トラック業界の社会的地位向上に不可欠な国民の理解

 全日本トラック協会は、1992年から10月9日を「トラックの日」と定め、毎年各地域で様々なキャンペーンを展開している。一方、時々の課題に応じて全国紙を使った「トラック運送業界の社会的地位向上」を目指す啓発運動も行っている。2008年には燃料高騰に苦しむトラック運送業界に理解を求め、適正な運賃の実現を望む意見広告を掲載した。広報部長の永嶋功氏に、新聞広告をはじめとするトラック運送業界の広報活動の目的や背景を聞いた。

トラックは日本の経済発展を支えるライフライン

――毎年10月に掲載されている「トラックの日」の広告は、毎回工夫を凝らしたビジュアルが読者の目をひきますが、2008年8月に掲載した意見広告は「国民の皆さまへ」とメッセージをストレートに文字で伝えたものでした。

全日本トラック協会 永嶋功氏 全日本トラック協会 永嶋功氏

 この時は、燃料価格が異常に高騰するなかで運賃転嫁が遅々として進まず、業界全体がまさにピンチに置かれていました。事業者の99.9%が中小企業で占められている業界ですから、各企業の自助努力では限界もあり、難局を打開するために、政府をはじめ国民的な理解と協力を求めることが急がれました。現在は当時ほど燃料高騰が社会問題になっていませんが、もともと、トラックの輸送コストやサービスについては、お客様の理解や評価を得にくい側面があります。例えば同じサービス業でも飲食業であれば、おいしい、まずいなどで品質の差が分かりやすいのですが、トラックは時間や荷扱いなど品質管理に様々な苦労があるにもかかわらず、ただ「運べばよい」という話になりがちで、結局、運賃だけで判断されることが多くなってしまいます。このように、もともとお客様との関係では圧倒的に弱い立場にある運送事業者ですが、特に、近年は規制緩和が進み、20年前に約4万者だったトラック運送事業者は、今では約6万3千者と1.5倍に増加しており、事業者間競争も一層厳しさを増すばかりです。

 加えて、この10年あまりの間は、環境規制に対応するため、厳しい金融・経済情勢のなかで、車両代替を進めてきたこともあり、コスト削減や資金繰りも限界に達しています。こうした差し迫った状況下では、事業者の経営努力だけで健全な経営を維持していくのは非常に困難です。そこで、国民の理解、政府や運輸行政の理解、そして何より荷主さんの理解が不可欠であり、そのために全国紙を活用した意見広告という手法をとりました。

――コンビニやネット通販など生活スタイルが進化した中で、そのきめ細やかな物流を支える「トラック」について、生活者が意識する機会は確かにあまりありませんね。

 私たちには、これまでの日本経済の発展や国民の皆様の生活をトラックが根底で支えてきたという自負や誇りがあります。国内輸送の市場規模をみると、トラックの営業収入合計は約14兆円、第2位の内航海運(船舶)は8,600億円とトラックのおよそ15分の1です。さらに鉄道は1,200億円で100分の1になってしまいます。狭い国土に人や経済活動が集中する過密社会の日本では、機敏で小回りのきくトラック輸送が最も適しているといえます。

 また、トラックは日本人の国民性や生活文化とも密接なつながりをもっています。日本人は生鮮品や食料品に常に鮮度を求めます。街なかの食堂や居酒屋さんでも、生の魚を普通に安心して食べられるというのは、世界でも日本ぐらいではないでしょうか。コンビニでもお客様は半日時間がたったおにぎりはよけて、入荷したばかりのものを選びたがるでしょう。このため、少量多品種の食材を品質を保ちながら日に何度も届けることで、私たちの快適な生活が成り立っており、それを陰で支えているのはトラックなのです。

 一方、トラックに対するさまざまな誤解もあります。例えば環境問題でも、営業用トラックが排出するCO2の量は日本全体の3.4%にしか過ぎず、トラックの総排出量はむしろも減少傾向にあり、運輸部門ではトップランナーとして評価されています。にもかかわらず、一般の方々の間では、かつての黒煙を排出し、大気を汚染するイメージが根強く残っており、こうした誤ったイメージをなかなか払拭(ふっしょく)できません。

