話題の人気小説と共通する世界観で、研究にかける熱い思いを発信

 人気作家・池井戸潤さんが直木賞を受賞した大ヒット小説『下町ロケット』の続編『下町ロケット2 ガウディ計画』が、朝日新聞朝刊広告特集で連載された。町工場がその技術力と情熱で人工心臓弁を開発する熱き物語と、まるで連続するストーリーのように、最先端医療への取り組みを伝える広告が花を添える。「技術で、人を救いたい。FUJIFILM」のシリーズ広告だ。

自社の技術を応用してヘルスケア分野へ――。小説と一致した世界観。

松本考司氏 松本考司氏

 「『下町ロケット』の舞台の佃製作所が、ロケット技術を応用して人工心臓弁を開発するという今回のストーリーと、写真やフィルムの技術を使って医療等のヘルスケア分野への挑戦を続ける当社と、似通った部分があります。朝日新聞社からこの連載紙面での広告の出稿の提案をされ、 これはいいお話だ、と。富士フイルムがヘルスケア分野の研究に力を入れているという認知を広げられるのでは、と期待しました」

 出稿の経緯について、宣伝部長 兼 富士フイルムホールディングス・コーポレートサポート部・ブランドマネジメントグループ長の松本考司氏はこう説明する。

 広告を掲載したのは、連載小説の最終回に至る最後の3話が載った紙面(12月28日~30日)と、連載を終えた池井戸さんのインタビュー記事が載った紙面(1月4日)。「最終回へのクライマックスで注目度が高く、さらに年末年始の時期だったので、ゆっくり読んでいただけるという点で、最適のタイミングと考えました」(松本氏)

 クリエーティブでは、iPS細胞治療の実用化への挑戦、インフルエンザの検査技術、iPS細胞の創薬プロセスソリューション、レーザー経鼻内視鏡技術、アルツハイマー治療薬の研究と、同社が取り組む医療分野の五つの研究を取り上げ、実際の研究員の姿とともに、研究開発にかける思いがつづられている。そして「技術で、人を救いたい」という力強いコピー。

 「研究員が出てきて当社の技術を伝える『世界は、ひとつずつ変えることができる。』という企業広告をテレビCMなどで展開しており、今回の新聞広告も当初はこの形でと考えました。しかし、池井戸さんが描く小説の世界は、ヒーローが悪者をやっつけて壁を乗り越えていく勧善懲悪が魅力。これまでの広告は技術にフォーカスしていましたが、池井戸さんの作品の世界観を表現するため、『人の熱量』のような観点を加えたいと考え、『技術で、人を救いたい』という新たなコピーを採用したのです」(松本氏)

 小説と同じ紙面ということで、文字が多すぎると読者に読んでもらえない懸念もある。クリエーティブでは、研究者の実直さや意志の強さが感じられる表情と、研究への熱い思いをシンプルに表現した。紙面には載せきれなかった技術の詳しい内容については、ウェブサイトで展開している。

 注目の連載小説と同じ紙面ということで、新聞広告共通調査プラットフォーム「J-MONITOR」でも好スコアだった。「富士フイルムが医療分野でどのような研究に取り組んでいるのかを知ることができた」といった読者からのコメントも多く、「狙い通りの効果が上がったと捉えています」と松本氏。また、『下町ロケット』の内容と同社の研究が「ずるいぐらいハマっている」という感想もあり、コンテンツとのマッチングが非常にいい結果をもたらしたようだ。年末年始にかけたことで、朝日新聞を購読している社員もじっくりと紙面を読めたようで、「すごくいい」「技術で人を救いたいという、小説の登場人物と同じ気持ちを強く感じた」という社員ならではの感想が聞こえてきたという。

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 2015年12月28日付 朝刊
 2015年12月29日付 朝刊

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 2015年12月30日付 朝刊
 2016年1月4日付 朝刊

チャレンジングなイメージを訴求する「第一歩」に

 ヘルスケア分野への取り組みを知ってほしいという戦略に加え、今回の広告キャンペーンには「実はもう一つ狙いがあった」と松本氏。それは、「チャレンジング」なブランドイメージを伝えること。

 「当社に関する意識調査をすると、『信頼度が高いしっかりした会社』という企業イメージは浸透しているのですが、今回のシリーズ広告では、チャレンジングやイノベーティブという部分を訴求できれば、と考えたのです」。同社は「Value from Innovation」のコーポレートメッセージを掲げ、テレビCMを中心としたコミュニケーションで、技術力を軸に様々なジャンルでの取り組みを発信している。松本氏は「さらに加えて、今後はエモーショナルなイメージの訴求もしていきたい。今回はまさにその第一歩でした」と振り返った。

 多様になるメディアの中で、松本氏は新聞について「読者層が幅広く、かつ、知的好奇心の旺盛な読者が自ら意志を持って積極的に読んでいる媒体。企業広告などメッセージ性の高いコミュニケーションには価値がある」と評価し、こう続けた。

 「テレビCMの15秒、30秒では表現できないことを、新聞は広く深く伝えられます。一方で、紙面はスペースに限りがある。今回も自社サイト内により詳しい情報を発信するコンテンツを設けましたが、今後も伝えたい内容に応じて、オウンドメディア、アーンドメディアなど最適なメディアを組み合わせていきたい。メディアの特性や価値を生かして様々な層に効果的にアプローチしていきます」