池井戸潤氏エッセーの連載でプレミアムなブランドイメージを訴求

 広告特集「作家、池井戸潤。ニッポンを走る」が昨年4月から12月まで毎月、朝日新聞朝刊の紙面を飾った。アウディ ジャパン マーケティング本部 メディアマネジャーの伊藤あんな氏が、企画のねらいや成果などについて語った。

当代きっての人気作家を起用しプレミアムなコンテンツを展開

アウディのフェイスブック公式アカウント アウディのフェイスブック公式アカウント

 この企画は、人気作家・池井戸潤さんが日本各地をアウディでドライブしながら、その地で体験したことなどをエッセーでつづる連載企画だ。この企画に取り組んだ背景には、アウディ ジャパンが抱える大きなマーケティングの課題があった。

 「アウディの日本における認知度はまだ低いのが実情です。『革新的で洗練されたプレミアムブランド』を掲げているのですが、このブランドイメージが日本の消費者には理解しにくいかもしれません。ブランドイメージが伝われば、それにともない認知も高まるはず。まずはブランドイメージをわかりやすく訴求することが重要と考えていました」(伊藤氏)

 そんなとき、広告特集で『下町ロケット』の続編を連載するなど、池井戸氏と関係の深い朝日新聞社から広告特集の提案が。実は、池井戸氏はアウディのオーナーでもあった。

 「手がける数々の作品は認知度も好感度も高く、アウディに愛情を持ってくれている池井戸さんを通じて、アウディのブランドイメージを伝えることができるのではないか、と考えました。」(伊藤氏)

伊藤あんな氏 伊藤あんな氏

 Audi RS 6アバントで宮崎へ、A1で京都へ、R8スパイダーで河口湖へ……。池井戸氏は様々なアウディの車で各地をドライブし、見た風景、体験したこと、触れた歴史などを自らの筆でつづる。池井戸ファンならずとも楽しめる珠玉の紀行エッセーだ。アウディの走り心地を楽しんで、車好きでアウディファンの一面が垣間見られる回もあれば、車については詳しく触れていない回さえもある。実はここにも意図があった。伊藤氏はこう説明する。

 「今の消費者は賢くなっていて、自分とは関係ない広告はどんどん排除してしまいます。そうではなく、車好きはもちろん、興味のない人にも楽しみながら読んでもらいたい。その思いで、あえて広告的な表現はせず、池井戸さんにも車について多くを語る必要はありませんとお伝えしました。単なる広告ではなく、コンテンツとしてクオリティーの高いものを作りたかったのです」

 実際、紙面には、車の写真と控えめなアウディのロゴがある程度。掲載後の調査では「車の広告と気づかなかった」「紀行ものとして楽しめた」というコメントが寄せられ、「ねらい通りでした」と伊藤氏は手ごたえを見せる。さらに、連載していた「下町ロケット」と同日に掲載した際には、小説から広告特集に流れて堪能した読者も少なくなかったようだ。

 連載は9カ月間続いた。これもまた、緻密(ちみつ)なマーケティング戦略だった。

 「単発でインパクトのあるコミュニケーションは、瞬間的にブランド認知は高まるのですが、すぐに落ちてしまう。アウディでもテレビCMを使った大きなキャンペーンを展開していますが、そのいわば『谷間』にも認知を下げないような、長期的かつ継続的な取り組みが必要と考えていました」(伊藤氏)

朝日新聞デジタル特設サイト 朝日新聞デジタル特設サイト

 さらに、このコンテンツをクロスメディアで展開。朝日新聞デジタルにも特設サイトを設け、紙面に掲載したコラムや写真に加え、エッセーで取り上げた店やモノなどの関連情報を毎週アップし続けた。「常に新しいコンテンツを用意しておいて、読者の興味やトラフィックが落ちないようにすることを意識しました。結果、毎週新しいユーザーが増え、ユニークユーザー数もほとんど落ちませんでした。また、朝日新聞デジタルからアウディの公式HPへのトラフィックも増加。仮説ではあるのですが、車に興味がない人も、池井戸さんの文章なら読んでみようかなと訪れてくれたのでは、と見ています」

読者の声を反映させ改善を重ね広告効果を高める

ディーラーで配布したタブロイド<br />※画像はPDFへリンクします ディーラーで配布したタブロイド
※画像はPDFへリンクします

 掲載後は、毎回J-MONITOR(新聞広告共通調査プラットフォーム)の調査結果に基づき、改善を重ねた。たとえば「写真が多すぎて目の置きどころがない」という声があれば、掲載点数を減らしてシンプルかつメリハリのあるレイアウトに変更する、といった具合だ。すると以降、広告接触率や企業認知率のポイントが上がったという。「プリントメディアは効果が数値化できないと言われていますが、長期的な企画の反応を見ながら改善していくことで、効果を高めることができると証明できました」と伊藤氏。ウェブでも何が機能していないかなどを細かくチェック。トップページだけで離脱するユーザーが多い場合には、ボタンの配置や色を変更したり、画像を軽くしてロード時間を短くしたりした。そうすることで、滞在時間が長くなるといった効果があったという。

 タブロイド判も作って販売店に配布したところ、多くの客が手に取って好評を博した。「購入を検討するお客さまにはとてもいいプッシュになったととらえています」と伊藤氏。「日本独自の、しかもクオリティーの高いものを提供でき、トライアルとして非常に良い取り組みでした」と評価する。

 新聞紙面やウェブ、タブロイド、すべての編集やデザインは朝日新聞出版の『アエラスタイルマガジン』が担当し、スタイリッシュでプレミアム感のあるクリエーティブに。「日本の風景の中に溶け込むアウディ、日本人の池井戸さんが語るアウディ、それらを通じてアウディは日本のユーザーの選択肢になりうる魅力的な車だということを伝えることができました」(伊藤氏)

アエラスタイルマガジン アエラスタイルマガジン

 多くのファンを抱えるアウディのフェイスブック公式アカウントでの告知に加え、さらに消費者とのエンゲージメントをはかろうと新たなキャンペーンも行った。ツイッターにアップした車の写真に一言を付けた投稿を募って、優秀な投稿者にプレゼントをするというものだ。「今の時代、ペイド、オウンド、アーンドの三つのメディアを通じ、360度のコミュニケーションをしていかなければ」と伊藤氏。「今回は三つのメディアで立体的に展開できた。これからの課題は、こうしたリッチなコンテンツをアーンドメディアでバズらせることも念頭に置きながら作っていくこと。インスタグラムなどはさらに大きなメディアになっていくと思うので、何ができるのか新たな試みを考えていきたい」と話す。

 成功をおさめた一連のコミュニケーションは、「朝日新聞社、広告会社、そして私たちアウディ、三者のチームワークがあってこそ」と伊藤氏は振り返る。

 この企画の連載は昨年12月で終わったが、「ブランディングはその場しのぎでは効果が薄れてしまう。中長期的に進めていかなければ」と伊藤氏。アウディの認知を広げ、ブランドイメージを訴求していく取り組みは、今年以降も続けていく考えだ。アウディが掲げるスローガンは「Vorsprung durch Technik(技術が革新をつくる)」。革新というキーワードを日本の消費者にどうわかりやすく伝えるか。「それがアウディのマーケティングの永遠のテーマであり、おもしろさでもあります」と伊藤氏。「日本の消費者に向けてどう訳すか。それが私たちのミッションだと考えています」と言葉を結んだ。

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