 トラックドライバーの社会的地位にしてもしかりです。現在、車両総重量5トン以上のトラックを運転するためには、少なくとも中型免許が必要で、これは20歳以上で、普通免許を取得してから2年以上経過しなければ取ることができません。さらに、大型トラックとなると車体が大きく、走行距離もそれなりに長くなるため、乗用車に比べてはるかに高い運転技術や知識が求められます。それほど厳しい資格や技術が必要な仕事であることを、社会からは意外に理解されていません。時には数千万円から億単位の価値がある荷物を任され、毎日何時間もあの大きなトラックを運転する、タフで驚異的な技量の持ち主たちなのです。

2008年8月26日付朝刊 全日本トラック協会の意見広告2008年 8/26 朝刊
2009年10月9日付朝刊 全日本トラック協会2009年 10/9 朝刊


広報は「スピーカー」プラス、「アンプ」機能も

――伝えたい思いがさまざまある中で、「トラックの日」の広告について心がけていることは。

 広報活動は「スピーカー」と良くいわれますが、その効果を何倍にも増幅させる「アンプ」の機能も重要だと考えます。重要なメッセージや素材を効果的にアピールするためには、そのためのパワーや品質も求められます。それに、全日本トラック協会は業界の中央団体として、メッセージを全国的に均一に到達させる役割を担っています。このため、「トラックの日」や先ほどのような国民全体に向けた緊急的なメッセージ広告に関しては、メーンの媒体として全国紙を積極的に活用しています。

 テーマは毎回、広報委員会で決定しますが、一昨年までは、燃料高騰を背景にしたテーマが続きました。昨年は、これが一段落したこともあり、あらためて原点に立ち返り、「トラックは国民生活の重要なライフラインのひとつ」というメッセージを打ち出しました。私たちの身のまわりにあるほとんどの物は、トラックが運んできたものだと言っても過言ではないでしょう。私たちは、トラックが生活に不可欠な公共サービスであることをアピールしています。船や鉄道で運んできたものでも、末端の輸送はほとんどトラックが担います。また、緊急災害時に電気、水道、ガスといったいわゆる生活のライフラインが止まっても、水や食料をはじめ、医薬品、毛布、テントなどの救援物資を運ぶトラックがまさに命綱としてのライフラインの役割を果たします。

――広告をデザインする時のポイントはどんなところですか。

 新聞広告やポスターにしても、読者の方々の目に留まるかどうかは最初の2~3秒が勝負だと考え、メッセージをできるだけ絞りこむようにしています。例えば、コスト抑制の限界を示すために、トラックを水の出尽くしたタオルのようにデザインしたり、業界への重圧を象の足で表現したりするなど、読者の方が瞬間的にハッとするようなアイデアを駆使しています。もちろん伝えたいことはその都度たくさんあるのですが、すべてを伝えようとすればいくらスペースがあっても足りません(笑い)。

――反響はいかかですか。

 私たちのターゲットは大きく分けて5つあります。1つは生活者全般、2番目は業界のお客様となる荷主サイドの方々、3番目は傘下会員事業者、4番目がトラック関連の政策に携わっている政府・行政機関をはじめ、地方自治体、研究機関などの専門的な政策分野の方々、そして5番目がメディアです。毎回、それぞれにメッセージをどう受け止めてもらえるかを考えながらバランスをとり、テーマやタイミングに応じて比重を変えています。

 直接反響が届くのは一般の方々が多く、「トラックが国内貨物の9割以上を担っているなんて知らなかった」といった声もよく耳にします。特に朝日新聞には、新聞のステータス性を期待しており、読者に対して情報の信頼性を高めてくれていると思っています。また、「自分たちの仕事を理解して、協会もきちんと取り組んでいる」ということが会員にもっとも伝わるメディアのひとつだと思っています。

――今後の取り組みは。

 「トラックの日」の広告展開は、今後も継続的に続けていきたいと思っています。私たちの広報活動というのは企業の営利的活動とは異なり、公共的な使命を帯びています。目に見えている事象だけでなく、その裏側にある実態やそれまでの経緯などについても、正しく、しかも広く伝えることが求められます。ですから、報道に携わる各メディアの方々には、日頃からじっくり時間をかけて伝えることを繰り返しています。例えば、事故報道ひとつをとっても、ドライバーや事業所の責任に注目するだけでなく、どのような荷物をどのような状況のなかで運んでいたかといった点や、日本の過密で特殊な道路交通環境など、様々な見地からご理解いただくようにしています。経済やくらしのインフラであるトラックについて、国民の方々にもっと知っていただくということが、これからの日本の健全な発展につながっていくものと思っています。