インテリアやエクステリアなど建築・住宅設備を扱う国内屈指のメーカー5社が統合した「LIXIL」が誕生して1年。トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ、TOEXの総合力を生かし、住まいや暮らしのソリューションを提供する。
「ページ送り」で注目度を高める
昨年度の上期は統合直後とあって、「リクシル」という社名とブランドの認知向上を図ろうと、「リクシルって知ッテル?」と銘打ったコミュニケーションを大々的に展開。人気タレントや俳優を使ったドラマ仕立てのテレビCMなどが大きな注目を浴び、その結果、社名認知度は52%にまで伸びた。続く下期は、「LIXIL」という社名と事業内容とが結びつくよう、「リクシルって知ッテル?」で起用したタレントを継続して使い、内窓、トイレ、キッチンの製品キャンペーンを実施した。「タイの洪水など不測の事態もありましたが、改めて事業内容の認知促進を推し進めています」と語るのは、LIXIL ジャパンカンパニー 宣伝プロモーション部部長の石橋和之氏だ。
新年度スタート直前の3月28日には、朝日新聞に印象的な広告が掲載された。「外のLIXIL」というコピーが配された広告紙面を1ページめくると、「中のLIXIL」が現れるという「ページ送り」の展開。「外」は住宅の外観の写真、「中」は家の中の写真が使われており、そこにはたくさんの「LIXIL」の文字。すべて同社が実際に扱っている商品、ということが一目でわかる仕掛けだ。「家の外も中もひとつの会社の商品でいっぱいになるんだ、という驚きをもって、LIXILの総合力を表現したかった」と、石橋氏は今回のクリエーティブのねらいについて説明する。
2012年3月28日付 朝刊
実は、クリエーティブに使用した2枚の写真は、強いこだわりと、それゆえの苦労が少なくなかったという。
「総合力は表現したいけれど、弊社はあくまでも建築・住宅設備メーカーですので、建設会社やハウスメーカー様の広告と誤解されない『さじ加減』を探りながら、クリエーティブを考えていきました」(石橋氏)
この「オールLIXILの家」は実在しない。CGで合成したものだ。とはいえ徹底的にリアリティーにこだわり、建築家に構造計算をしてもらったうえで図面を起こし、矛盾のないバーチャルの住宅を作り上げた。「たとえ広告の中の世界だとしても、『この家と商品のサイズが合わない』といった矛盾が出てはいけない。定番の商品の実際のサイズと色にこだわったため、クリエーターはかなり苦労していました」と石橋氏は振り返る。
しかし、そのかいあって、読者からは「LIXILの総合力がよくわかった」「家全体のものを扱っている会社と理解できた」といった好意的な声も届いた。さらに、社内からも大きな反響があったという。
「家一棟丸ごとの商材がそろった会社にはなりましたが、トステム出身の社員は、窓については詳しいけれどキッチン周りなどはあまり詳しくない、といった偏りが、まだまだあるのも事実でした。この広告を見て『うちの会社にはこんなにいろいろな商品があったんだ』『これも自社の商品だったと改めて気づいた』と、新鮮な驚きとともに理解が深まったようです」と石橋氏。もともと、「広告にはインナーコミュニケーションの効果も期待している」という。
「LIXILがどんな方向に進もうとしているかを、エンドユーザーだけでなく、流通、販売店や建築業者、そして社員にも伝えていく必要がある。広告メッセージを通じ、これまでのような専業メーカーではなく、5社合併のメリットや総合力を生かした住まい全体を考えた提案、営業をしていくという社員の意識を、さらに高められたらいいですね」
余韻や「?」をあえて残し、読者にゆだねる――
新聞広告ならではの特性を見据えたコミュニケーション
新聞広告に期待する特性について聞いた。
「テレビCMは一瞬の時間の中で、発信側が意図して明確なメッセージを残していくものととらえていますが、それに対して新聞広告は、ある程度読者にゆだねる部分があった方が深みを増し、その結果、メッセージが強く残ると、これまでの経験から感じています」(石橋氏)
今回の広告でも、「生活ではありません。でも、生活のすべてがあります。」「家ではありません。でも、家のすべてがあります。」という、読み手が「?」と感じるようなひねりのあるコピーを用いた。「ストレートな表現ではおもしろくない。あえて、読者に考えてもらう余地を残しました」
ページ送りにしたことも、新聞広告を意識した戦略だ。「実は……」と石橋氏はあるエピソードを紹介してくれた。広告が掲載された当日、電車で移動中、向かい側に座る乗客が新聞を読んでいるところに遭遇したというのだ。
「前のページ(外のLIXIL)をさらっと読み終えた後、その方は、次のページの広告を見た途端、『あれ?』という表情をされ、前の広告ページに戻って、広告全体をしげしげと読んでくれた。ものすごくうれしかったですね」
当初、社内では「見開きの30段のほうがいいのでは」という意見もあったが、「一瞬でわかってしまうよりも、ページ送りにしたことで、読者にいろいろな感じ方や判断をしてもらう何かしらの余韻が生まれるのでは」と考えていたという。電車で見かけた読者の反応を見て、「新聞広告の特性を狙い通り活用することができたと、大きな手応えを感じています」と石橋氏は笑顔を見せた。
この広告からスタートした今後のコミュニケーションについて石橋氏は、「いま現在、マーケティング発想で全体を見直す作業をしています。LIXIL1年目を終えて、できなかったことや課題を明確にして、新たな気持ちで臨んでいます」と今後の構想を語った。