奨励賞「楽しみを売るマーケティング」

 大型二輪市場で根強いファンを持つハーレーダビッドソン。ハーレーダビッドソン ジャパンは、「楽しみを売るマーケティング」が高い評価を得て、奨励賞を受賞した。同社最高顧問の奥井俊史氏と、代表取締役の福森豊樹氏に話を聞いた。

ハーレーを所有する喜びや楽しみ
ライフスタイルを伝える

奥井俊史氏 奥井俊史氏

――表彰の対象となった「楽しみを売るマーケティング」について聞かせてください。
 国内の競合他社は大手企業ばかりという環境にあって、私たちは「比較せず、挑まず」と思いながらも、いかに商品特性に合ったマーケティングを展開するかに取り組んできました。では、ハーレーダビッドソンの特性とは何か。ハーレーダビッドソンはオートバイという乗り物ですが、輸送するための手段、ツールではない、ということです。ハーレーを持った楽しみや、ハーレーを介在させたライフスタイル、そして一世紀以上にわたる歴史を共有できる喜びが、魅力であり特性なのです。それをマーケティングの基本に置いたのが、私たちが実践してきた「ライフスタイルマーケティング」です。
 いかに楽しい世界を知っていただくか、そして満足していただくか。そのために、たとえばカタログひとつとっても、単に性能やスペックを並べるのではなく、五感に訴える構成や見え方にしています。また、購入者には購入時に「LIFESTYLE BOOK」という冊子をお渡ししています。「出会う」「乗る」「創(つく)る」「装う」「知る」「選ぶ」「愛(め)でる」「競う」「海外交流」「満足」の10の切り口に分けて、ハーレーダビッドソンを持つことで得られる楽しみを紹介しています。

福森豊樹氏 福森豊樹氏

――イベントに力を入れていますね。
 五感に訴えるには、体感してもらうことが一番。実際に商品や世界観に触れてもらえるイベントは、当社のマーケティング戦略の基本であり、中心です。大小含めると、全国で年に50~60回は開催しています。
 もっとも大きなイベントが、静岡県の富士スピードウェイで年1回行う「富士ブルースカイヘブン」です。全国からオーナーが自分のハーレーに乗って集まってきます。98年から始まり、今年で11回目を迎えました。昨年は10回目の節目の年ということもあり、約3万人が来場しました。スタントライダーの走りを間近で見られたり、ハーレーの歴史に触れたり、さらにイリュージョンショーや花火大会もありと、盛りだくさんです。もちろん、最新モデルの乗り比べなど、体感できるプログラムもあります。キャンプやバーベキューもでき、アウトドアな雰囲気があふれる中、たくさんの家族連れのライダーが楽しんでいます。
 私たちはこのビッグイベントを、企画から会場運営まですべて自分たちの手で行っています。ユーザーの中に入っていき、近い存在にならないと本当のニーズを知りえないし、楽しみを伝えることもできないからです。そのためには手作りであるべきだ、と考えています。

全国からハーレーオーナーが家族や仲間と集まる
「富士ブルースカイヘブン」
会場では花火大会などのイベントも

――販売店との協力体制、情報交換などにはどのように取り組まれていますか。
 現在、137社202拠点の正規販売網があります。実際の顧客接点があるのは販売店ですから、私たちの考え方や戦略を共有し、“協働”していきましょうと明言し、関係を築いてきました。店頭の試乗イベントも頻繁(ひんぱん)に行われており、お客様にハーレーを五感で感じてもらうために、販売店の協力は大きいと考えています。お客様とも販売店とも、短期にわかりあえるものではありません。本社とお客様、本社と販売店が、つながりを大切にしてきた結果、ほかにはない「きずな」が結ばれたものと感じています。


新規ユーザーの開拓はもちろん
既存顧客の満足度も高めていきたい

――広告などのコミュニケーションについて聞かせてください。
 私たちは、大型オートバイをより幅広い層に楽しんでもらいたいと考えていますが、非常にニッチな商品であることも事実です。本当に大型オートバイが好きな人に的確に訴えるには、専門雑誌が効果的です。地元を中心としたイベントの告知には、地方紙の即効性があります。テレビの全国ネットや全国紙などでも、パブリシティーは打ってきましたが、広告については一過性のものになってしまう可能性が高い、ととらえてきました。
 しかし一方で、全国レベルでの情報発信の必要性も強く感じています。私たちはこれまで、日本におけるオートバイに対するイメージを払拭(ふっしょく)しようと取り組んできました。日本では「暴走族」「騒音」など、悪いイメージを持っている人も少なくないのです。本国アメリカ同様の、まさにライフスタイルに根ざしたハーレーダビッドソン文化を作っていくために、効果的な取り組みを検討していく考えです。

――今後の展望を聞かせてください。
 おかげさまで、国内大手競合が多い中、19年連続で増収増益という結果を出してきました。とはいえ、まだまだ開拓の余地があると見ており、潜在需要をどうフォローしていくかが課題です。一方で、ハーレーダビッドソンの現在の国内保有台数は約16万台以上、2台以上持っている人も少なくなく、総台数は14万台に上ります。2台目以降を購入いただく場合、ほとんどが買い替えではなく、新たに買い足してくれているのです。そのようにハーレーを愛してくれる既存のユーザーの皆さんの満足度向上や、アフターサービスの充実にもますます力を入れていきたい。いつまでも乗り続けていただける商品やサービスを提供していきたいと思います。
 

購入者に渡される「LIFESTYLE BOOK」
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