝刊

――広告の反響は。

 フェイスブックには「新聞広告を見てきました」というコメントをしてくれる人もいました。「いいね!」は現在約3,800ですが、フェイスブックだけで知っていただくというのは難しいので、新聞広告での告知と組み合わせることで、より多くの方々にこの活動を知ってもらい、支援の輪を広げていきたいと考えています。

――今後の活動の予定、コミュニケーションの展望などについて聞かせてください。

 ここまで活動を進めてきて、当初考えていた以上に復旧、復興には時間がかかること、継続的な支援が必要だということがわかってきました。今後、継続的に被災地支援をするためには、本業や事業の特性を生かした形での支援活動がさらに重要になってくるだろうととらえています。被災地の状況はどんどん変わっていきますので、現地との連携を取りながら、適切な形での支援を続けていく考えです。

 コミュニケーションに関しても、被災地への関心を持ち続けてもらうことが大切です。参加型プログラムが被災地の洗濯支援に役立つことはもちろん、被災地のことを思い出していただくきっかけとして役に立てれば、という思いで、一過性ではない継続的なコミュニケーションを考えていきたいと思っています。