半世紀を超える時を経て、地球に帰ってきた『星の王子さま』。けがれのない心と深い洞察力を持つその瞳に、世界はどのように映るのだろうか。東芝は、地球環境問題に取り組む企業姿勢を、基幹事業であるエネルギー関連の取り組みを通じて訴えるシリーズ広告を昨年8月から展開。世代を超えて愛される『星の王子さま』の世界観を大切に生かし、物語的な余韻のあるメッセージを発信している。広告部国内広告担当主務の上木尚子氏にお話をうかがった。
東芝らしさが出る環境広告
── 東芝の環境活動と、そのコミュニケーション活動の概要についてお聞かせ下さい。
東芝では、事業活動の根幹に据えるCSR経営を行っていくための理念として、「地球内企業として責任を果たす」という考えを掲げて環境経営に取り組んでいます。
東芝は、最終製品だけでなく、製造プロセス、資源利用のあり方など、環境問題と様々な接点を持ちます。これまで、これら一つひとつの環境への影響を計り、低減していく活動を長い年月をかけて深めてきました。東芝グルーブとして「環境ビジョン2050」を策定し、2050年度までに環境効率を2000年度比の10倍にすることを目標として設定しています。
──「星の王子さまと地球のはなし」シリーズが生まれた背景は。
環境負荷低減のための個々のソリューション紹介も大事ですが、幅広い事業をもつ企業として、東芝らしさを立体的にお伝えしたいと考えました。多くの企業が環境対応をうたう今日、「エネルギー」というテーマは、東芝らしさを最も表現できるものです。
弊社の環境への取り組みには、発電システムをはじめとする「エネルギー」と、省エネ製品という「エコプロダクツ」、そして工場・オフィスでの省エネやCO2削減などの「エコプロセス」という3つのアプローチがあります。全体の取り組みにつながりを持たせるために、「星の王子さま」を用いてストーリー性のある展開にしたいと考えました。
「王子さま」を代弁者にしない
──『星の王子さま』に託したものを、改めてお聞かせ下さい。
『星の王子さま』は、自分の星を大事にしていて、本当に大切ものは何かをきちんと分かっています。それは東芝の取り組みと重なり合うものですし、「この星のエネルギーとエコロジーのために。」という言葉も、原作の世界を大切にしながら議論を重ねていく中で出てきた言葉でした。
「星の王子さま」の魅力には、まず、キャラクターと物語が世界中で愛されているということがあります。そして子供たちに親しみのある童話でありながら、内容的には哲学的な深みをもつ大人の物語でもあり、幅広い層にメッセージを伝える力を持っています。
── 思い入れの深い読者の多い原作だけに、クリエーティブには繊細な配慮が必要かと思いますが。
基本、原画をいじらないというのが、シリーズの大原則です。王子さまからのメッセージは、毎回ヘッドコピーに凝縮しています。
王子さまの役割は、東芝の代弁者なのではありません。私も新しい原稿を作る際に本を何度も読み返していますが、「星の王子さまだったら、どういうふうに考え、何を言うだろうか」と考えながら制作スタッフの方と議論を重ねています。原作への思いはスタッフのおのおのにもありますし、コピーが決まるまでの試行錯誤には大変なものがあります。
読者の方には、ご自身なりの思いで王子さまの言葉を受け止めていただきたいと思っています。東芝の取り組みは、その答えとしてボディーコピーでお伝えするという構成です。
親子を巻き込み「気付き」を与える
── 読者からの反響は。
当初から、親と子が一緒に読んで考えていただけるシリーズにしたいと考えていましたので、反響はとても気になりましたが、思いがけないほど多くの好意的なご意見や応援の声を特設サイトにいただきました。お子さんはお子さんなりの心で、王子さまが悲しまない地球にするために、自分には何ができるかを考えるきっかけになったと実感しています。
── キャンペーンの今後の展開について、お聞かせ下さい。
ただ目先を変えるのではなく、エネルギー、エコロジーと東芝との関係という大きなテーマを、繰り返し、丁寧に伝えていきたいと思っています。また東芝の姿勢をお伝えすることも大事ですが、地球環境の現状を皆様に考えていただき、アクションを起こす「気付き」になることが、このシリーズの大切な役割です。私たちの企業姿勢を理解していただくために理念をきちんと伝えらえる新聞メディアを中心に展開してきましたが、その基本方針は、今後も変わらない予定です。