無添加せっけんを製造・販売するシャボン玉石けんは、6月、朝日新聞に企業広告を2回掲載した。合成洗剤から無添加せっけんの製造・販売に切り替えて40年。節目の年に、新聞広告を活用した意図を聞いた。
周年記念事業の中心に 社員の笑顔の企業広告
福岡県北九州市で創業104年を数えるシャボン玉石けんは、固形せっけんをはじめ、せっけんハミガキやせっけんシャンプー、洗濯用せっけん、台所用せっけんなど、無添加せっけんカテゴリーのパイオニアだ。環境汚染が社会問題化していた1974年に合成洗剤の製造・販売を一切やめ、無添加せっけんに切り替えた。2014年はそれからちょうど40周年になり、6月10日の朝日新聞の全国版朝刊に全30段、次いで同じく23日の朝刊にも全15段の企業広告を掲載した。
同社のマーケティング部長の松永康志氏は、「新聞による企業広告は昨年から構想を練っていました。出稿の主な目的は、長年、当社の商品をご愛用くださっている方に感謝の気持ちを伝えることでした。もちろん、過去にご利用経験のある方へのリマインドや、新規ユーザー獲得も視野に入れています」と話す。
40周年記念事業の主要企画だったのが、社員の笑顔が印象的な6月23日の新聞広告だ。社長や役員も含め、会社を支える社員たちを前面に打ち出した。商品広告ではなく、あえて企業広告として、無添加にこだわり続けてきた企業姿勢をアピールした。
「働いている人たちの顔が見えれば、作り手の温かさやせっけんづくりにかける想(おも)いまで伝わります。だから手作り感を大切にしました。撮影は、早朝に社員に集まってもらいました。工場の外壁に描かれている当社のキャラクター「シャボンちゃん」が背景に写るようにアングルを工夫しました。
初めは表情が硬かったので、笑顔を引き出すのに苦労しました。みんなで歌を歌うなど盛り上げながら撮影しました。前列の社員が持っている横断幕も、マジックで書いた手作りです。おかげで当社の雰囲気がそのまま伝わる広告になりました」(松永氏)。
紙面には、シャボン玉石けんのロングセラーの定番商品である浴用固形せっけん「シャボン玉浴用」を中心に、せっけんハミガキや手洗いせっけん「バブルガード」など多岐にわたる主要な商品写真も掲載した。商品ラインアップも掲載することで、シャボン玉石けんは幅広い商品を扱っているという認知を高めることを狙った。
この前の6月10日に掲載した全30段広告は、音楽家の坂本龍一氏と森田隼人社長の特別対談で、記念事業の一環を紙面にしたものだ。これは1999年、朝日新聞創刊120周年とテレビ朝日開局40周年の記念事業として開催されたオペラ「LIFE」に協賛したのが縁で実現した。このオペラは坂本氏が構想・作曲・指揮した作品だったからだ。この広告は、週刊誌『AERA』(7月19日発売号)にも掲載し多メディアで展開した。
「坂本さんは当時、ファンレターでシャボン玉石けんを知り、先代の森田光德が記した『自然流「石けん」読本』を読んで感銘を受けたそうで、以来15年、愛用してくれています。長年、環境保護活動を続けてきた坂本氏と、当社の姿勢は通じるものがあります。そこで今回、改めて『環境と共生』をテーマに語り合ってもらいました。朝日新聞は関連企業とのネットワークが強いので、それを生かしてもっと多角的な展開ができたらいいですね」(松永氏)
気づきと理解の新聞広告 認知から購買へ促す
これらの広告を掲載した後は、「がんばってください」「応援しています」というような手紙が届いたり、注文の電話で「広告見ましたよ」と言われるなど反響が相次ぎ、狙い通りの成果を得ることができたという。社員の家族からも喜ばれ、インナープロモーションとしての役割も果たした。
新聞以外にも、テレビ、雑誌、商品パッケージとあらゆる角度から、周年キャンペーンを盛り上げている。メディア向けの事業説明会を初めて開催したり、JR小倉駅前でシャボン玉浴用を2千個サンプリングしたほか、一週間に及ぶJR博多駅の広告ジャックも行った。シャボン玉石けんの企業理念に共感し、ご自身やクリニックでもシャボン玉石けんを使用してくれいているナグモクリニックの南雲吉則先生による無添加40周年記念講演会を東京・大阪・福岡でも開催している。
また同社は、ここ数年、新聞や雑誌など活字メディアを重視している。「2013年の調査時点で、東京・大阪・福岡では女性への認知はすでに80~85%近くに達していました。それにもかかわらず、購入・使用経験者はまだ少ないという状況です。企業ブランドは知っていても、商品認知や商品の魅力などの理解が低いことが課題と思っています。そこでしっかりと説明ができる活字媒体を使って、多岐にわたる商品への理解を促し、新たな気づきをもたらしたいと考えたのです」
それ以来、より多くの人に告知したい時や虫歯予防デーなど記念日などを活用して商品を訴求する際は新聞を、ターゲットを絞って訴求する時は雑誌と、目的や読者に応じて活字メディアを使い分けている。
一方、インターネット上で、勝手連的なファンネットを構築する「アンバサダーマーケティング」にも期待する。
「当社の原点はお客さまの声です。初めて無添加せっけんを作った時、先代社長はアンケートはがきを付けたせっけんを1万個配りました。その時にいただいた『おむつかぶれしなくなった』『肌のかゆみがよくなった』などの声をもとに、無添加商品メーカーにシフトしたのです。当社の商品は使用してみてより商品の良さをご理解いただける商品です。そのため、今まで商品使用者などにより、リアルの世界で地道に広めてきた口コミを、これからはネットの力を使ってファンからファンのつながりを構築し、情報がより広がりやすい環境を整えたいと考えています。現在行っているフェイスブックページもその一環です」(松永氏)。
松永氏は、無添加せっけんカテゴリーのリーダーとして、シャボン玉石けんの果たすべき役割は大きいと考えている。
「せっけんメーカーで当社ほど継続して広告を展開している企業は他にありません。『健康な体ときれいな水を守る』という企業理念のもと、人と自然にやさしいせっけんそのものの需要、ユーザーを増やすことが私たちの使命です。ですから、弊社だけでなく、業界全体のためになる広告を作りたい。企業からの一方的なメッセージだけでは、ブランディングにはつながらないと思っています」(松永氏)
商品と共に安心安全の大切さを訴える同社の広告
2010年9月7日付 全7段×2
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シャボン玉石けん 代表取締役社長 森田隼人氏